第12話 説明「セツメイ」


 唯斗たちの夏休みも終わりに近づいていた。




 8月下旬のある日のこと…


 唯斗は、幼馴染みの桃香と、高校の友達の陸と3人で集まることになっていた。



 

 太陽が唯斗たちを焼き付けるようにメラメラと暑さが押し寄せてくる。



 砂浜の砂も火傷しそうなくらい熱々になっていた。



 そう、3人は桃香の希望により、海に来ていた。



「私、海久々すぎるー! 」


「僕も久々だ 」


「唯斗は? 」



 桃香からの質問に唯斗は焦った。



 いや、海には言ったけど、莉奈たちとなんて言えるわけがない……



「俺も久々だわ! 」


「ほんと? じゃ、みんな久しぶりで良かったー 」


「そうだな! 」



 俺は桃香には、ちゃんと話したい。でもこんなこと言えるわけがない……




 そんな浮かない表情の唯斗に桃香が気づかないはずがなかった。



「ねー唯斗、やっぱり1学期から思ってたけどここのところおかしいよー 」


「そうかー? 全然何もないんだけどなー 」



 こう言うしかなかった

 いや言えなかった……



 そんなことも3人は暑さを一瞬で変える夏の海に入り、思いっきりはしゃぎ、忘れていた。



 時間もあっという間に過ぎて行き、暑さも和らぎ、オレンジ色に海が染まる夕方に近づいていた。



 3人は最寄駅についた。



「じゃ僕はあっちだから、また学校で! 」


「おーう! 学校でな! 」


「うん! またね! 」



 唯斗と桃香は陸と別れた。



「一緒に帰るのなんて、久しぶりだねー 」


「うん、そうだな! 」



 この時、唯斗は焦っていた。家は変わっている。変わっているどころか、同級生の美少女とその姉と同居しているなんて。



 そして、そんなことよりも想像も全くしていなかったことが起こる。



「あれ? 唯斗くん? 」


み、美奈さん!?……

まずい、ここで美奈さんに会うのは。いや待て、莉奈も!?



「ん、唯斗この人は? 」


「えっとその、えっと 」


「あれ、有村さんもいる! 」


「えっとこれは… 」


「唯斗くんの学校のお友達かな? 」


「はい、幼馴染みです 」


「唯斗がなんで、有村さんたちと? 」


「いやその、桃香、ちょっといくぞ 」


「えっ! 」

 


 唯斗は桃香の手を引っ張り走り出した。



「美奈さーーん、すぐに帰りますから、先行ってて下さい 」


「あ、うん! 」



 唯斗と桃香は近くの公園まで来た。



「つかれた、いきなりどうしたのよ 」


「すまん、いきなり 」


「で、どうしたの? 」


「俺、実は…… 」



 今までのことを桃香に一通り話した。



「えっ!? そんなことが? 」


「うん、そうなんだ 」


「じゃ4月からずっと一緒に暮らしてるの? 」


「そういうことだな 」


「そうなんだ… 」


「ごめんな、ずっと言えなかったんだ 」


「ううん…そんなこと言えないよね…… 」



 桃香が落ち込む理由は明白だ。桃香はずっと幼き頃から、唯斗に想いを寄せていた。唯斗には良いところがたくさんある。それを誰よりも幼き頃から見てきた桃香にとって唯斗は特別だった。


 そんな桃香にとって、今回の唯斗の出来事は衝撃よりも、どうにも出来ない気持ちを抑えられなかった。



「そういうわけだから、誰にも言わないで欲しい 」


「わかったよ 」


「ありがとうな 」


「ううん、大丈夫だよ 」


「じゃ帰ろうぜ 」


「うん 」



 2人はお互い家に向かって歩き出した。


 幼馴染みとしてではなく、1人の女の子として見て欲しかった桃香にとっての、唯斗と同級生の美少女との同居は心情をコントロールできないような出来事だった。




「ただいまー 」


「あら、唯斗くんおかえり 」


「さっきは本当にすいません 」


「いいけど、大丈夫だったの? 」


「はい、大丈夫です 」


「ならよかったよ〜 」



「ちょっと、唯斗こっち来て! 」


「あ、おう 」



 唯斗は莉奈に呼ばれた。



「どうしたんだ? 」


「どーいうこと?あれは 」


「いや、その桃香は幼馴染みで莉奈たちとのこと話してなかったんだよ 」


「違うよ! 」


「え、なにが? 」


「なんで、分からないの? 」


「いや、俺何かしたか? 」


「なんで、友達と遊んでくるって言っておいて、女の子と2人で遊んでるの? 」


「いや、陸もいたんだよ。あと、桃香は幼馴染みなんだよ。小さい頃からの 」


「えっ、そうなの 」


「うん、そうだよ 」


「あっそー、じゃなんでもなーい 」


「なんだよそれは 」


「内緒っ! 」


「よく分からないなー 」


「ほら、お姉ちゃんのご飯もうできるよ! 」


「あーそうだな 」




「うーわ、美味しそうー! 」


「美奈さん、さすがですねー 」



 今にも肉汁が溢れてきそうな厚みのあるハンバーグだった。



「いただきまーす 」


「うん、うまいー 」


「おいしいーー 」


「よかった〜、たくさん食べてね〜 」






 唯斗と莉奈の尖った会話も日に日に丸み浴びているような気もしていた……




 








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