第21話 学校「ガッコウ」
季節は過ぎ去り、11月に入った。
少しづつ冬に向かって進む、気候は肌寒いものへと変わっていった。
「おはよ〜 」
「……おはようございます 」
美奈に起こされて始まる唯斗の1日。
目を擦りながら、唯斗は1階に降りる。そんないつも通りの朝を迎えていた。
「行ってきます 」
「は〜い、いってらっしゃい〜 」
快斗が仕事に向かおうと玄関を出た。何かやる気に満ち溢れている様子だった。
そんな兄、快斗とは反対で、眠そうにゆっくりと準備をしている唯斗。
「お姉ちゃん行ってくるねー! 」
「は〜い、気をつけてねー 」
「莉奈ー、待ってくれー 」
「早くして! あと1分だけね 」
「そんな待てよまだ、朝ごはんだって…… 」
「早くして、すぐに着替えを済ませて、食べながら行けばいいでしょー 」
「しょうがねーなー 」
「私が待ってあげてるんだからね! 」
「はいはい、すぐいきますよ 」
そう言って、唯斗はすぐに着替えを済ませて朝ごはんのパンを片手にした。
「美奈さん、行ってきます! 」
「うん! いってらっしゃい〜! 」
美奈の顔には、以前のような笑みが普段から溢れるようになり雰囲気も、前のような素敵なお姉さんに戻った。
少し吹く風が寒さを運んでくる。そんな曇り空の下、2人は学校へ向かった。
「はぁー、唯斗、あんたは朝もっと早く起きれないのー? 」
「いーや、わかってないな。 美奈さんに起こされる最高の朝。俺はそのために自分から起きていない。起こされるために…… 」
「なにそれ… 気持ち悪い……」
「そんなことないだろ! 」
「あっそー 」
朝からいつも通りの2人だが、前までは莉奈は唯斗を待つことなく、学校へと行っていた。最近は一緒に行くようなことが増えてきた。2人がお互いの気持ちには気づいていないとは思うが、明らかに、行動でも少しずつ変わっていっているのは分かる。
そんな2人も学校に着き、教室に向かうと桃香はもういた。
「桃香おはよー! 」
「おはよう莉奈! 」
「おはよう桃香」
「唯斗も、おはよう! 」
いつものように、挨拶を交わした。
「おふたりさんは今日も一緒なのねー、まったく仲が良いことで〜 」
「桃香ってば! 唯斗がどうしてもってうるさいからしょうがなくきてあげたのよ! 」
「あはは、そうなの? 唯斗ー 」
「いや、どうしてもなんて言ってねえよ 」
「でも、唯斗の行動はどうしてもって言ってるようなもんじゃん! 」
「朝からほんと、元気で仲良しだねー 」
「どこが!! 」
「どこが!! 」
桃香には、もう、この2人は強く印象付いていた。自分が入るスペースなどないと。それでも自分の気持ちを騙せない自分がいた。
唯斗と莉奈が自分の席の方へと言い合いをしながら、向かっていった。
桃香の元へ陸がやってきた。
「おはよう 」
「お、陸おはよう 」
「桃香、前から思ってたけど唯斗のこと好きなの? 」
「ううん… す、好きじゃないよ? 」
「それは完全に図星だな 」
「え、バレた? 」
「当たり前だ 」
「唯斗のこと好きだよ。私はずっと唯斗のことは知ってる。小さい頃からずっと一緒だったし。でもそんな私よりも可愛くて、優しくて、元気で、周りからもモテて、人気がある莉奈が唯斗の側にはいる。私が入る隙なんてないよ…… 」
「桃香の方がずっと前から一緒にいるんだし、唯斗のことも知ってるだろ。もっと自信持っていいんじゃないか? 」
「そんなことわかってるよ。わかってるけど… 私の方が一緒にいる時間は長いよ。幼馴染みだもん。それでももう唯斗は、莉奈のこと好きだと思うよ。莉奈も唯斗のこと好きだと思うし。2人は両思いなのかなー 」
「そうなのか? まぁ僕にできることはなにかあれば言ってくれ 」
「うん、ありがとう陸 」
そう言って陸は、いつものように他愛もない話をしに唯斗の元へ行った。
幼馴染みってことが、どれだけ大切な繋がりでどれだけ大事かなんて当たり前のように分かるけど、それ以上に幼馴染みだからこそ、辛いってこともあるんだよ。それをみんながわかるわけじゃないけど。
桃香の幼馴染みとしての苦悩はそう簡単に解決するものじゃなかった。懐かしい思い出を思い出すほどに、辛くなる。それが幼馴染みを好きになる気持ちなのだろう。
学校が終わり、下校の時間になった。クラスから続々と人が出て行く。
そんな仲、桃香に唯斗は声をかけられた。
「唯斗、一緒に帰ろう 」
「あ、うんいいよ 」
「私も一緒に帰るー! 」
「じゃ3人で帰ろうー 」
桃香は2人で帰りたかった様子だったが、莉奈も一緒に帰ることになり、3人で帰ることになった。
「もうこの夕方の時間だと、寒いねー 」
「そうだなー、11月でももう寒いよな 」
「今年は雪降るかなー 」
「どうだろうなー 」
そんな会話をしながら、3人は足を進めた。
「じゃあね! 」
「うん、また明日ね! 」
「バイバイー! 」
唯斗と莉奈と桃香は分かれて、1人で歩き出した。
桃香の苦悩は誰にも理解できなかった。誰かに邪魔されてるというよりは自分の気持ちにいい加減になってしまうことに対して悔しさや、葛藤を覚えていた。
時間は過ぎて行くばかりで不公平だ。自分の過ごした長い期間よりも半年と少しで、もうあの2人の世界はしっかりとある。そんなことばかりを考える桃香だった。
「ただいまー 」
「ただいま 」
「おかえりなさい〜、あれ? 今日は一緒に帰ってきたんだ〜 」
「唯斗が帰ろうってうるさかったからー 」
「あら、そうなの唯斗くん? 」
「お前なー…… 」
「あはは、違うみたいだね〜 」
「ほんと、素直になれないやつだなー 」
「うんうん、それでもね唯斗くん、莉奈は唯斗くんには素直だよ 」
「そうですかー? 」
「うん、そうだよ〜 」
「うーん 」
「莉奈のこと、これからもお願いね〜 」
「はい、こちらこそです 」
いろいろな想いが交錯する。それでも伝えたい想いはいつか伝える時が来る。君じゃなきゃだめだと。そう気づくのはいつになるのか……
こんな当たり前の日常でも大切にしていかないと、いつか壊れてしまう時が来るかもしれない。そんな時に、彼らや彼女たちはどうするのか。こんな当たり前が贅沢だったことを痛感するのはまだ先のことだが……
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