02.盗賊村

「旅人先生は、旅人なんじゃろ。ワシも若い頃はよー旅をしたもんじゃ。剣一本もってーー」


「そうですよ、旅人ですよ。さぁ今日も、全身を動かしましょうね」


 もうかれこれ、同じ質問を数日続けている。


 治療院の手伝いを始めてみたが、すごく大変だった。若い奴らは治せばそれでいいが、ある程度歳をとった人の治療をしたあとは、術後のサポートをしなくてはいけないそうだ。

 このおじいさんの場合は、長く下半身を痛めていたらしく、親分が根本の治療後も、時間をかけて体の筋肉を治療術で再形成させたそうだ。

 もうだいぶ良いみたいで、俺はほとんどストレッチに近いことしかしていない。

 すごいな。治療師の人って。尊敬するわ。


「はい、今日はここまでにしましょう」


「旅人先生、いつもありがとうございます。さぁ、おじいちゃん、帰ろう」


 お孫さん(若い女性)が迎えにきている。




 この村の年齢比率は、高齢者も一定数いるが、若者が多い。

 近くの村から出稼ぎに来るものもいるし、親分や幹部に弟子入りしに来る奴もいるという。遠くからも来るそうだ。

 盗賊の幹部は、名の知れた元冒険者や、剣豪もいるらしく、道場のようなものまでこの村にはあるそうだ。

 今度見せてもらおう。


 また、驚くことに、誰の首にも賞金がかかっていないそうだ。

 どんな魔法をつかってるんだ。

 初登場時のあの親分の悪者ぶりといったら、マジでただのくそ盗賊じゃねーかって感じだったのに。

 あれは、親分の趣味らしい。悪趣味だ。



 治療院の手伝いが落ち着いたので、村を見て回る。

 のんびりと村を歩いていると、道場の前にきた。道場といっても簡易的なものだが、数十人の若者が稽古をしている。

 道場の中央に、剣豪っぽいご老人が木刀を持ってたっている。

 向こうも気がついたようで、こちらによってきた。


「朝は世話になったのう、旅人先生。ようこそ我が道場へ。ごゆるりと見学なされ」


 あ、俺がリハビリ担当してるおじいちゃんじゃん。

 この人が剣豪だったのか・・・全然、雰囲気が違う。

 俺が呆然としていると、お孫さんが洗濯物を干そうと建物から出てきたところ、こちらを見つけて近づいてきた。


「あら、旅人先生じゃないですか、朝はどうも」


「あの、だいぶ、印象が違う・・・」


 挨拶も忘れ、本音をいってしまった。


「あぁ、驚きますよね。おじいちゃん、剣を持つと人が変わるんですよ」

 

 じいさんは、すごいとしか言いようがない。魔法で強化してないのに、信じられない動きをしている。まって、そんな動いて大丈夫なの?

 俺は、絶対に勝てないと思う。一撃でやられそうだ。

 門下生もかなり強そうだ。この村の防衛力は、だいぶ高いと思う。


 しばらく道場を見学させてもらって、ちょうど怪我した門下生がいたので治療して、別の場所へと向かった。

 

 ここは、商店街ができる予定のエリアだ。

 今まさに建物が作られている。


「お、旅人先生だ」


 治療院にきた人がちらほらいて、こちらに挨拶してくれ、術後の経過をきいたり雑談をした。


 この辺に、たしかあの夫婦が入居してるはずだ。

 お、いたいた。ちょうど、店の内装を作っているところのようだ。

 ご主人さんがいたので、声をかける。


「どうも」


「旅人先生じゃないですか、その節はありがとうございました」


「いえいえ、私はなにもしてませんよ、全部親分さんがやったことですので」


 そういえば今更だが、この村では旅人先生で通ってる。


「どうですか、お店の方は、何かお手伝いしましょうか?」


「お気持ちありがとうございます。自分たちで作ることに意味があるとおもってますので大丈夫です。といっても、まだまだ、始めたばっかりでやることはいっぱいあるんですがね。準備ができたら、よろず屋のようなものを始めようと思います。知り合いの商人にも定期的にきてもらおうと思います。」


「それは、楽しみですね。頑張ってくださいね」



 ご主人さんに見送られて、商店街予定地を抜けた。

 気がつくと村の外れまで来ていた。


 ちょうど森から数人が台車を引いて出てきた。

 ボアが乗っている。大物だ。久しぶりにみたな、こいつ。

 あの中で、一番後ろにいるのが、たぶん、凄腕の元冒険者なんだろう。装備も、佇まいも違う。

 村の食料とかは、この人たちが担当しているのだろうか。

 周りの警戒とかも、やってるんだろうなきっと。

 


 そして、村の端に沿って歩いていると、魔術師と思われる人たちが数人で、瞑想してる。

 その先には、職人たちが物作りをしているエリアもあった。


 治療院の近くまで戻って来ると、ひらけた場所で子供達が、文字を教わっていた。先生は復調した奥さんだ。


 みんな自分たちができる仕事を、自ら進んでやってる。

 そして、どんどん村の拡張が行われて、森が切り開かれている。

 もうこれは、村じゃないだろう。

 たぶん、半年後にきたら、だいぶでかい規模の街になっているんじゃないかな。

 その時も、盗賊をやってるのだろうか?

