03.さようなら盗賊村、そして個人的な緊急クエスト発生

「旅人先生、旅にもどるそうじゃな」


 旅支度を整え、最後の診療所の手伝い中、昨日親分と話しただけだったのに、もうこのじいさんは知っていた。さすが剣豪・・・



「耳が早いですね、今日の午後に出発しようと思います。お世話になりました」


「何を言っとる。世話になったのはわしの方じゃ。先生の治療術のおかげで、信じられんことに現役の時よりも体が自由に動くようになった。先生は不思議な力を持っておられるようじゃな。」


 お、やっちまったか、適当に治療魔法かけながらストレッチ補助してただけなんだが・・・

 魔法的な何かが作用しちゃったようだ。

 気づかれたっぽいな、どうしよう。


「安心せい、誰にもこのことは言わん。恩人を裏切るようなことはせん。ここで初めて弟子ができてな。わしの剣を残すことに喜びを感じておる。体が自由になった分、より多くの者を育てることができるじゃろう。孫にも迷惑かけんでよくなった。この恩は、一生忘れん。先生ありがとう」



「お気遣いありがとうございます。どうか、内密にお願いします」


「先生が旅にでるのもきっと、きっとそん力に関係したことなんじゃろうな」


 いえ、ラーメンを食べに・・・なんて絶対言えない。




 最後のリハビリが終わり、これで俺の手伝いは終了となった。


 今まで見てきた患者と治療院のスタッフの人たち総出で、見送りにきてくれた。

 親分もいた。


 あ、これ、このまま旅に出る流れですね、ちょっと食堂でご飯食べようと思ってたんですが・・・

 泣いてる子もいるし、行くしかないな・・・



「みなさん、お世話になりました。また会いましょう、お元気で」


 そういって、旅に戻った。

 さよならはいわない。


 親分がでかい声で「また来いよ!」と言っている。みんなも何か言ってる。

 



 最近気がついたが、俺は巡り合わせがいいとおもう。訪れるところ、皆良い人ばかりだ。

 これはチートなのだろうか。もしそうなら、感謝したい。


 




 さて、やっと王都に向けて再出発だ。

 今回は、ちゃんと食料や物資の準備もしたし、ガイさんの地図に盗賊のみなさんの地形の最新情報を追加してきた。

 これで大丈夫だ。今更だが結構遠い、王都。



 そして、盗賊村の縄張を黙々と歩いて抜けて、山道を歩く。

 いま登ってる山を越えれば、王都が見えるはずだ。


 たまに商人や旅人にすれ違うので、挨拶する。山道ではすれ違うときに挨拶しないとな。

 みんな急に挨拶されてビビっているが、ぎこちなく挨拶を返してくれる。



 とくに魔物がでることもなく、黙々と山道を歩く。

 2個目の太陽が夕日になりはじめたので、そろそろキャンプの準備だ。

 ちょうどよく、ひらけた場所があったので、そこで野宿することした。


 夕日のうちに、薪になりそうな木をさがす。

 ある程度たまったので、石を集めてかまどを作り、そこで火を起こした。

 前みたいに、魔石を贅沢につかうのではなく、あくまで種火で使う程度にする。


 大きめの薪に、火がつき始めたぐらいで、あたりは、すっかり夜になった。

 リュックから、ナイフとフライパン、バター、ボア肉、卵、パン、それと調味料一式を取り出した。

 フライパンを火にかけて、バターを落とす。

 バターが良い感じに溶けたところで、ボア肉を適当に切って焼く。

 胡椒と塩をふって両面をよく焼いて、横に卵を落とす。

 卵に火がとおり始めたら、火の弱いところに置いてしばらく放置した。

 肉の中までじんわり火が通ったところで、出来上がりだ。

 肉を切って、目玉焼きと一緒にパンに挟んで食べる。


 う、うまい。うますぎる。


 

 匂いにつられたのか、狼系の魔物が何体か出てきたが、後処理が面倒なんで魔法で脅かして追っ払う。後片付けをちゃっちゃとすまして、簡易結界の水晶を置いて寝ることにした。

 何事もなく朝を迎え、そそくさと片付けて、旅を再開する。

 今日も良い天気だ。



 まだまだ、山道は続く。

 だいぶ、標高が高くなってきて、周りは岩肌が目立つ。

 しばらく歩いていると、先の方で、人が狼に襲われているのが見える。

 中華鍋を振って応戦しているが、このままだとまずいな。


 身体強化をして速度をあげて近づき、石を拾って投げる。

 ちょうど睨み合って静止していた狼にあたった。

 結構な速度で投げたようで、そのまま狼は絶命した。


 襲われていた人は、その場に倒れた。



 旅人の格好をした男性だった。

 近づいて確認したが、気を失っているだけのようだ。

 とりあえず、リュックを枕にして、平らな場所に横に寝かせておく。

 念のため、治療魔法もかけておく。



 しばらくして、男性が目をさます。

 

「気を失っていたのでしょうか。確か狼に襲われていた記憶が・・・」


「危なそうだったので、勝手ですが助太刀しました。冒険者をしてます、タケシです」


「ありがとうございます。食料を投げて逃げてきたのですが、一匹がどうしても振り切れなくて、本当にありがとうございます。」


 俺に感謝をしてきた。

 このイベントが女性だったらと思うと、悔しくてしょうがない。

 テンプレ的な展開になってたはずだ。助けて惚れられてイチャイチャ系の急展開とか。くそ、逃した。



「・・・いえいえ、気にしないでください。」


「私は、王都でラーメンの店を開くために、ラーメン武者修行しています。アガリといいます。」


 ラーメン武者修行?

 な、なんだと!?個人的に非常に気になる修行だ。


「実は私もラーメンに魅せられてて、王都の激戦区に向かう途中なんです。私は、食べる方ですが」


 なんという偶然だろうか、作る側と食べる側がこんな出会い方をするなんて、運命的だ。きっと、この人のラーメンはうまいに違いない。ぜひ、作っていただきたいものだ。至高のラーメンを!


「おお、そうだったのですね!では、自分が店をだしたら、是非食べにきてください!王都にはまだないジャンルのラーメンになりますが、味噌ラーメンという非常に美味しいラーメンを提供しようと考えてます」


「味噌ラーメン!すばらしい。ぜひ食べにいきます。では、王都まで護衛いたしますので、すぐに出発しましょう」


「そ、それはありがとうございます。ただ、お金は開業資金しかなくお支払いすることができないのですが・・・」


「いえいえ、味噌ラーメンを食べられるなら、そんなものいりませんよ」


「そういうわけには。そうだ、私は王都までの飯を作りましょう」


「ラーメン職人が作るご飯ですか、ぜひお願いします。食材は、私が持っているものも提供しますので」


 


 というわけで、アガリさんという貴重な味噌ラーメン職人を、無事王都に届けるという緊急クエストが発生したのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る