第14話 襲撃
「うおおお!!ライトニング・スラッシュ!!」
「ギョエエエエ!!」
神崎君が半魚人のような魔物を光り輝く剣で斬る。半魚人は断末魔を上げて爆散した。
「さすが勇介だぜ!」
「神崎君かっこいい!!」
半魚人をあっさりと倒した神崎君にクラスの皆が駆け寄る。
おいおい、隙だらけだぞ。
「キシャアアアア!!!」
仲間を倒された恨みからか、近くにいた半魚人が神崎君に集まったクラスメイトに襲い掛かる。
「ひっ!」
「「「ギョエエエエエ!!」」」
しかし、半魚人たちは朱音と武蔵、春野さんによって倒された。
「「「ありがとう!朱音、瑞樹!!」」」
クラスメイトから感謝の言葉が告げられるが、武蔵は無視されていた。まあ、武蔵は端っこから魔法を撃ってただけだから気付かれてなかったのかもしれないが。
「無視されてるけど、いいの?」
「真の英雄は己の功績を誇ったりしないものでござるよ。」
武蔵はどや顔でそう言うけど、それは違うと思う。戦国武将とかめちゃめちゃ『〇〇の首、討ち取ったり!!』って言うし……。
「何をしている!!」
ローズさんの怒号が響き渡る。
「この森に入った瞬間から、常に警戒を怠るなと言っただろ!」
ローズさんの言葉に神崎君の周りにいたクラスメイトたちが気まずそうな顔を浮かべる。
「まあまあ、ローズさん。彼らも悪気があったわけではありませんから。それに、どんな敵が来ても俺と朱音、瑞樹にかかれば楽勝ですよ!!」
神崎君が笑顔でそう言った。だが、そういうことではないと思う。ローズさんも若干、困ったような顔をしていた。
まあ、それより……。
「武蔵、また無視されてたね。」
「ヒーローはいつだって孤独なものでござるよ。」
武蔵はどや顔でそう言うけど、それは違うと思う。一応、武蔵には僕と晴夫がいるし。まあ、死んでもそのことを言うつもりはないけど。
「そういう問題じゃねえんだよ。勇者様よ。てめえがいない時はどうするんだ?結局のところ、最後には自分の身は自分で守らなきゃいけねえ。誰かがいつも守ってくれるなんてことはあり得ねえんだ。それを自覚して行動しろって言ってんだよ。」
帝国副兵士団長のグランさんの言葉に、さすがの神崎君も何も言えないようだった。クラスメイトの何人かも、グランさんの言葉に少し不安そうな顔を浮かべていた。
「……君たちは強い。それは……俺も、グランもローズもよく分かってる。だからこそ……慎重に行動してほしい。……そうすれば、君たちに敵はいない……。」
不安そうな顔を浮かべるクラスメイトにフラム獣王国第3師団長のヘルドさんが声を掛ける。普段、寡黙なヘルドさんの言葉だからこそ、その言葉が本心のものだということがよく分かる。
クラスメイトもヘルドさんの言葉に気を持ち直したようだった。
「よし。では、これからはそれぞれのパーティーでの行動を意識して森の奥に進んでいくぞ。出来る限り、自分たちの力で魔物は倒すようにしろ。だが、どうしようもないときは遠慮なく私たちを頼れ。」
ローズさんの言葉に全員が頷いた。
***
かなり、森の中心部に近づいてきたところで前方にいるローズさんと神崎君のパーティーが足を止めた。
「よし、かなり進むことが出来たな。もうすぐ昼になるし、今日はこの辺で引き返そう。」
ローズさんの言うように、もう太陽がほとんど真上に上っていた。ローズさんの言葉を聞き、クラスメイトの緊張の糸が一瞬緩む。
まあ、ここまでほとんど絶え間なく魔物と戦い続けてきたしね……。ちなみにだが、ほとんどのクラスメイトが魔物との戦いでは苦戦することはなかった。健や僕でさえも、ローズさんとの訓練のおかげかほとんど問題なく魔物を倒すことが出来た。
「引き返すが、油断はするなよ。むしろ気が緩みやすい帰り道が一番危ないからな。」
ローズさんの言葉にクラスメイトの顔が引き締まる。今日の戦いでクラスの皆は精神的に大きく成長したように思える。魔物を倒したことで自信がついたというのが大きな要因だろう。
ならば、ここで圧倒的な強者に会敵すればどうなるか?
