第3話 確執「カクシツ」

 

 今までになく、朝が遠い夜だった。


 唯斗は、慣れない環境、慣れない家、慣れない夜を過ごしていた。


 引っ越しをして初めての朝を迎えた。



「おはよ〜!! ぐっすり寝れたかな? 」


「はい、それなりに 」


「そっか〜、なら良かったよー! 朝ごはんできてるみたいだから下に降りておいでね 」


「わかりました 」


「だーかーらー、唯斗くんはいつになったら敬語はやめるのよ〜 」


「わかったわかった! 」


「本当にわかったのかしら〜 」



「俺はこれから毎朝美奈さんにこうやって起こされるのか… 」

 

 いやこれは悪くない。むしろ良い。



 唯斗が一階に降りると、唯斗以外の全員がもう食事をしていた。



「唯斗ー、あんた起きるの遅いわよー! 」


「はいはい… 」



 母さんはここに来ても変わらずこんな感じだ。本当に相変わらずだ。



「じゃ、行ってくる」


「行ってらっしゃいませ 」


 姉妹のお父さんを母さんは送り出した。


「じゃ、俺も行く 」


「は〜い! 行ってらっしゃーい! 」


「あ、俺、多分一週間くらい帰らないから 」


「わかったよー! 」


 兄の快斗も母さんに送り出された。


 唯斗は用意された朝ごはんをいつも通りゆっくり食べていた。



「では、私も行ってきます 」


「はーい!気をつけてね莉奈ちゃん 」


「はい、ありがとうございます 」


 莉奈も唯斗から逃げるように出て行った。



「なーんだ、莉奈、一緒に行けばいいのにな〜、ねー唯斗くん 」


「いや、それはなかなか難しいですよ 」


「そうかな〜?? 」


 唯斗がなぜか莉奈に嫌われていることを美奈さんはまだ深く理解していないんだ。


 

 そんな慌ただしい朝を過ごして唯斗も学校に向かった。


 学校に着くと、もちろん莉奈はもういた。


「おはようー! 」


「おはよーーーー! 」


 桃香と陸だ。唯斗は挨拶を交わして、他愛もない話をしていた。


 席に着く時間になり、唯斗が席に着くと後ろから何か異様なオーラを感じていた。


 唯斗は後ろを向いた。


「なに? 」


「いや、なんでもない 」


「言ってないでしょうね? 」


「だから、言えねーって 」


「あっそう 」


 はぁー…こいつは何でいつも怒ってんだ。


「何か言った? 」


「いーや、何も 」


 

「本当に俺は莉奈と分かり合える日が来るのだろうか…… 」



 授業が進み、下校の時間になった。


 桃香や、陸たちと分かれて俺は帰った。


 もちろん莉奈と一緒ではない。



「ただいまー 」


「おかえりなさいー! 」


 唯斗が家に帰ると、母さんが夕飯の支度をしていた。美奈さんは大学からまだ帰ってきていないらしい。


 莉奈は俺より早く家に帰ってきていた。


 

 時間が経ち、快斗以外全員が帰宅して夕飯の時間がやってきた。



「莉奈、学校の方はどうだ?」


 お父さんからの質問だった。


「別に 」


「そうか、唯斗くん、莉奈のことを頼むね 」


「はい」


 なぜだろう。前にも思ったことがある。お父さんに唯斗たちは信頼されている。そして、お父さんと莉奈の間には、何かがある。それが今はわからないけど理解する必要があると唯斗は感じた。


 夕飯が終わって、みんな自分の時間を過ごし始めていた。



「唯斗くん、ちょっといいかな? 」


「はい」



 美奈さんに誘われて2人で二階のベランダに出た。


 月も綺麗に見える広いスペースのベランダだ。



「すごいですね、ここってこんなにも広いんですね 」


「たしかに〜、BBQとかできそうだよね〜 」


「いいですね 」


「ねー唯斗くんの敬語は、ほんとになおらないのかな〜? 」


「ああ、いいよなここ! 」


「えらいえらい! 」



 はぁ… 莉奈もこんな感じなら仲良く話せると思うのだが……



「呼んだのはね、莉奈のことなの 」


「はい 」


「気付いてるかもしれないけど、難しい子なのよ 」


「たしかにそうですね」


「みんなに対して、あんな態度を取っちゃうのも理由があるの。お父さんとは、私たちのお母さんが病気で亡くなってから一年ちょっとで、新しい人と同居生活が始まるなんて、莉奈はお父さんに対して疑問しかなかったの。いい子なんだけどね…… 」


「そうだったんですか 」


「そうなの。私も少しはおかしいとも思ったけど、私たちのことや生活のことを考えると仕方ないことでもあるのかなって 」


「難しいですよね。俺たち兄弟も母さんの行動にはよくわからないところが多々あります 」


「でもね、多分なんだけど、私たちや唯斗くんと快斗くんのことを思ってのことだと思うの。だからちゃんとお父さんのことも理解していかなきゃなって。 」


「そうですよね 」


「でーもー、私は唯斗くんたちと一緒に暮らせるの楽しいよー! 」


「本当ですか、よかったです 」


「うん、まぁそんな感じだから、難しいとは思うけど莉奈とは上手くやっていけると思うから、仲良くしてあげてね 」


「はい 」


「で、快斗くんってどんな人なの? 」


「兄さんは、俺とは違いますよ 」


「そうなんだ〜、私は2人は似てるように見えるけどなー 」


「全然違いますよ、俺と兄さんは比べ物にならないですよ 」


「そんなことないよ〜 」


 唯斗は兄と比べられるのが小さい頃から嫌だった。何事も上手くこなす兄。いつもそこそこな自分。そんな対象的な兄弟で、唯斗はいつも自分が歳も能力も何もかも下なんだ。と思ってきた。


「私は、唯斗くんには唯斗くんにしかない、良いところがたくさんあると思うよー まだわからないけどこれから少しずつ知っていけたらいいな〜 」


「ありがとうございます…… 」


 本当に美奈さんは優しくていい人だな。


 同時に莉奈のことも少しずつ理解していこうと思った。




 


 夜の闇を照らす月と星は今日も綺麗に輝いてる。



 

 


 明日が必ず来るように、唯斗たちの生活も少しずつ当たり前になっていくのだろうか……




 




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