第11話 平凡「ヘイボン」

 

 別荘への旅行が終わり、4人は家に戻って来ていた。


 快斗は仕事も始まり、家をあけることが多くなっていた。


 しかし、以前とは違うのは家に帰ってくることが多くなってきたのだった。





 時は過ぎて、8月中旬になった。暑さは全く和らぐことを知らない。


 セミの鳴き声が外に響き渡る。そんな夏休みを、何の変化もなく送っていた。






 ある日のことだった。




 快斗は仕事に行き、美奈が友達と出掛けて、家には唯斗と莉奈の2人きりだった。


「ねー唯斗ー、もう夕方になっちゃうよ。なんかしようよー 」


「なんかって何するの 」


「それは…… 」


「決まってないのかよー 」


「唯斗が考えてよー!! 」


「えーそれは困るな 」


「なんかお菓子でも作ろうよ! 」


「できんのかよー 」


「できるし! 唯斗も手伝ってよね! 」


「はいはい 」


「やる気出して! 」


「おれ料理できねーもんー 」


「私がいるから大丈夫!! 」


「全く、頼りないな〜 」


「なんでよ!! 」


「うそうそ 」


「ほんと、唯斗って一言余計だよね 」


「すいませんね 」



 なんだかんだ言いながら、2人は仲良く料理を始めることにした。



「で、何作るんだ? 」


「んー… なんかサッパリしたものがいいな 」


「サッパリしたものか 」


「たしか、パイナップルとかがあったから、フルーツゼリーにしよ! 」


「そんなのできるのかよ 」


「やってみるの! 」


「はいはい、わかりましたよ 」



 2人のフルーツゼリーの調理が始まった。



「これってどうやるんだ? 」


「なんで、それやっちゃってるの! 」


「え、何が? 」


「順番バラバラじゃん! 」




 ………………………





 2人が作るフルーツゼリーはどうなることやら……





 その頃美奈は友達と別れて、家に帰ろうとしていた。



 ピコン……



 ん、誰だろう


「美奈、いまから帰るけど、一緒に帰らないか? 」



 快斗からの連絡だった。美奈はすぐに了解の返事をした。

 

 快斗の今日の撮影場所から美奈が、遊んでいた場所が近かったのだった。


 2人は駅で待ち合わせて、落ち合った。

 


「お仕事お疲れ様〜 」


「うん、ありがとう 」


「帰ろっか 」


「うん 」


「なんで、急に一緒に帰ろうなんて? 」


「たまたま、近くだったからだよ 」


「ほんとに、それだけかな〜? 」


「ああ、そうだよ 」


「あら、そうなのね〜 」


「でも、たまにはこーゆうのもいいかもな 」


「それならよかった〜 」



 君は、そうやっていつも何かを隠すように嘘をつくんだね。



「なんかいったか? 」


「ううん、何もいってないよ〜 」


「そっか 」


「それより、夜ごはん何にしようか〜 」


「何でもいいけど、暑いからな〜 」


「そうだね〜、サッパリしたものがいいね 」




 ……………………





 快斗と美奈も家に帰ってきた。



「ただいま〜 」


「ただいま 」


「あれ、いないのかな? 」


「あいつら出かけてるのか 」



 ドアを開けると、キッチンに2人の姿があった。



「なんで、ここにこれ入れたの! 」


「え、ここじゃないのか 」


「もーう! なんでそんなに唯斗は全部適当なの! 」


「わかんねーんだから仕方ないだろー 」




「ただいま〜 」


「あれ、お姉ちゃん! と、快斗くん 」


「気づかなかった! おかえり兄さん、美奈さん 」


「ああ、ただいま 」


「2人は一緒に料理かぁ〜、本当に仲良いいね〜 」


「全然だよ! お姉ちゃん聞いてよ、唯斗ったら何もできないの! 」


「うるせー、お前も大して変わらないだろ 」


「変わるしー! あんたなんかより全然できるもん! 」


「仲が良くて、いいことだね〜 」


「どこが!! 」

「どこが!! 」


 2人はゼリー作りに夢中になりすぎて、快斗と美奈の帰宅に気づかなかった。



 こんな弟と妹を見て、快斗と美奈は心のどこか羨ましがっていた。


 弟と妹は、兄と姉と比べられることや、色々な悩みがある。しかしそれはお互い様なのかもしれない。



「私も夜ご飯の準備始めるから、一緒にいいかな? 」

 

「どうぞ! 美奈さん、お好きに使ってください! 」


「何よ唯斗! お姉ちゃんには、やっぱりそんな感じなんだね 」


「なんだよ! 」


「あら、私はやっぱり邪魔かしら〜? 」


「全然大丈夫です! こいつは気にしないでくれて 」


「何よ、唯斗にはできても何もあげないからね! 」


「はいはい、いいですよ 」


「ふんっ! もう知らないからねー 」



 美奈は器用に夜ご飯を手際よく作り終えた。


 夜ご飯が出来て、4人での食事をした。



「お姉ちゃん、快斗くん、ゼリー作ったから食べてみて! 」


「うんいいよ〜 」


「食べようか 」


「はいっ!! 美味しい……かな?? 」


「うんうん、美味しいよ! 」


「うん、美味いね 」


「やったーー! よかったー! 」


「莉奈、唯斗くんにはないの? 」


「いらないよ、唯斗には 」


「なんでそんなこと、意地悪だね〜 」


「だって、あいつ散々バカにしてたもん! 」


「唯斗くんはい、あーん 」


「え、はい 」


「うんうん、まあまあ美味いな! 」


「何よ! まあまあって! 」



 莉奈はそんな言い方をしながらも嬉しさが顔に出ていた。





 そんな美奈の行動を、快斗には悪く映っていた。美奈の弟への行動の一つ一つが、兄、快斗の心のどこかを鬱屈させるものだった。









 難しい人の感情、伝えなければ伝わらない。でも、伝えられないことの方が世の中多いのかもしれない。だから人間は難しい生き物なのだろう……

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