第8話 見解「ケンカイ」


 

 美奈にとってその日は忘れたくても忘れられない夜だった。



 そんな特別な、夜だと思っているのは美奈だけなのかもしれない。



 それでも、美奈にとっては……





 夏休みも始まり、楽しい日々が続いていた。


 といっても、唯斗と美奈と莉奈は家にいることが多く、特に何かをしているわけでもなかった。快斗は仕事に行くことがほとんどで、家にいない時間が多かった。




「ねぇー、お姉ちゃんー、夏休み始まって一週間以上何もしてないよー。何かしようよー 」


「そうだね〜、何かしようか〜 」


「何かって、何もすることがないからこうなってるんだろー 」


「だからするって言ってるでしょー! 」


「はい、そうですね 」



 唯斗が何か言えば莉奈は反対のことを言うか、何か言い返してくる。これも唯斗はもう慣れた様子だが。



「じゃ〜、スイカあるからスイカ割りでもする? 」


「うん、いいね、楽しそう! 」


「まぁ、いいんじゃないですかね 」



 3人はスイカ割りをすることになった。


 やっと夏らしいことができて、3人とも満足気な幸せな様子だった。


 

「おれ、これ片付けておくんで2人部屋戻ってていいですよ 」


「あら、ありがとうね唯斗くん 」


「じゃ、お願いね唯斗 」


「はいよー 」



 美奈と莉奈は部屋に戻った。



「ねぇ、お姉ちゃん、私の勘違いだったらごめんね。最近何かあった?? 」


「うん? 何もないよ、大丈夫だよ〜 」


「本当?? 」


「うん! 」


「なら、いいんだけど何かあったら私にちゃんと言ってよね 」


「ありがとうね莉奈 」


「うん! 」


「私ちょっとやることあるから、上いくね 」


「あ、うん! 頑張ってー 」



 美奈が2階に上がって、莉奈はリビングに1人になった。



「終わったー 」


「片付けありがとね、唯斗 」


「いいよ全然 」


「うん 」


「あれ、美奈さんは? 」


「なんかやることあるって上いったよ 」


「そうなんだ 」


「なんかいつもと様子が最近違うような気がするんだよね 」


「たしかにそれはあるな 」


「でも聞いたけど、何もないってよ 」


「それならいいけど、本当かな… 」



 2人の心配はもちろん的中していた。



 しかし、美奈があんなことを2人に相談できるはずが

ない。自分で考えるしかなかった。そうすることしかできない。美奈にとって、夢か現実かわからないあの出来事。




 そんなことを分かるはずもないが快斗が帰宅した。



「ただいまー 」


「あれ? 兄さん? 」


「今日仕事が早く終わったから帰ってきた 」


「そうなんだ 」



 1週間ぶりくらいの帰宅だった。



「あと明日から1週間くらいだけど、おれも仕事が休みになる 」


「そうなの? やっと休みだね 」


 

 唯斗と快斗はいつも通りの会話だ。



「お姉ちゃん呼んでくるね、久しぶりにみんないることだし 」


「いや、莉奈ちゃん大丈夫だよ、俺少し休みたいから部屋行くから 」


「え、あ、うん…… 」


「じゃ、また降りてくる 」


 快斗は2階の自分の部屋に行った。



「ねぇ、唯斗、やっぱりなんかあったんじゃない? 」


「たしかにありそうだな 」


「うん、これはちゃんと調べた方が良さそうだね 」


「まぁでも考えすぎなんじゃないか? 」


「せっかく4人で過ごせる楽しい夏休みなのに、モヤモヤしてたらいやじゃん! 」


「そうだけど、2人のことだし…… 」



 2人がこう考えてることも、兄と姉は全くわかっていない。そして、当人たちは気まずくなる一方だった。




 夕飯の時間になって美奈が料理を始めた。


 莉奈も美奈を手伝っていた。



「唯斗くん夕飯できたから、快斗くんのこと呼んできて〜 」


「わかりましたー 」


 唯斗が快斗を呼びに行き、4人がリビングに集まった。



「いただきますー 」


「うん、うまいー 」


「うん、お姉ちゃんの料理はやっぱ美味しいね! 」


「そう〜、ありがとう〜 」



 快斗は何か気まずそうに、あまり喋らなかった。


 その快斗を見て、美奈も気まずくなっていた。



「お姉ちゃん、快斗くん1週間くらい休みなんだって、パパに連絡して別荘行こう! 」


「え、あ、うん、聞いてみるよ 」


「快斗くんと、唯斗くんは行けるの? 」


「大丈夫ですよ! 」


「まぁ、俺も別に大丈夫 」


「ほらお姉ちゃん、みんな行くってから、パパになんとか頼んでおいてね 」


「うん、わかったよ〜 」


 こうして、4人の久しぶりの食事を終えて、夏休みらしい予定も決まったのだった。


 いつも通り、唯斗と美奈が皿洗いをしていた。



「ねぇ、快斗くんちょっと私アイス食べたいからコンビニついて来て! 」


「ん、いいけど 」



 快斗と莉奈はコンビニに出かけた。



「快斗くんって、本当に忙しいねー 」


「まぁ仕事柄しょうがないな 」


「モデルって大変だねー 」


「そうだな 」



 電灯と月明かりだけが、光を照らす夜を2人は歩いていた。



「快斗くんって彼女とかいるの? 」


「いないよ 」


「意外ー、すごいモテそうなのに 」


「全然だよ 」


「じゃ、お姉ちゃんのことは? 」


「ん。美奈のことか…… 」


「うん、やっぱりなんかあった? 」


「何もないけど…… 」


「絶対あるじゃん 」


「俺はよく分からないんだよ 」


「何が?お姉ちゃんが? 」


「うん、なんで美奈は俺をあそこまで気にしてくれるのか 」


「それは、快斗くんのことが心配で、快斗くんのことをもっと知りたいからだよ 」


「そうなのか…… 」


「お姉ちゃんに何かしたの?? 」


「いや何も…… 」


「そっか、お姉ちゃんにとって快斗くんは特別だと思うよ 」


「特別か…… 」


「うん 」


「莉奈ちゃんも、唯斗のこと特別なのか? 」


「特別というか、うーん。でもある意味特別かな…… 」


「そうなのか 」


「うん 」


「ありがとう、何か少し変われるような気がするよ 」


「ならよかった! 」


「ありがとう 」



 快斗は身長差を生かして、莉奈の頭を撫でた。



「な、なに 」


「君たち姉妹は本当に優しいんだな 」


「やめてよ……! 」



 莉奈は照れていた。ツンデレが今日も絶好調だった。





 快斗の想い、美奈の想い、それぞれの気持ちが交差する現状。







 この答えは見つかるのか。答えがあるのか。そんなことは誰にもわからない。







 人は答えのない消えた答えをずっと探し続けていく生き物なのだ。

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