第7話 現実「ゲンジツ」

 


 兄弟と姉妹の4人の生活は不自由なく生活を送っていた。




 少しづつ季節も変わり、セミの泣き声が聞こえ渡る。


 

 暑さも少しずつ夏本番に近づき、汗ばむ季節になってきた。


 

 4人で初めて過ごす夏休みがもうすぐだ。



「唯斗くん起きてー、今日は1学期の学校最後の日でしょ〜? 」


「……おはようございます 」


 いつも通りの朝だ。


「も〜う、ちゃんと起きてよ〜、私は君のママじゃないんだからね〜 」


「美奈ママ、いや悪くないな…… むしろ良い。 」


「変なこと言ってないで、起きなさい〜 」


「はい、すいません 」



 唯斗と美奈は前よりもさらに仲良くなっているようだった。



「あんたはいつまで起こされてるのよ、自分で起きなさいよ 」


「いいだろー、おれの朝はこうやって起こされて始まるんだから! 」


「なんか気持ち悪い〜 」


 唯斗は莉奈との関係もそれなりに良好だった。莉奈のツンデレはいつも全開だが……


「てか、今日久しぶりに兄さん帰ってくるんだよな 」


「そういえば、久しぶりに帰ってるくるね 」


「うん…… 」



 唯斗と莉奈は快斗の帰宅に嬉しそうな表情だったが、美奈は違った。


 前に言い合いをしてから、何回か快斗が帰ってくることもあったが、ほとんど会話ができていなかった。



「じゃ、お姉ちゃん行ってくるね 」


「あ、はーい、いってらっしゃいー 」


「おーい、待って莉奈ー! 」


「なんで待たなきゃいけないの? 」


「ちょっと待ってくれー 」


「嫌…… じゃ、行ってきます〜 」


「おおぉぉぃぃ 」


「あはははは…… 」


「じゃ美奈さん、俺も行ってくる! 」


「はい、いってらっしゃい 」


 

 最近は毎朝こんな様子だ。慌ただしい朝だが、決して嫌な朝ではないのがしっかりと分かる。




 唯斗は莉奈を後ろから追いかける。


「はぁー、追い着いたー 」


「なんで一緒に行かなきゃいけないのよ 」


「いいだろー、たまにはよ」


「嫌です、学校のみんなに変な勘違いされたくない 」


「はいはい、本当にお前は変わらないやつだなー 」


「何か悪いとでも? 」


「全然、もうはい… 大丈夫です 」


 

 尻に敷かれるとはこのことのようだ……



「おはよ〜 」


 幼馴染みの桃香だった。


「おはよー! 」


 唯斗は挨拶を返す。


「って、2人は一緒に来たのね? 」


「あ、いや違うこれは 」


「あらあら、いいんじゃないの? 」


「いや桃香さん違うのよ、これは…… 」


「2人とも隠さなくていいのに〜、唯斗良かったねー 」


「いやだから、桃香違うって!! 」


 

 やはり、2人の関係がみんなにバレるのも時間な問題なのか。そんな心配をずっと2人はしていた。




 1学期最後の学校が終わり、夏休みの約束を唯斗は桃香や陸たちとして、今日は別れた。



 莉奈と一緒に帰ることもなく、家に唯斗は帰った。


 唯斗が家に帰ると、美奈は、快斗の久しぶりの帰宅のために、快斗の好きな料理を母さんから教わったように作っていた。


「うーわ、美味そうー! 」


「こら! 美味そうじゃなくて、食べてるから美味いでしょ!! 」


「ごめんなさいー! 」


「本当に、唯斗くんはつまみ食いなんかしちゃって 」


「美味そうだったからしょうがないよ 」


「お姉ちゃん、私も手伝うよ 」


「莉奈に出来ることか〜 」


「できんのかよ〜、莉奈に 」


「うるさいできるから! あんたには言われたくはないね 」


「はいはい、じゃ頑張ってください 」


「ほんと、2人仲良いね〜 」


「どこが!? 」

「どこが!? 」


「ほーら、息ぴったりだね〜 」


「……うーん、もう! 」


 莉奈は少し照れている顔を隠していた。


 

 そんな3人の元へ、快斗が帰ってきた。



「ただいま 」


「おかえり兄さん 」


「快斗くん、おかえりなさい 」


 唯斗と莉奈が兄を出迎えた。


「快斗くん、ご飯できてるから、準備ができたらすぐ降りてきてね 」


「わかった 」



 4人で久々の食卓を囲んだ。快斗も少しは疲れている様子を見せたものの、美味しいご飯に箸が進んでいた。



 食べ終わって唯斗がお皿洗いをしていると、快斗が美奈を2階のベランダに呼んでいた。




 ベランダはいつも月が綺麗に見える。夏の夜風が気持ちよく頬を撫でる。そんな夜だ。



「この前はすまなかった 」


「私こそいろいろ、言ってしまってごめんなさい 」


「俺が悪かった 」


「ううん 」


「あのさ、俺最近自分がわからないんだ 」


「うん…?? 」


 美奈は快斗が自分から自分のことを話してくれるのが嬉しそうだった。


「俺は、周りに理解してもらいたい訳ではないはずなのに、美奈、お前に会ってからお前が俺のことをずっと気にしてくれる。それが何か今までにない感情で俺を苦しめるんだ 」


「私のせいで、そうなってしまってるなら私はもう快斗くんにはもう何もしないよ…… 」


「そういう訳じゃないんだ、俺は自分がどうしたらってわからないんだ 」


「私は、そんな悩んでる快斗くんでも、自分がわからない快斗くんでも、ちゃんと向き合って話ができてることが嬉しいな…… 」


「美奈、あのさ…」


「うん…?? 」



 その瞬間、快斗の唇が美奈の唇に触れた。



「いきなりごめん…… 」



 そう言い残して快斗は部屋に戻っていった。



 美奈は言葉を発せない。




 驚きを全く隠せない様子を見せていた。




 

 

 夏の夜。虫の鳴き声が響き渡る外。何かを感じ、確かめ合うような快斗のキス。







 それでも、美奈は自分のへ快斗からのキスの意味が全く理解できないでいたのであった……
















 

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