第5話 変動「ヘンドウ」



 唯斗や、莉奈たちの誰にも言えない変わった生活は少しずつ板についてきた。


 

 学校では2人は本当に喋らない。それでも唯斗は少しずつ莉奈を理解し始めていた。



 学校が終わると、唯斗も莉奈もすぐ家に帰った。


 無論、一緒に帰るわけではない。



「おかえり〜 」


「ただいまー 」



 唯斗が家に帰ると、美奈が出迎えてくれた。



「莉奈はもう帰ってきてるよー 」


「相変わらず早いですね 」


「うん、一緒に帰ってくればいいのに〜 」


「一緒に帰るどころか、ほとんど喋りもしませんよ 」


「まったく〜、あの子は本当にな〜 」


「仕方ないことですよ 」


 

 別に唯斗は莉奈と一緒に学校に行ったり、帰ったりしたい訳ではない。あいつのことを知って、分かってやりたいと思っているだけだ。



 今日は兄の快斗が帰ってくる日だ。唯斗と快斗の母と美奈は一緒に快斗の好きな料理をたくさん作っていた。


 

 時間が経ち、快斗が帰ってきた。



「ただいま 」


「おかえりー! 快斗の好きな料理たくさん作ったから、着替えてすぐ降りておいでね 」


「うん、わかった 」



 兄弟の母親が快斗を出迎えた。



 久しぶりに全員が揃って食卓を囲んだ。快斗の久々の帰宅に家族みんな嬉しそうだった。



「いただきますー 」



 美奈さんと母さんの料理は本当に美味しい料理ばかりだ。快斗も喜んでいるようだ。



「快斗、お仕事はどうなのー? 」


「まぁまぁだね 」


「もうちょっと家に帰って来れないの? 」


「仕事次第だけど、おれも最近は色々と忙しいんだよ ー」


「あらそうなの 」


 母の質問に対して快斗はいつも通り適当だ。


「莉奈、ちゃんと宿題やっているか? 」


「やってる 」


「そうか、しっかりやれよ 」


「うん、でもパパには関係ないから 」


「関係ないことはないだろ 」


「ううん、私のことだから自分でするから関係ない 」


「そんな言い方はないんじゃないか 」


「いや、お父さん、お父さんではないか… まあどちらでもいいか、あの、莉奈はこいつなりに色々考えてるから大丈夫ですよ、お父さんがそこまで心配しなくても、莉奈ならちゃんとできていますよ 」



 いつものように姉妹の父に莉奈が言われているところを、唯斗が助けたのだった。



「そうか、唯斗くんがそう言うのであれば、心配しなくても大丈夫そうだな。これからもよろしく頼むよ 」


「はい、こらちこそ 」



 美奈は嬉しそうだった。そして莉奈もいつも見せない表情を見せていた。


 ご飯を食べ終わったところに、唯斗は莉奈に呼ばれた。



「唯斗、ちょっと話したいことあるから、私の部屋にきて 」


「うん 」


 

