第19話 大切「タイセツ」


 

「美奈ーー 」



 快斗は美奈の部屋に行ったが美奈の姿はない。


 快斗は二階の違う部屋も探したが美奈の姿はどこにもなかった。


 いる訳がないと、ベランダを見に行ったら、そこには美奈の姿があった。



「美奈…… 」



 快斗はすぐに美奈の元へ行った。



「美奈、ちょっといいか 」


「うん? 快斗くん? 」


「うん、そうだ 」


「話は終わったのー? 」


「終わったよ 」


「そっか〜 」


「ごめん。本当におれのせいでごめん…… 」



 美奈は快斗の言葉を聞いた瞬間涙が溢れ出した。



「ううん。私こそごめんね… 」


「いや、美奈は悪くないんだ。ずっと俺のことを気にしてくれて、ずっとずっと心配してくれていた。なのに、俺は…… 」


「私がしつこいのかもしれなかったね…… 」


「そんなことはないよ。俺は自分の行動がどこか間違っているって気づいていた。それでも認めたくなくて、自分の良いように自己解釈していた。逃げてただけなんだ。唯斗に言われて、もう自分に嘘はつけなかった 」


「良かった… 本当に良かった。」



 終始、美奈の顔には涙が溢れいた。クシャクシャになったにも関わらず美奈の顔は、本当に美しい。月明かりに負けないくらい。



「私も本当に強がったり、めんどくさいことばっかり言ってごめんね。それでもね快斗くんのことずっと考えてたよ… ずっとずっと忘れられないの。 」



「ありがとう…… 美奈… 」


「快斗くん…… 」



 2人の唇が触れあった。2人がキスをするのは2度目だ。しかし、前回のと今回のは確実に違うものだった。それは2人とも確信していた。



「私ね、快斗くんのこと好き…… 」


「美奈…… 」


「会った時から、ずっと気になってた。知りたくていろいろ話して、それでも心を私に開いてくれない。そんな快斗くんでも、私は好き。ずっとこんなにも考えさせられるのは初めてなの。こんな気持ちをもう自分

に嘘つけない。私は快斗くんが好きだよ 」


「美奈…… 俺も美奈のことが好きだ。今ならしっかり言える。俺は今まであまり人を好きになれなかった。それでも美奈は、他人になくて、俺にあるものを教えてくれた。美奈は俺をずっと心配してくれて、俺のことを気にしてくれた。もう俺も、これ以上この気持ちには嘘はつけないよ 」


「快斗くん……! 」



 美奈は快斗に抱きついた。再び溢れ出す涙を拭いながら、2人は月が照らす元で愛を確かめた。



 美奈の甘い声は唯斗を溶かすように見れば見るほど、好きにさせるものだった。



 快斗にとって、本気で人を好きになるのは恐らく初めての出来事だった。今までの自分へのわからない気持ちはそのせいだろう。過去に付き合った人はいるが、好きになったと言えずに自分を騙して付き合ってきたりもしていた。そんな快斗にとって美奈は……




「美奈、それでも今は付き合うことはできない。現状のことを考えると家族のこともある。それだけではなく今は俺は忙しい。仕事もここ最近上手くいかなかった分取り返さないと行けない。今の俺では美奈を幸せにしてあげられない。だから俺をもう少し待っていてくれないか? 」


「うん、私はずっといつまでも、待ってるよ快斗くんのこと 」


「ありがとう美奈 」



 この時、美奈は快斗のことをしっかり理解できたと思っていた。しかし、それは違った。この時の美奈や唯斗、莉奈はまだ快斗のことを全然知らなかった。あんなことが起きるんて誰も予想がつかなかった。それが分かるのはまだ先のことだが。



「あ、1つ聞きたいことがあるけど、いいかな? 」


「うん? 」


「あの〜、キスマークはなんですか〜 」


「あ…… バレていたのか…… 」


「はい。」


「唯斗にも言われたから、もうさすがに聞いているよな。こんなよれていた俺を仕事仲間で同い年の女の子がいて、その子の家にいた。正直、複雑な気持ちだったが。」


「その子とは、付き合ってるの? 」


「いや、付き合っていない 」


「え、付き合ってないのにそんなことしてるのね〜 」


「いや。ごめんって。本当にすいません。許してください。 」


「しょうがないな〜、次はないからね〜 」


「はい。ありがとうございます。」


「でも、その女の子とはちゃんとはっきりさせておかないと、向こうの子に申し訳ないよ 」


「うん、明日しっかりと話す。しっかりと自分の想いを伝えて謝ることにしたよ。多分あいつも気づいていると思うことだけど 」


「うん、そうしてね 」


「わかったよ 」





 一階では……



 唯斗と莉奈が、庭にあるウッドデッキに出て、座りながら話していた。



「お姉ちゃんと、快斗くんは2人とも、もう大丈夫だよね? 」


「うん、多分な 」


「また泣きそうじゃん、やめてよ唯斗ー 」


「ごめん… おれもなんかいろいろと、こみ上げる想いがあってな 」


「そうだよね、でも唯斗本当に色々とありがとうね 」


「うん、こちらこそ 」



 唯斗にとっても、兄にあそこまで言うことは初めてだった。そして近くで見てきた美奈の想いやあの辛そうな顔が浮かんでいた。莉奈の慣れない優しい言葉や、隣にいる優しさが心に響いていた。



 最初は気まぐれに変わっていた2人の想いは、今では、お互いに想いを心に宿していた。しかし、2人がお互いを想い始めていることなど、全く気づくはずもない。



 快斗や美奈、唯斗と莉奈の、時の歯車はいつからくるったのか。正常に戻すことはないのか、留まることを知らなかった。



「ねー唯斗、月が綺麗だね 」


「そうだな…… 」







 2人の視線は、闇を照らす月が輝く空だった…


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