第9話 邪神の加護

 邪神。魔族たちに加護を与える存在であり、この世界では悪神とされているらしい。過去には魔王を従えて直接、人間たちを滅ぼそうとしたこともあるらしいのだが……目の前の女性にそんなことが出来るとはとても思えなかった。


「ふっふっふ。驚いておるようじゃな。」


 僕の沈黙を呆気に取られていると思ったのか、ルインは得意げだった。

 それにしても、この女性が本当に邪神だとすれば気がかりなことが一つある。


「邪神様は……「ルイン様と呼ぶがいい。」……ルイン様は人間をどう思っていますか?」


 ルイン様は僕を見た時、驚きはしていたものの嫌悪の感情は見られなかった。だが、僕が教えられた邪神は人間を激しく嫌悪し、滅ぼそうするような存在だったはずだ。


「んー。人間か……別に何も思わんが、嫌いではないぞ。たまに面白い人間もおるしの。」


 どうやら人間に対して嫌悪感を抱いている様子はないようだ。なら、あの話は何だったのだろうか?


「だが、我は人間からは嫌われておるようじゃな。そもそも我がこの世界を担当することになったのはつい最近のことだというのに……。」


「それはどういうことですか?」


「ああ……元々この世界には我とは別の邪神がおったのじゃがな、その邪神が魔王と呼ばれる魔族に殺されたらしい。それが理由で我がこの世界の新たな邪神として呼ばれたというわけじゃ。」


 あー、なるほど……。おそらく教会の人たちに教えてもらった邪神はルイン様が来る前の邪神のことなんだろう。これで、謎は1つ解けたのだが、もう一つ気になることができた。


「神も死ぬんですか……?」


「まあ、基本的には死なんがな。だが、その魔王は特殊なスキルを持っておったらしくてな……そのスキルの効果で邪神が殺されたらしい。おまけに、その魔王と呼ばれるやつがその邪神が持つ加護を与える能力を邪神から奪ったらしくてな……おかげでこの世界の我は特に仕事のないニート神になってしまったのじゃ……。」


 この世界に関する重要な情報をさらっと知ってしまったのだが……どうしよう……まあ、スルーでいいか。


「ニート神……?何故ですか、邪神なら魔族に加護を与えるんじゃないんですか?」


「その魔族に加護を与えるという数少ない仕事を魔王に奪われたんじゃ。基本的に、この世界では一人の神からしか加護を与えることは出来んのじゃ。魔王は人ではないが、今の魔王は半分神のような状態じゃからな……。」


 ルイン様はため息を吐きながらそう言った。

 どうりで暇人のような部屋になっているわけだ。


「そうじゃ!お主に妾の加護をやろう!それがいい!よし、ちょっとお主、妾の信者になれ。」


「いやいや、ちょっと待ってください。一応、僕は異世界からの転移者でフレア様という神様から加護を頂いているらしいんですよ。」


「なに?お主、フレアの加護を受け取るのか?ちょっと見せてもらうぞ。」


 そう言うと、ルイン様は目を細めてじっと僕を見つめてきた。


「ふむ……。問題ないな!お主はフレアのお気に入りというわけではないようじゃから、妾が奪っても問題ないじゃろ。ほれ、あとはお主が妾の力を求めればいいだけじゃ。」


 ルイン様は早く、早くと笑顔で僕を誘ってくる。

 いやいや、さすがに人類の敵とか言われている邪神の加護を貰ってもなぁ……。


「むぅ……。何を悩んでおるんじゃ?今なら、お主が食いついてきた妾の技が使えるようになる特大サービスを付けてやっても良いぞ?」


「本当ですか!?」


 それが本当なら、この話受けないわけにはいかない!!


「じゃから……ち、近い……。」


 おっとっと。また、焦って近寄りすぎたようだ。


「ルイン様の言っていることが本当なら、喜んでその話受けさせてください!お願いします!!」


 僕は土下座してそう言った。


「お、おお……。誘った妾が言うのもなんじゃが、人間たちからすると妾の加護はあまり良いものではないぞ。それでもいいんじゃな?」


「もちろんです!」


 あの瞬間移動のような技は今の僕が一番求めているものだ。それを手に入れるためなら多少のリスクは仕方ないだろう。


「よし分かった。なら、妾の前にひざまずくのじゃ。」


「はい!!」


 僕は素早くルイン様の前にひざまずく。


「うむ。ならば、始めるぞ。……汝、いついかなる時も神ルインを崇拝し神ルインの信者たることを誓うか?」


「誓います。」


「神ルインの名のもとに、人間シバ・クオンを我が信者とし、加護を与える。」


 僕の身体を禍々しい光が包み込む、そして、僕の中で何かの力が失われていく感覚があった。


「よし、できたぞ。ほれ、この紙に今のお主のステータスを写しておいたから確認してみるがいい。」


 紙を見ると、確かに僕のステータスに大幅な変化が加えられていた。


=================


NAME:柴 久遠

TRIBE:人間(邪神の信者)

HP(体力):50

MP(魔力):50

STR(筋力):50

VIT(耐久):50

INT(知力):50

AGI(敏捷):50

LUK(運):50


スキル:<言語理解><瞬間移動>



<<<自爆>>>



=================



 おお……!確かに、瞬間移動というスキルが新たに加えられている。でも、若干前よりステータスが下がったような……。


「ああ、そうじゃ。瞬間移動のスキルをお主に付けるためにいくつかお主のステータスを使わせてもらったぞ。あと、言語理解だけは残しておいたぞ。」


 まあ、ステータスに関してはこれから上げることができるからいいか。


「ありがとうございます!!」


「それじゃ、そろそろ妾は寝るからお主を元の場所に転移させるぞ。」


「あ、はい。」


 返事を返した時には、既に僕は元の王城の書庫にいた。


「シバ様!ここにおられたのですね。もう寝る時間ですよ。早く部屋に戻りましょう。」


 僕がルイン様にあっている間にそれなりの時間が過ぎていたらしく、エリザさんが僕を探していたようだった。


「うん。すぐ、戻るよ。」


 僕はエリザさんに返事を返して、薄汚れた本を書庫に戻した後部屋に戻った。


 そういえば……あの本の筆者が酷い目にあうとかなんとか言ってたけど……まあ、いっか。



*****

<side ???>


 くくく……。まさか、破滅の名を持つ神の加護を得るとはな。


 邪神が人から忌避される本当の理由はその加護の効果にある。邪神の加護は人間に与えた場合、その邪神が冠する名と同じ末路を加護の持ち主は辿ることになる。

 そんなことをあの人間は当然知っていないだろう。


 ああ……これだから人間は面白い。何も知らないくせに自分に都合のいい解釈をする。それが、自らの首を絞めることになると気付かずにな。


 さあ、自爆と瞬間移動。この二つでお前は何をする?

 この俺の期待を裏切ってくれるなよ?

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