第19話 不穏な気配と新たな物語の始まり

「はあ……はあ……くそが……あのいかれたガキのせいで全てが台無しだ!!」


 ボロボロの身体を引きずりながら一人の男がメガンテリアの森を歩く。その男はさっきまで異世界からの救世主たちを追い詰めていた魔界四天王の一人だった。その手には男の強さの象徴ともいえる刀は無く、その姿も弱弱しいものだった。


「必ず殺してやる……あのガキが守ろうとしたもの全て奪いつくしてやる……くくく……あと、エリザにもきちんとお話ししねえといけねえなぁ……あの女が自爆野郎の情報をちゃんと集めてりゃこんなことにはならなかったんだからなぁ……」


 自らを追い詰めた男への憎悪を瞳に宿して男は歩いて行く。だが、その男の前に突如ローブを身に纏った老人が姿を現した。


「ほほほ……随分とやられたようじゃの」


「ああ!?……爺、そこをどきやがれ」


 男は老人に対して若干の苛立ちを込めながらそう言った。


「ほほ……随分と偉そうな口を利くじゃないか若造が」


 そう言うと、老人の手は手から黒い球体を放った。


「がはっ……爺、どういうつもりだ!!」


 黒い球体を受けた男が苦しそうにその場にうずくまる。


「ほほほ、あの刀を失ったお前に価値などないわ。まあ、これからは儂の手駒の一つとして利用してやろう」

「ふざけんなよ……この俺は魔界四天王の一人だぞおおお!!ガハッ……」


 叫ぶ男の胸から黒い杭のようなものが飛び出てくる。そして、男はそのまま沈黙した。


「おお、そうじゃ。魔王様が貴様の代わりなどいつでも見つかる。安心して死ねと言っておったぞ……もう死んでおるか。それにしても、最弱とはいえ魔界四天王の一人を退けるとは……今代の救世主たちは中々厄介かもしれんな。まあ、今は置いといてもいいじゃろ。さて、そろそろ儂も仕事をしに行くか。ポチ!!」


 老人の声に反応して森から一人の獣人が現れる。その身に付けている装備から、その獣人の立場がかなり高いものだということが伝わってくる。しかし、獣人の目には生気がまるで無く、苦しそうにうめき声をあげていた。


「ポチ、そこの死体はお主らの新たな仲間じゃ。喜ぶといい、次に向かうのはお主らの故郷じゃ……さあ、行くぞ」


 故郷という言葉に反応して獣人が嘆きのような叫び声をあげる。それを聞きながら老人は可笑しそうに笑い、森の奥へ姿を消していった。


***


 皆さん、久しぶりです。主人公の柴久遠です。


 自爆をした僕は瞬時に瞬間移動を発動し森の奥へと移動した。ちなみに自爆をした日から既に三日が経過しており、僕はどこへ行こうか迷っているところだ。

 困ったことに今の僕は無一文である。正直、お腹がすいて仕方ない。川や食べれそうな木の実を食べることで何とかしのいできたが、正直限界だ。というか、食べた木の実が身体によくないものだったのかさっきからお腹が痛すぎる。


「今の状態で魔物に出会ったら死んじゃうなぁ……」


 笑いながらそう言うと、気の影からこっちを見る一匹の熊の様な生物が目に入る。熊の様な生物の口からは涎が垂れており、目は血走っており今にも襲い掛かってきそうだった。


「あー、良かったらこの木の実食べる?」


 僕はそう言って僕のお腹が痛くなった原因である木の実を熊の方に投げる。熊は木の実の臭いを少し嗅いだ後、咆哮を上げて僕の方に襲い掛かってきた。


「うわあああ!!やっぱダメな木の実だったんじゃん!!」


 必死に逃げるが、熊の方が僕より早く、あっという間に距離を詰められてしまった。


「ひょえええ!!」


 熊の振り下ろした腕を横に跳んで躱す。

 僕がいた場所を見れば、そこには二つに切れた大きな岩と、ギラリと輝く熊の大きな爪があった。


 え?いやいや、これ死ぬって……。ど、どうする!?自爆を使うか?いや、でもこんな熊を倒すために使うのは絶対に嫌だ!!でも、使わないと死んじゃうし……!!


