第10話 駆け足修行回(イジメもあるよ)
「どうした!その程度か!!」
「くっ!ま、まだいけます!!」
美しい朝焼けをバックに僕はローズさんに何度も立ち向かう健を見ていた。この映像だけで言えば、まさしく健は異世界転生し、力を渇望する主人公の姿そのものだった。ローズさんもどことなく健の姿を好意的に見ているような気がした。
ちなみに僕は何やら嫌な気配がすると言われ、開始3秒でローズさんに戦闘不能にされた。ローズさんからは謝られたが、そのおかげで僕はただ地に伏して健を見守ることしかできない。
「よし。初日はここまでにしておこう。ケン、お前はステータスは確かに低いが、その学習能力の高さは中々だ。その調子で精進することだ。」
「はい!!」
疲労からか仰向けになっているケンにローズさんからお褒めの言葉が入る。ケンは嬉しそうに返事をしていた。
「あー、それと……シバすまなかったな。私としたことが加減を間違えてしまった。大丈夫だとは思うが、今日の訓練は大事をとって休め。私から皆には伝えておく。」
ローズさんが深々と頭を下げる。ローズさんが嫌な気配がすると言ったのは十中八九、僕の邪神の加護のせいだし、そこまで謝られるとこちらが申し訳なくなってくる。
「いえ、大丈夫です。お言葉に甘えて今日の訓練は休ませてもらいます。」
僕の言葉に少し健は寂しそうにしていた。健には申し訳ないが、今日の訓練は一人で頑張ってもらおう。
「分かった。それでは私は浴場に行く。君たちもすぐには無理かもしれないが、遅くなりすぎないうちに汗を流しておくといい。」
そう言ってローズさんはその場を後にした。
「健、お疲れ。」
「久遠も災難だったね。」
暫くして、僕らも浴場に向かった。
***
さて、本来なら訓練をしている時間だが今日は違う。ローズさんには安静にしろと言われたがそんなことをしている暇はない。
「それではシバ様。困ったことがあればすぐにお呼びください。くれぐれも無茶はなさらないように。」
エリザさんからの忠告があったが当然無視だ。エリザさんが部屋から出て行くのを確認した後、僕は早速ルイン様からいただいた<瞬間移動>のスキルの練習を始めた。
とりあえず、ドアの前くらいまで移動してみるか……。
自爆の時みたいに、瞬間移動したいって念じればいいのかな。まあ、やってみるか。
瞬間移動!!
シュン!!
「おお!成功した……ってあれ……?」
ドアの前に移動することはできたが、移動した瞬間に目の前が真っ暗になった。
「ん……ここは?」
目が覚めると、そこはベッドの上だった。
「何をしていたか知りませんが、安静にしてなさいと伝えましたよね。」
身体を起こすと、エリザさんがジト目でこっちを見ていた。
「エリザさんが運んでくれたの?」
「はい。大きな音がしたかと思えばシバ様が倒れていたので驚きました。何をすれば
訝しむようにエリザさんは僕を見ていた。
「そうなんだ!ありがとう、エリザさん!いやー、異世界に来て魔力が使えるからってはっちゃけちゃってさ……失敗、失敗。」
僕は笑いながらそう言った。上手くごまかせているといいのだが。
「まあ、いいです。では、今度こそ安静にしておいてください。」
そう言ってエリザさんは再び部屋から出て行った。
さて、どうしようか。さっきの感じだと瞬間移動一回で僕は
瞬間移動!!
念じてみたものの、僕の身体は少しも動いていなかった。
どうやら、今の僕は魔力を全て消費して初めて瞬間移動ができるようだ。
仕方がないので、今日はゆっくりと休むことにした。
***
次の日、今日は僕と健の二人でローズさんの相手をしていた。
「ふ……甘い!」
「ぐえっ……。」
「久遠!」
「戦闘中によそ見は悪手だ。」
「うわぁ!」
僕が倒され、その直後に健も倒されてしまった。
「ふう……。動きや連携は悪くはないが、まだまだ甘いな。もっと精進するように。今日はこれで終わりだ。」
「「ありがとうございました……。」」
***
よし、今日も瞬間移動しよう。僕も学んだからな、今日は部屋の外からベッドに行こう。
瞬間移動!!
シュン!!