 2人は莉奈の部屋に向かった。



「で、話ってなんだ 」


「なんでさっき助けてくれたの 」


「別に助けたわけではないけど、当たり前のことを言っただけだ 」


「そうなんだ 」


「うん 」


「でも、嬉しかった。ありがとね 」


「おおう、なんか変だなお前から感謝されるなんて 」


「なに、私が感謝を知らない人間みたいな言い方しないでよ」


「そんなことは言ってないな 」



 2人の会話を盗むようにドアの外から美奈は聞いていた。美奈は本当に嬉しそうな顔をしていた。



「なにやってんだ? 」


「あ、快斗くん、ちょっとね…… 」


「まぁ、いいけど 」


「快斗くん、ちょっと話さない?? 」


「いいけど 」



 快斗と美奈はベランダに出た。



「ここ、こんなにも広いんだな 」


「うん、それ唯斗くんと全く同じこと言ってるよ〜 」


「そうか? 」


「やっぱり似てるよね〜 」


「似てるか、俺とあいつは全然違うと思うけどな 」


「私は2人とも似てるところあると思うよ〜 」


「俺はあいつほど、人当たりが良くない。あと周りのことが全く気にならない、興味がないんだ 」


「なんか、快斗くんって不思議だよね 」


「別にそれでいい、みんなに理解してもらいたいと思ってない。俺のことなんて誰も理解できないんだよ 」


「そんなことないよ〜、私で良ければだけど、話聞くよ? 」


「いや、別にいい。俺は自分のことは自分が分かっていればいい 」


「そうなんだ…… 」


「俺部屋戻るわ 」


「うん…… 」



 快斗の心が美奈は読めなかった。なにを考えているのか、なにを思っているのか、全くもって理解ができなかった。





 次の日になって、唯斗たち、兄弟と姉妹は予想もしなかった衝撃の事実を知ることになる。



「おはようございます」


「おはよう〜、今日は土曜日で学校もないから遅いおはようだね 」



 唯斗が起床して、一階に降りると快斗以外の全員が起きていた。



「美奈、快斗君をすぐに起こしてきてくれるかな? 」


「うん、いいけど、パパどうかしたの? 」


「大事な話があるんだ 」


「わかったよ 」



 美奈が快斗を起こして、家族のみんながリビングに集まった。



「悪いね、休日に 」


「うん、それでパパ話って?? 」


「昨日の夜、あゆみには話して決めたことなんだが、俺とあゆみは仕事の新事業の関係で大阪に行くことになった。 」


「えー?? 」


「母さん、本当かよ 」


 4人は驚きを隠せなかった。


「最初は俺は1人で大阪に行くことになっていたんだが、俺は生憎、家事が何にもできない。あゆみがついて来てくれるなら本当に安心できる。それでみんなにはどうするか決めてもらう。ついてくるか、ここで4人で暮らすのか。好きなようにしてくれていい 」


「俺は仕事があるから、ここに残る 」


 快斗は即答だった。


「私も大学があるし、最近ここの暮らしは本当に気に入ってるから、残るかな 」


「わかった。莉奈と唯斗くんはどうする? 」


「俺も学校あるし、今から東京から離れていくのは嫌だな 」


「わ、私はお姉ちゃんがいるから、東京に残る 」


「そうか、じゃみんなここに残るってことで大丈夫そうだな 」






 時は戻り、一週間前の夜のこと……




「あゆみ、相談なのだが、俺の仕事の関係もあるが、俺たち親はここから離れないか? 」


「え、いきなりどうしたんですか? 」


「新事業で、大阪での事業が始まるんだ。ここに来てすぐかもしれないが、向こうに行かなければならない。今の暮らしの中で、気づいているとは思うが、俺たちのせいで家族を巻き込んでしまった。なかなか気まずいような関係もある。4人は4人の暮らしをしても良いと思うのだ。あの子たちなら俺たちがいなくてもしっかりとできると思うんだ 」


「少し考えさせてほしいです。快斗と唯斗といきなり離れるというのは…… 」


「うん、それもそうだね。俺たちがここにいることであの子たちの生活が生きづらくなっているような気がしてならないんだ。かと言ってあゆみたちと別の暮らしをするのも違う気がするんだよな 」


「そうですね…… 」







  時は現在へ



「みんなが残ると言うのであれば、そうして欲しい。美奈は家事やみんなのこと頼んだぞ、唯斗くんは家族のこと頼んだぞ 」


「うんわかったよ 」


「はい 」

 


 唯斗は驚きを隠せなかった。元々いきなり始まった同居生活。それが今度は姉妹と兄弟だけの生活。


 




 この時より、唯斗にとっての大事な時間が少しずつ動き出していたのであった。





 4人の新しい生活… そして、唯斗と莉奈の関係にも変化が少しずつ出てきた一方で、兄の快斗は姉の美奈との関係は簡単にはいかなかった……






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