02.カルディアとの出会い

 子供の頃の楽しい日々。

 そして、大人になるまでに歩んだ詰まらない日々。順繰りに思い出が蘇る。



 今思えば、打ち込める何かがあったわけでもない。勉強はそこそこできてたと思う、友達もそこそこいたと思う。

 だいぶ盛ったがそんな感じだったと思う。


 学生時代もとくに目立つことなく、そして小さいけども雇ってくれた会社でも目立たなかった。

 毎日、同じような仕事して、ほどほどに残業もして。業績も普通で、給料も多くもないし少なくもない。


 唯一の楽しみは、やめた同期とよく行ってた焼き鳥屋で一杯やること。



 それなりの恋愛もしたと思ーー

 してなかったかな。してないな。俺、彼女いたことないな。

 もしかしたら、俺、死ぬのかな。彼女いないのに、死ぬのか。


 ソレダケハ嫌ダ。

(内なる良心が囁く。良心というか願望というか)


 くっそぉぉぉぉ

「彼女欲しい!彼女欲しい!彼女欲しい!」


 と、大声出しながら覚醒した。




 はて、ここはどこだろうか。

 目が覚めると、小屋のような場所に寝かされていた。


 誰かが、ここまで運んできてくれたらしい。

 小屋の中は、そこまで広くなくて、ドアと窓と、椅子とテーブルと、たぶんカマドだろうか。

 他にもあるが、なんというか、とてもシンプルな小屋だ。



「いてて」


 全身が痛い。

 あぁそうだ、俺はイノシシのバケモノに吹っ飛ばされて、それでーー

 おぼろげな記憶。走馬灯をみていたけど、まだ生きていた。


 しかし、足とか絶対折れてるだろうって思ってたんだけど、大丈夫そうだ。

 なんでだろうか。



 不意に、小屋のドアが開く。

 そして、金色の髪の、それはそれは美しい耳の尖った女性と目があった。

 う、う、ふつくしぃ。リアル、ディードさん、いらっしゃいました。


「おい、どうした!?大丈夫か!!」


 お、まじか、言葉わかる。これがチートですね。

 やっとテンプレ的な要素きましたね。まってました、まってました。

 しかし、声が可愛い。顔も可愛い。顔ちっさ。可愛いすぎだろう。


 カ、カ、彼女ガ欲シイ

(内なる良心がでてきそうだ、だめだ!耐えろ)



「はい、危ないところを助けていただきありがとうございました」


 よく覚えていないが、とりあえず、感謝の言葉を即興で述べる。

 顎を引いて、ちょっとキメ顔で。



「それなんだが、ボア狩りに巻き込んでしまったようだ、本当にすまなかった」


 彼女は、とても申し訳なさそうにしている。その顔がまた可愛い。天使だな。


「いえ、全く問題ありませんよ!あなたという素敵な女性に出会えた奇跡に、心から感謝しています」


 最後の言葉で、若干距離をとられたのがわかった。


 彼女の話では、あのバケモノは、大型のボアという魔物らしい。それを狩っていたら、ぶっ倒れてる俺を見つけて、魔法で手当てして、ここまで運んできてくれたらしい。天使だな。


 俺を持ち上げて運んできたとか、どんだけ力持ちなんだよ、天使だな。


 魔法で手当てってさらっと言ったけど、やっぱ魔法あるのね、天使だな。


 天使について黙って考えていると、彼女が自己紹介を始めた。

 そうか、まだお互い名乗ってなかった。



「私は、カルディア。冒険者になるために、この森でずっと修行している。見ての通りエルフだ。」


 エ、エ、エルフきましたー。落ち着け俺。


「俺は、タケシ。タナカ、タケシと申します。えーと、タナカが苗字ですが、貴族じゃないですよ。職業は、旅人・・・です。」


 苗字を言ったところで怪訝な顔されたので、あぁ、貴族的なテンプレかと思って、否定しておいた。



「そうか貴族ではないのか。しかし旅人ってお前、何も持たずに旅してるのか?訳ありだとしても、流石に無謀だろう。そもそも何の旅してるんだ?」


 たしかに、彼女のいう通りだ。

 俺は、信じてもらえるかわからないが、今まであったことを包み隠さずカルディアに話した。


 なぜ話したかは、彼女がまじ天使だったのと、訳のわからない男を助けてくれる奴に悪い奴はいないのと、俺の良心が「イイヨ、カルディア。イイヨ」と囁いたからだ。



「信じられないかもしれないですが、少なくとも俺にとっては現実なんです。どうしたらいいかも、わからない感じです」



彼女は、俺の話を黙って聞いてくれた。そうかと、彼女は言い、そして少し考えてから。



「タケシは、異なる世界からの迷い人ってやつなんだと思う。昔、大婆様がいっていたな。時折そんなものが現れるんだって」


 なぜ迷いこむのかとか、詳しくはわからないそうだが、とても珍しいらしく、数百年前に勇者として語り継がれている人物が、迷い人だったそうだ。

 勇者きましたね。俺TUEE的なやつですね。


 俺がいろいろ妄想していると、カルディアは、この世界のことをいろいろ教えてくれた。

 あたりが暗くなり、夕飯の準備の時間になっても教えてくれた。もちろん準備は手伝った。



 そして、彼女は思い出したように言った。


「あ、そうだ。タケシは彼女がほしいのか?」


 そういえば、あの声聞こえてたんですね。

 ちょっと笑いながら聞いてくる彼女は、とても天使です。


「そ、そうですね。そういう方がいらっしゃったら幸せかと存じます。

もう見つけたつもりなんですが・・・」


 急に直球がきて、しどろもどろの俺。

 ボソボソ喋った最後の言葉は、カルディアに届くことなかった。


「いい人が見つかるといいな」


 とても純粋な笑顔で彼女は言った。天使だけどめっちゃ鋭利な天然の刃物もってる、この子。



 夕食を食べながら、気になっていたことをカルディアに聞いた。

 なんで、俺みたいな奴を助けたのか、自分の家にあげたのか。一人で暮らししてるのに。女の子なのに。


「女の子扱いされるのは、何年ぶりだろうか。でも悪い気はしない」


 照れているのがわかる。


 彼女が言うには、俺が危険ではないとわかると。正確には、俺が彼女に危害を加えられるほど、力を持っていないとわかるそうだ。でも、もし毒などを持っていたらと言うと、それは加護でだいたいわかるそうだ。


 ファンタジー要素きました。加護ですが、そういうのって言っていいんでしょうか。

 そういえば、あっという間にすぎましたけど、エルフとか、魔法のことも気になりますね。

 そうだ魔法があるんだ。俺も使えるかもしれない!俺にも何かしらの加護があるのかもしれない!


 エルフ!エルフ!エルフ!

 よし、今聞かなくていつ聞く。俺は、思い切って訊くことにした。



「カルディアさんは、お付き合いされてる方は、いらっしゃいますか」



 予想してなかったのだろう。急に変なことを聞かれた彼女は、食べていたスープを詰まらせ気味にむせた。ブホっと。


「な、なんで、今それきく?修行の身なんだから、いるわけないだろう」



 タイミングの話は、まったくその通りだ。

 とりあえず、まだ俺の勝負は終わっていない。俺は諦めないと誓った。


 そして、魔法のこととか加護のことを聞いた。


 夕食の準備の時もそうだったけども、この子、すごく楽しそうに会話をする。

 あんまり人と話してなかったのかな。



 いったいこの子は、何年修行してるのだろうか?

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