自分たちがこの世界でも戦えると思っている今、僕らの頭の中に逃亡の選択肢は恐らくない。だからこそ、正しい判断が遅れ、全滅になる可能性は十分ある。
「武蔵、晴夫……来るならここだ。いつでも動けるよう準備しといて欲しい。」
僕の言葉に武蔵と晴夫の表情が強張る。
心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。正直、このまま何も起こらなければ、それはそれでいいんじゃないかという気持ちはあった。
だが、森の中で風向きが少し変わったことで確実に何かが起こることを確信した。
「……っ!!グラン!ヘルド!来い!!その他の護衛はすぐに救世主たちを守れ!!」
ローズさんの焦ったような声が響く。その声に反応して、グランさんとヘルドさんがすぐにローズさんの傍に向かった。
ほとんどのクラスメイトが何が起きているのか理解できていないようだった。だが、僕と武蔵、晴夫それと健と朱音も何かやばいやつが近づいてきていることに気付いているようだった。
「おうおうおう……人間、獣人の中でも中々の有名人がいるじゃねえか。こりゃ、救世主だけかと思ったが意外と楽しい時間を過ごせそうだなぁ。」
ボロボロのローブのようなものを纏い、手に黒い刀を携えて、その男は現れた。
黒い角に浅黒い肌、そして怪しく光る赤い目。
「魔族……!!」
誰かが呟いたように、その特徴は教会で僕らが教わった魔族の特徴に合致していた。
「お前は……まさか”
ローズさんぼ言葉に魔族は嬉しそうに口角を上げた。
「へえ……。どうやら俺もかなり有名になったみてえじゃねえか。」
「くっ……なぜ魔界四天王がこんなところにいる!?」
”魔界四天王”それは、魔界にいる魔族の中で魔王に次ぐ4人の実力者のことを指す。かつてはとある四天王一人の手で一国が落ちたとされるほど、強力な力を持つ存在のことだ。
「くくく……!なぜかって?簡単なことだよ、わざわざ異世界から呼ばれたっていう救世主を殺すためだ。」
その瞬間、あの日、王城の庭で受けた殺気と同じ、濃密な殺気が辺りを覆った。
その殺気に当てられてか、クラスメイトの何人かは腰を抜かし、ほとんどのクラスメイトが顔を青ざめ、一歩も動けなくなっていた。
だが、もちろん例外もいる。
「俺たちを殺すだと!!そんなことさせてたまるか!四天王だか、なんだか知らないが俺は勇者だ!俺がお前をここで倒してやる!!」
神崎君は剣を構えるとそのまま魔族に突っ込んでいった。
「っ!!神崎!やめろ!」
「うおおおお!!食らえ!ライトニング!スラッシュ!!」
ローズさんの制止を無視して神崎君は魔族に光の一撃を放つ。その一撃はローブを捉えた。
「や、やった!!」
誰かが喜びの声を上げる。
馬鹿野郎!!それはフラグだ!!
案の定、神崎君が捉えたのはローブだけで、魔族の姿は消えていた。
「な……!どこだ!?」
「後ろだ!!」
僕が叫ぶが、もう遅い。魔族は刀を構え、今にも神崎君を斬ろうとしていた。
「くかか!!中々、いい攻撃だったぜぇ。ま、相手が悪かったけどな!!」
今にも神崎君に攻撃が当たるというその時、神崎君と魔族の間にローズさんが飛び込んだ。
「ぐ、ぐあああ!!」
「ろ、ローズさん!!」
神崎君がローズさんに近寄るが、魔族は仕留めそこなった獲物をしとめるために刀を構えなおしている。
「させるかよ!!」
「……っ!!!」
だが、そうはさせないとばかりにグランさんとヘルドさんが魔族を止めにいった。
さすがの魔族も、その二人の攻撃は無視できなかったようで大きく後退した。
「あーあー、邪魔すんじゃねえよ。どうせ、全員死ぬんだから先に仕事を終わらせろよ。」
「誰がてめえの思い通りにさせるかよ。こいつらはガキだが、間違いなく人間たちの希望なんでな……。ここは死んでも通さねえよ。」
「神崎……ローズとクラスメイトを連れて、逃げろ。」
ヘルドさんの言葉に神崎は食い下がろうとする。
「お、俺も戦いま「神崎!!!……逃げろ。」……っ……はい。」
ヘルドさんの表情で神崎も自分の手に負える状況じゃないことを理解したようで、ローズさんを連れてこっちに走ってきた。
「皆、逃げるぞ!!今の僕たちじゃ、何もできない!!」
神崎の言葉にクラスメイトが一斉に走り出す。だが、それは悪手だ。
「う、うわああああ!!」
「ちょ、押さないでよ!!」
「し、死にたくない死にたくない!!」
「ど、どけ!!邪魔なんだよお!!」
この通り、平和な世界で生きてきた僕らが命のかかったこの場面で冷静に行動できるわけがない。そして、あの魔族が何も手をうってないとは思えない。
「「「キシャアアアア!!」」」
逃げることに必死で隙だらけとなった僕らに四方八方から魔物が襲い掛かってくる。
僕らの護衛が必死に応戦するが、数が多い。僕らが戦えば問題のない数だが、今の僕らの中に冷静に行動できる人間なんて数えるほどだ。
だが、この状況は予想の範疇だ。
「武蔵、晴夫……やるぞ。」
「しゃーねえな……。」
「今こそ、英雄になるときでござるな。」
こうして、僕の『初めての自爆』は幕を開けた。
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