ふう……。成功だな。よし、おやすみ。
***
さて、そんな感じで朝はローズさんと訓練。昼はクラスメイト達との合同訓練。夜は瞬間移動を繰り返すこと10日が過ぎた。その日は珍しく眼が冴え、夜中に僕は散歩に出ることにした。
普段、瞬間移動でぐっすり眠っているが、最近は瞬間移動しても身体がだるくなるくらいで気を失うことはほとんどなくなった。
順調、順調。10日後には魔物討伐の遠征に行くらしいし、いい感じに僕の計画は進んでいるな。
「おいおい……武藤。てめえ、最近調子に乗ってんじゃねえか?」
気分よく、散歩していると王城の庭から粘っこい嫌味な声が聞えた。陰からこっそりと様子を見ると、そこにはクラスの男子数人が健を取り囲む姿があった。
「馬場君……。別に調子にのって何かないよ。」
どうやら、健を囲んでいるのは日本でも健によく突っかかっていた馬場、柳、牛尾、米田の4人組のようだった。
「その態度が!調子にのってるって言ってんだよ!!」
馬場は力任せに健の胸倉を掴んだ。
「ぐっ……。」
ステータスの高くない健では馬場の力に到底敵うはずもなく、馬場に首を絞められ持ち上げられていた。
「ぎゃはは!てめえ、弱いからこっそりローズさんと訓練してんだろ?なのにこの弱さかよ!努力する意味ねえじゃねえか!!」
「っ……。」
健は悔しそうに顔を歪ませていた。僕と健はローズさんとの秘密の特訓で少しは強くなれたと思っていた。でも、僕らの成長は他のクラスメイトからすればミジンコがアリになった程度、些細なものなんだと嫌でも自覚させられた。
「あーん?何だよその目は……。弱いくせに強がってんじゃねえよ!この雑魚が!!」
悔しそうにしながらも馬場を睨みつける健に苛立ったのか、馬場は健を地面に叩きつけた。
「ぐあ……!」
苦しそうに健がうずくまる。
「あーあー……うぜえ……。弱いくせに春野さんとかローズさんに近づきやがって……。あの二人もなぁ!てめえの弱さにはうんざりしてるだろうよ!!」
馬場が健の頭を踏み付けようとする。さすがに、それは見過ごせないな。
「待てい!!」
僕は意気揚々と庭に飛び出した。
「……!?なんだ、柴かよ。どうした?同じ雑魚同士、通じるもんでもあったか?」
馬場達4人組は一瞬焦りを見せたが、止めに来たのが僕だと分かるとまたニヤニヤと気持ち悪い笑みを顔に浮かべた。
「いや、健は僕の親友だからね。さすがに、暴力を振るわれてたら見逃せないって。」
「へえ……。類は友を呼ぶってやつだなぁ。」
4人組はそう言って僕らを笑っていた。
「そういや、てめえは夏樹のやつと仲が良かったなぁ。こりゃ、身の程をわきまえねえバカ二人を俺らが成敗しないといけねえな。」
すると、馬場の後ろにいた牛尾が僕の方に近づいてきた。
だが、僕はポケットから隠し持っていたあるものを取り出して馬場達に見せつけるようにそれを掲げた。
「……!それは……!」
「悪いけど、君たちの悪行はここにばっちり納めさせてもらった。これを広められたくなかったら、僕にも健にも手を出さないことを誓ってもらおうか?」
僕が馬場達の目の前に掲げたのはスマートフォンだ。異世界に来た以上、できることは少ないが写真を撮ることくらいはできる。
「へっ……。問題ねえなあ!」
「へ?ふげえ!!」
完全に勝利を確信して油断していた僕を牛尾が殴り飛ばす。
「はっはっはっ!!ふげえ!だってよ!!」
僕を殴り飛ばした牛尾が高らかに笑う。そして、僕が殴られたときに落としたスマートフォンを踏み付けた。
「ほらよ……。これで、証拠隠滅完了っと。」
「下らねえことしやがってよ。さーて、じっくりとボコボコにしてやるよ。」
舌なめずりをしながら、牛尾が僕に、馬場が健に近寄っていく。
あ、あれ……?これって、やばくね……?
「ち、ちょ……誰か助けてー!」
「ははは!こんな時間に出歩くやつがいるかよ。」
「いるわよ。」
絶望に飲み込まれそうになった時、僕らの前に現れたのは……頼れる姉御こと朱音だった!!
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