 僕が迷っている間に熊が僕に襲い掛かってくる。


「い、いやああああ!!助けてえええ!!」


 も、もう自爆するしかない!!自分のステータスの中から何かを犠牲にして自爆しようと思ったその時、熊の目に矢が刺さった。


「グガアアアア!!」


 苦しそうにのけぞる熊の喉元に矢が続いて三本突き刺さる。


「ガアア!!!」


 苦しそうに叫んだあと、熊はゆっくりと地面に倒れた。


「そこのお兄さん、大丈夫~?」


 気の抜けたような声と供に僕の後ろから一人の女の子が姿を現した。


「あ、はい……助けていただきありがとうございます」


「別にいいよ~大爪熊ジャイアントベアを討伐するのがミアの仕事だしね~」


 ミアと名乗った女の子の頭には猫耳が生えていた。


「あの……その耳って……」

「ああ、人間には珍しいよね~。ミアは猫人族なんだよ~。ところで、お兄さんはこんな森の奥地で何をしているの?」


 僕は自分が異世界から来たことを隠しつつ、遭難したこと、お金がないことを説明し、ミアと名乗る女の子に助けて欲しいとお願いした。


「ん~面倒くさいな~……そうだ!このジャイアントベアを街に持っていってくれたら報酬を少し分けてあげるよ~。後、冒険者になれるようギルドに掛け合ってあげる~」


「是非お願いします!!」


 こうして僕はミアさんの舎弟の様に、街まで付き従っていくのだった。


 ミアさんに付いて暫く歩くと、夕方頃に一際大きな街に着いた。そこは数多くの獣人たちで賑わっていた。

 ファンタジーのような光景に思わず目を奪われているとミアさんから声を掛けられた。


「ほら、お兄さんぼーっとしてないでこっちついてきて~」

「は、はい!」


 すげえ……あっちもこっちも獣人だらけだ……。


 どこを見ても獣人だらけで、アニメの世界に飛び込んだかのような気持ちだった。


「そんなに獣人が珍しい?大分前から獣人と人間たちの間には国交が結ばれてるし、そんなに珍しくないと思うんだけどね~」


 そう言ってミアさんが疑いの視線を向けてくる。


「あ、いや……僕は田舎町の出身で獣人を見ることがほとんどなかったんですよ」

「ふ~ん。まあ、どうでもいいけどね~。ほら、あれが冒険者ギルドだよ~」


 ミアさんが指さす方向には一際大きな建物があった。

 ミアさんに着いて建物に入ると中は受付に並ぶ冒険者や酒場で酒を飲んでいる冒険者で溢れ返っていた。ミアさんについて受付に向かうと、そこには垂れた犬耳を頭に付けた女性が座っていた。


「ミアさん、お疲れ様です!とりあえず、大爪熊の討伐確認部位として後ろの大爪熊は受け取りますね。その……大爪熊を持っている方はどなたでしょうか?」

「お兄さんは森で拾ってきたんだ~。お金も何もないみたいだから冒険者登録させてあげて欲しいんだよね~」


 受付嬢の言葉と同時にガタイのいい獣人が二人現れ、大爪熊を持って行ってくれた。正直、僕のステータスでもかなり重かったから大助かりだ。


「そうなんですね!分かりました。では、そこの男性の方こちらに来てください!!」


 受付嬢に言われ、ミアさんと入れ替わる様に受付に向かう。


「では、こちらの書類によく目を通して、同視していただけるようでしたら署名をお願いします」


 言われるがままに書類を見ると、それは日本でもよく見る利用規約の様なものがあった。目を通して特に問題のある文はなかったため、署名をする。


「シバ様ですね!ありがとうございます。それでは、こちらのカードにご自身の血を一滴たらしていただいてもよろしいですか?」


 受付嬢に渡された針を指に軽く差し、カードに血を垂らす。すると、カードに文字が浮かび上がってきた。


「確認できました!こちらのカードはシバ様のギルド内での身分を証明するものになりますのでくれぐれも失くさないようにお気を付けください。それと、冒険者登録に当たって簡単な依頼を受けていただきます。今日はもう時間が遅いので受けていただくのは明日になりますがよろしいでしょうか?」

「はい」


 僕の返事を聞くと受付嬢の方は、大爪熊の討伐報酬を貰いギルドから出ようとしているミアさんに声を掛けた。


「ミアさん!明日、こちらのシバ様の依頼に付きそってくれませんか?」


 受付嬢がそう言うと、ミアさんは嫌そうな顔を浮かべた。


「え~。面倒くさいな~」

「お願いします!報酬は出しますので!」


 受付嬢のお願いにミアさんは諦めたようにため息を吐いた。


「はあ……も~しょうがないな~。お兄さんと出会ったことも何かの縁だし、受けるよ~」

「ありがとうございます!では、シバ様、依頼についてはミアさんから聞いてください!また、明日お会いしましょう!」


 そう言った受付嬢と別れた後、約束通りミアさんから大爪熊の討伐報酬の1割を頂いた僕は、ご飯を食べ宿屋に泊まり眠りについた」



 

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