 どうする気なんだろうな。あとで聞いてみよう。




 大衆食堂のような店に入り、カウンターに座る。

 途中で近くのテーブル席の若いやつらが挨拶してくれた。気さくな感じがいいな。

 周りのテーブル席はわいわいやっている。職種関係なくいろんな人間が仲良さそうにしてる。


 注文したオススメの料理と、エールが出てきた。

 ボア肉のシチューだ。間違いなく、うまいやつだ。


 しばらくすると、親分がきた。近くの奴が軽く挨拶して自分たちの話にもどっている。媚びへつらうとかないんだな。

 むしろ、親分が過剰に絡んでいってる。


 親分は俺を見つけよって来る。


「よぉ。どうだ、この村は」


「すごいですね。なんというか、みんな自分たちがやることがわかっていて、自ら動いてる感じがすごいです。俺にはついていけないですよ。」


「そうかそうか。もともと何もなかったからな。自分らでやらないとってところはあるな。今の状態が悪いとはおもわねぇが、必死すぎるんだよな。訳ありなのかしらねーが、後がないとでもおもってるんだろう。まぁ俺に言わせれば、生きてりゃどうとでもなるんだがな。」


 まぁあんたなら大概のことはどうとでもなりそうだなと思う。


「そういえば、気になったことがあるんですが」


「どうした」


「この村、もう規模的に村ではなくなってきてると思うんですね。どんどんでかくなってますし。この状態で、ずっと盗賊村を続けるんですか?」


「んなわけねーだろ。将来的には領主に話つけて、ここを街にしようと思ってるんだ。その為の資金集めと、この辺の開発と治安維持、街つくる為の協力者集めを同時にやってる感じだな」

 

 どうやら、襲っている商人や通行人たちと話をつけて、協力者になってもらっているようだ。

 やり手すぎるだろう。この親分。

 


「で、どうだ。この村に来る気になったか?」


「お誘いありがとうございます。自分には、どうしてもやらなきゃいけないことがありますので無理です。補給もできましたし、そろそろ旅に戻ろうと思います。」


 旅を理由にしたが、周りの自主性に俺がついていけるか不安になった。



「そうか、残念だ。まぁ、気が向いたら、よってくれ。いつでも歓迎するぜ」


「ありがとうございます。街づくり頑張ってくださいね」



 この話の後も、親分と酒をのんでしばらく雑談をした。


「そういえば、最初お会いした時、気配を消してたと思うんですが、どうしてわかったんですか?」


「あぁ、俺のスキルだな。俺は、周りの生き物の位置をだいたい把握できんだ。気配を消しても無駄だな」


「なんですか、そのチートは」


「チート?よくわからねーが、このスキルと運のおかげで、俺は今まで生き延びてきたんだ。あぁ、あと、じいさんがお前に気がついてたようだ。」


 じいさんとは、剣豪のおじいさんのことだろう。流石だな。しかもあの場にいたのか、あのじいさん。


「あの方は、どういった経緯でこちらに来られたんですが」


「偶然だな。たしか近くの村が閉村したらしくてな。孫と一緒にきたんだ。んで、腰と足を痛めてずっと隠居してたらしいんだが、俺が治療してやったら、あんな元気になっちまった。まさか剣豪だったとはな、ゲヘヘヘ」


 あそこだな、たぶん。あといつも思うが、親分の笑い方は下卑た感じがすごい盗賊っぽい。


「偶然ですか、すごいですね」


 たぶん、この親分の運補正は相当なものだろう。


 雑談をしていると、親分の昔話を聞くことができた。昔、治療師でありながら傭兵をやっていたそうだ。治療に際して術を使うだけではなくて全般的な知識が豊富なのは、実地(戦場)で習得してきたからなのだろう。生きてればどうにかなるとかいう考え方も、この辺の影響が強そうだ。

 どうやら、ここの領主にも昔、傭兵で雇われたことがあるらしい。相手は覚えているか知らないが、それなりに活躍はしていたらしく、領主を治療術で助けたらしい。

 その辺から、交渉のきっかけを作ろうとしているそうだ。やり手すぎるだろ。


 だいぶ飲んで、今日はお開きになった。

 代金は、親分がおごってくれた。



 そして、何事もなく宿に戻って眠りにつく。

 明日は、診療所のみんなと患者さんに挨拶して、午後あたりに出発しようと思う。またお別れか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る