第16話 はじめての自爆
武蔵と別れた後、僕と晴夫はうつ伏せで倒れているグランさんとヘルドさんのもとへ向かった。
「……うん。グランさんは呼吸はしてるみたいだ。」
「ヘルドさんも気を失ってるだけっぽいぞ。とりあえず、応急処置だけして魔物に見つからないとこに運ぶぞ。」
晴夫の指示に従い、2人で森の影にグランさんとヘルドさんを運び込む。
「……この2人がここまでボコボコにされるのかよ。武蔵たちは大丈夫なのか?」
晴夫の言う通り、僕の作戦の鍵を握っているのは実は武蔵だ。武蔵があの魔族相手に高火力の魔法を放てるかに全てが掛かっている。
「僕らは信じることしかできないよ。」
「そうだな……。よし、久遠。このまま合図が来るまで待機しておこう。」
晴夫の言葉に頷く。こっちの準備は整った。武蔵、後は頼んだぞ。
***
<side 武蔵>
「はぁ……はぁ……しゃれにならん強さでござるな……。」
「おいおい、救世主ってのはこんなもんなのか!?もっと楽しませてくれよ!!」
久遠、晴夫殿と別れた拙者は肩で息をしていた。目の前の魔族の男は拙者の想像以上の戦闘力を有しており、クラス内でもトップクラスの実力を持つ、拙者、神崎殿、夏樹殿の3人がかりでも全く歯が立たなかった。
「くっ……!村田、朱音!僕が必殺技をあいつにぶつけるから、それまで時間を稼いでくれ!!」
「ちょ!神崎!……っ!仕方ないわね!!」
3人がかりでギリギリなのに2人で持ち堪えられるわけないでござろうが!!
神崎殿の無茶振りに思わず突っ込みたくなるが、それさえも隙になりかねない。仕方なく夏樹殿と協力して魔族の男はを食い止める。
「おいおい……2人で止められると本気で思ってんのか?」
魔族の男は余裕の笑みを一つも崩すことなく、斬りかかる夏樹殿の剣を刀で受け止める。
「
夏樹殿の剣を弾き、夏樹殿に斬りかかる魔族に向けて大量の火球を放つ。
「おいおい、俺に魔法は意味ねえって教えたはずだぜ。」
魔族の男はそう言うと、火球をひとつ残らず斬った。斬られた火球はゆっくりと魔族の男が持つ刀に吸い込まれていった。
く……。やはり、あの刀が厄介でござるな……。
あの刀はどうやら魔法の魔力も吸い込むようで、拙者が放つ魔法は全て刀に吸い込まれていた。
「まあ、脅威にはならねえが面倒なことには変わりねえ。てめえを先にやっとくか。」
魔族の男が視界から消えたかと思ったその瞬間、拙者の目の前に刀が迫っていた。
「……っ!?」
間一髪でかわしたものの、避けた先には魔族の男の足があった。
「がはっ……!!」
ゴロゴロと地面を転がる。早く起き上がらなくては……!!すぐに顔を上げたが、魔族の男は視界から姿を消していた。
「どこでござるか!?」
「ここだよ。」
すぐ後ろから声が聞こえる。避けることは不可能。
くっ……。久遠殿、すまないでござる……!
やられる。そう思ったが、魔族の男の刀が拙者を捕らえることはなかった。
「……っ!!へぇ……。やるじゃねえか。俺に気付かれずに近づくとはな。」
「村田君!大丈夫?」
振り返ると、拙者の背中を守るように立つ武藤殿と武藤殿から距離を置いた位置にいる魔族がいた。
「武藤殿、助かったでござる。」
「気にしないで、君をここで失うわけにはいかないからね。」
武藤殿は魔族の男を警戒しながらもそう言った。その背中はとても頼りがいのあるものだった。
「ちっ……。面倒だなぁ、まあ、楽しめるならそれでいいかぁ!!」
再び、魔族の男がこっちに向かってくる。拙者は急いで魔法を唱えようとするが、その前に魔族の男を光が包み込んだ。
「
「ああん?何だこれ?」
あれは……確か春野殿の聖魔法。
「武藤君、朱音ちゃん、村田君、今だよ!!」
春野殿の言葉に武藤殿と夏樹殿が動き出す。
「アイアン・スラッシュ!!」
「
「……っ!!グハッ!!」
2人の攻撃が初めて魔族の男にダメージを与えた。
「
追撃するように拙者の魔法が魔族の男を包み込む。
「みんな!!ありがとう!!最後は俺に任せろ!くらえ!!エクス……カリバアアア!!!」
ここまで力を貯めてきた神崎殿が放つ光の奔流が魔族の男を包み込む。
正真正銘、今の拙者たちが放てる大技をぶつけた。だが、これでも恐らくは……。
「ハア……ハア……やったか?」
「神崎君!!後ろ!」
疲弊しきっている神崎殿に武藤殿が声を掛けるが、間にあわなかった。
「……ガハッ。い、いつの間に……。」
神崎殿の身体から、魔族の男が持っていた刀が出ていた。
「……くはは。さっきのはちと効いたぜ。だが、俺にはまだ届かなかったみたいだがなぁ。」
「くそ……皆……逃げ……ろ……。」
ゆっくりと神崎殿が地面に崩れ落ちていく。
「か、神崎!!」
拙者らの間に動揺が走る。それは、魔族の男からすれば十分すぎるほどの隙になっていた。
「おいおい、さっきまでの威勢はどうしたよ?」
夏樹殿に魔族の男が斬りかかる。さっき放った技の反動のせいか夏樹殿は全く反応できていなかった。
「
咄嗟に魔族の男を中心に辺りを吹き飛ばすような風を起こす。
「へ……きゃあ!!」
「朱音!?村田君、何で!?」
「神崎殿の言う通りでござる。ここは一旦、距離を置くでござるよ!!」
拙者の放った魔法により、魔族の男と拙者らの距離を置くことができた。これで、後は久遠殿が来てくれれば……!!
