第3章 王都ラーメン激闘編

01.迷い人の寄り道

 そういえば、俺は迷い人ってやつだった。ドーソンの街だと、全く意識してなかった。田舎者っていえば、大体のことが「じゃあしょうがねーな」で通ってきた。

 たぶん、こういうことは秘密にしておいた方がいいのかもしれない。

 勇者みたいに、変に期待されるのも嫌だし。


 そして今、俺は違う意味でも迷い人になってしまっている。

 どうしよう。ガイさんからもらった地図は、どうやら古かったようで、指示通りに進むと、川の中に突っ込むことになる。まさか、手書きの地図で、こんなことが起きるとは。

 むしろ俺が道を間違ったんだろうな、きっと。


 ついさっき村に寄ったのだが、張り紙があって、村人が高齢化と若者の都会への流出により昨年閉村したらしく、誰一人いなかったために、今どこにいるのかわからないままだ。

 なにより補給もできなかったのが痛い。


 なんで、もうちょっと計画的に準備してから、出てこなかったのだろうか・・・

 王都への護衛とかの依頼うけたりしたら、王都までスムーズに行けただろうし報酬もでた。そういうテンプレ的なやり方があっただろうに・・・せめて旅の準備だけはすべきだった。


 金はあるが、買い物ができない。水と食料は、現地調達で、なんとか旅が継続できている。砂漠とか何もないところだったら終わってたな。



 しばらく道なりに進む。

 そうすると、馬車が盗賊に囲まれてた。結構人数いるな盗賊。

 久々にイベント発生ですね。とりあえず、気配を消して近付こう。

 


「おい、そんなに急いでどこいくんだよ、中をみせろ」


 典型的な盗賊ですね。喋ってるやつが、お頭だろうな。


「ど、どうかお許しください、妻が病気でして先を急いでおります。治療代もままならない状態です。どうか見逃してください」


 ご主人が、奥さんをかばってる。


「どれどれ、おおぉ、こいつぁ綺麗な顔してるじゃないか。ちょっと、こっちこいよ、よく見せろや」


 奥さんを、盗賊のボスが、引きずり出した。まずいな。


「や、やめてください。こ、これでお金は全部です、どうか見逃してください。」


「ん?なんだ、このはした金は?おまえ本気でこんなはした金で、治療できるとおもったのか?こんなんじゃ、だれも助からねーよ。だが安心しろ、この金は、俺がありがたくもらってやるよ、げへへへ」


 周りの盗賊もニヤニヤしている。

 

「や、やめろぉおぉぉぉ、妻をはなせ!!!」


 ご主人が、盗賊のお頭に突っ込んでいった。


「ぐは」


 途中で、盗賊の下っ端みたいなやつに腹に殴られ倒れるご主人。


「おやおや、これから交渉タイムだったのによぉ、楽しみがなくなっちまうじゃねーか。つれてけ」


 くそだな、こいつら。どうしよう、やっちまうか。

 でも、俺にできるかな・・・とりあえず、人数が多すぎる。


 うまいことやらねーと、たぶん人質とってくるだろうな。

 そしたら、夫婦無事に、助けられるか怪しいところだ。


 とりあえず、隙をみて救出だな。

 俺は、気配を消したまま盗賊の後を追った。




 そして、盗賊のアジトについた。

 そこは思っていたのと違って村のようだった。


 奥さんとご主人は、大きな屋敷に連れていかれた。

 これは、まずいかもしれない。急いで後をついていく。



 布団に寝かされた奥さんに、お頭がなにかしようとしている。

 くそ、いま、やるしかねーか。

 俺は、剣を抜いて、お頭に飛びかかろうとした。


「静かにみてろ」


「えっ」


 あれ、俺のこと気がついてるの?


 奥さんに対して、何か唱えている。

 そして、奥さんの周りに心地よい光のエフェクトがかかる。


 苦しそうにしていた奥さんは、安楽な顔で眠っている。


「これで大丈夫だ」


 あ、これは治療をしたのか。え、なんだこの展開は?


「まったく、バカな奴だ。あんなはした金じゃぁ、何もできねーってのによぉ。相場も知らずに」

 

 ムカついたので、言い返してみた。


「べつに、バカじゃねーだろう。そんだけ奥さんを救いたかったんだろうが」


「救えなきゃ意味ねーだろ。あめーんだよ。バカが。」


 なんなんだこいつ、何様だ。


「おい、お前。そこで伸びてるバカを起こせ」


 そう盗賊のお頭が、俺のそばで転がってる、ご主人を指差して言う。


「なんで、俺がそんなことやらなきゃいけないんだ」


「お前もバカか?そいつら助けに来たんじゃねーのか?」


 あ、そうだった。

 状況が読めずに、なんか乗せられてしまった。

 そして、詠唱する振りしながら、ご主人に回復魔法をかける。


「ん?お前も治療術がつかえるのか」



 ほどなくして、ご主人が起きた。


「ううぅ・・・お、お前は!くそ、妻を返せ」


「まぁ、まて。お前からさっき、金は確かにもらった。その分は、仕事してやったからな」


「何をいっているんだ、奪ったんだろうが」


 ご主人は興奮気味で、まだ何が起きているか理解していない。

 無理もないだろう。


「こ、ここは、どこかしら。あ、あなた」


 と、ここで奥さん目覚めました。

 お頭のそばから逃げ出してご主人に抱きつく。


「すまない、お前を王都に連れてこうとしてたら、盗賊に捕まってしまったんだ。俺に力があれば。すまない、すまない」


 泣きながら奥さんに謝るご主人、あることに気がつく。


「お前動けるのか?」


「ほ、本当だわ、私動けるわ。意識もはっきりしてる。なおった、なおったんだわ。神様ありがとうございます」


 ご主人と奥さんは、抱き合って泣きながら喜んでいる。

 そこに水をさすお頭。


「お前ら状況わかってんのか?」


「せっかく妻が治ったのに、盗賊につかまってしまっていたんだ、くそ」


 先ほどの笑顔がみるみるうちに悲痛な顔に変わっていく二人。


「まてまて、俺が治したんだって」


「「えっ」」



 ま、そうなるわな。

 最初は、ものすごい疑っていたご夫婦だった。いきなり現れた部外者の俺の説明をどこまで信用してるか分からないが、状況と経緯を丁寧に説明した結果、お頭に泣きながら謝罪と感謝をしている。


 ここの盗賊は、義賊というやつなんだろう。決して殺しはせず、弱いものから不当に金を巻き上げたりもしない。また、他の一般的な盗賊たちを、取り締まってもいるそうだ。

 そして、よく襲う商人達が、毎回わざわざ通行料と称して多額の寄付や食料などの物資を用意してくれたりして、村はやっていけてるそうだ。

 商人にとっても、義賊に街道の治安を維持してもらえてる今の状況が好ましいんだろう。



「どうせ、お前ら有り金全部もってきたんだろ?家とかも売っぱらったんじゃねーか?」


「はい。妻さえ治ればと・・・また二人で一からやろうとおもってました」


「そんなこったろうと思ったぜ。考えがあめーんだよ、そもそも、あんな金じゃ、治療薬は買えない。買えたとしても、すぐには治らないぞ?その間生活はどうする?治療術か?お前の嫁さんの病気を治せるレベルの治療術が使えるやつは、その辺の治療院になんかいねーよ。呼び寄せるのにも時間も金もかかるんだよ。」


「浅はかでした・・・でも、必死だったんです。集められるだけのお金を集めて、王都を目指したんです。」


「で、これからどうするんだ。」


「・・・」


「しょうがねーな。この村で働くか?盗賊村だがな。仕事はいくらでもあるぞ。お前なにができる?」


「お、お願いします。なんでもします。私は、商売をやっておりましたので、算術や読み書きなどできます。妻も同じです。」


「ほう、素晴らしいじゃねーか。よし、じゃあ、お前らは、今日から商人たちとの交渉役と、村の奴らに字と算術を教えろ。そして、家は、そうだな。空き家があるから、そこを使え。商売始めてもいいぞ。」


「あ、ありがとうございます。このご恩は一生忘れません。」





 なんだろ、この展開。完全に俺は空気だった。

 そして、ご夫婦はお頭が呼んだ村人に案内されていった。


「さて、随分と静かじゃねーか」


「なんなんだ、あんたらは?」


「さっき、話した通りだ。俺らは、この辺をまとめてる盗賊だ。それよりも、お前治療術つかえるだろ。どうだお前もこの村に来ないか、手伝いだけでもいい。この治療院の治療師は俺だけしかいなくてな何人か育ててはいるが、まだまだでな」


「旅の途中ですので、ここに入ることは無理ですが、滞在中のお手伝いならいいですよ」


「そうか、手伝いだけでも助かる。ここはな、もともと小さな村だったところに、俺が流れ着いて、治療院を開いたんだ。気がつけば助けた奴らには慕われてな。村人もどんどん増えて、今じゃ盗賊も村人も元奴隷も元貴族も、身分に関係なく、この村で暮らしているよ」


「すごいですね。理想郷じゃないですか。」


「そんなもんじゃねーよ。たまたま運が良かった。俺らは強かったし、集まったやつらがみんないいやつだった。それに、外のやつらも協力的だ。領主も目をつむってるのか兵士もこない。だから、成り立ってる」


 ちゃんと、現状も理解しているんだな。このお頭は、すげー人だな。


「宿屋があるから、そこを使え。治療院を手伝ってくれるなら、報酬もだすし、宿代は俺がもとう」


「ありがとうございます。せっかくですので、数日よろしくお願いします」



 そして、宿屋に案内されて、今日は寝た。

 明日から頑張ろう。

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