僅かな勝機が見えたその時、拙者の身体に何かが刺さる感覚があった。
「え……。」
「無理矢理、あの女を俺から離れさせるって考えまでは良かったな。でも、忘れたのか?俺に魔法は効かねえんだよ。」
そうだった……。全身から力が抜けていく感覚がある。だが、合図は既に出している。
久遠殿、すまぬ……後は頼んだでござるよ。
そして、拙者はゆっくりと意識を手放した。
<side end>
***
空に大きな火球が見えた。武蔵からの合図だ。
「晴夫、頼む。」
「ああ、最後にもう一度だけ確認させてくれ。これが上手くいけば全員笑える未来になるんだよな?」
晴夫が不安そうな顔で問いかけてくる。
「当たり前だろ。」
晴夫に向けて、僕は自身満々に答えた。
「……その言葉、信じるぜ。よし、久遠!行くぞ!!全員を救ってこい!!」
「ああ、任せろ!!」
晴夫が僕の背中を思いっきり押す。その瞬間、晴夫のスキル<ロックオン>により、僕の身体は魔族の男めがけて飛んでいった。
頼むから間に合ってくれよ……。
願いを胸に飛び続け、森を抜ける。
そこには、倒れ伏した神崎と武蔵。そして、魔族の男に襲われそうな春野さんを必死に守ろうとする健と朱音の姿があった。
ギリギリだけど、間にあった!!
「どりゃああああ!!」
声を上げ、魔族の男にしがみつく。
「ああ!?なんだこいつ?どっから湧いてきやがった!?」
「「久遠(君)!?」」
「朱音、健……今すぐここから離れろ!!」
驚いた表情を浮かべる朱音と健に声を掛けるが、二人は動こうとしなかった。
「あんたを置いて、どっかに行けるわけないでしょ!?」
「そうだよ、久遠君。何をするつもりか分からないけど僕らも戦うよ。」
「うるせえ!!てめえらは邪魔だからどっか行けっって言ってんだよ!!死にたくなければさっさとこっから離れろ!!」
僕の発言に尚、朱音が突っかかってこようとした時、朱音と健を光の球が包み込んだ。
「柴君、この中なら安全だから私たちに被害はないよ。だから、安心して。」
どうやら、光の球は春野さんが出してくれたようだ。
なら、遠慮なく自爆できるってもんだ。
「おいおい、何をするつもりだ?言っとくが、あそこで倒れてる勇者でも俺を倒すことはできなかったんだぜ?」
「ははは……そうかもな。だが、一発だ。お前は次の僕の一発で破滅に追い込まれる。」
僕の言葉に魔族は心底可笑しそうに笑った。
「くかかかか!!そりゃいい!!なら、見せてみろよ!お前の最高の技をな!!」
「ああ、見せてやるよ!覚えとけ、僕の名前は柴久遠!お前を破滅に追い込む奴の名前だ!!」
その瞬間、僕の身体を中心に光が溢れだす。
「……ってめえ!!まさか……!?」
魔族が何かに気付いたようだが、もう遅い。さあ、ド派手に散ろうか。これが、僕の人生初の自爆だ!
「楽しい人生だった!!皆、生き残れよ!!『大・爆・発』!!」
「くそがあああ!!このイカレ野郎がああああ!!!」
***
その日、メガンテリアの森を光が包み込み、轟音が響き渡った。その音からただ事ではないと判断した王国騎士団が現場に向かうと、そこにはボロボロの状態で横たわる騎士団や救世主たちと気絶した魔界四天王の一人『
意識を保っていた数人に話を聞けば、どうやらある一人の少年が『魂喰い』を倒すために自爆したという。だが、自爆魔法で倒せるほど魔界四天王は甘い相手ではない。結局、この日の一件は救世主たちが新たな力に目覚め『魂喰い』を倒したとされた。
だが、『ジバクオウ』という男の自爆を見た今なら救世主たちの証言が真実だった可能性は高い。また、このメガンテリアの森の事件には興味深い話がある。それは、この森で見られた光と、鳴り響いた轟音が『ジバクオウ』のものと非常に似ているというものだ。
果たして、『ジバクオウ』とこの森で自爆したと言われている少年にどのようなつながりがあったのか、それは未だに解明されていないこのボンバール大陸の一つの謎である。
<ボンバール大陸史~救世主たちの足跡~より抜粋>
***
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