第7話 初めての訓練

「ピーチマン・モモタロウは素晴らしい男性です!!」


 興奮したようなフィール皇女の声が夜空に吸い込まれる。


「それで、ピーチマン・モモタロウは最強最悪の暴虐の龍、オロチ・オブ・ヤマタを倒した後どうなったんですか?」


 健が話し始めた、ピーチマン・モモタロウ通称「桃太郎」は予想以上にフィール皇女にうけ、現在はシーズン4「暴虐の龍オロチ・オブ・ヤマタとの戦い」が終わったところだった。

 最早、桃太郎の功績ではないものが混ざっているが、フィール皇女が楽しそうだからいいだろう。てか、健の語りが普通に上手い。

 なんだかんだで僕まで続きが楽しみになってしまっていた。


「オロチ・オブ・ヤマタを倒したピーチマン・モモタロウにようやく平穏が訪れると思われた。これからはお爺さんとお婆さんと供に平和に過ごそう。そう思った時、村に恐ろしい奇病が蔓延したんだ。その奇病でお爺さんもお婆さんも倒れてしまう。お爺さん、お婆さん、村の皆を助ける方法はただ一つ。奇病の発生源であり、ピーチマン・モモタロウを恨み続ける男、Mr.コロナを倒すことだった。そして、ピーチマン・モモタロウの最後の戦いが始まる……。」


「そ、そんな……お爺さんとお婆さんが……。そ、それで、ピーチマン・モモタロウは勝つのですよね?」


「勝ったよ。でも、Mr.コロナの正体は奇病そのものだったんだ。奇病に罹った人が第2、第3のMr.コロナとなる……。その事実を知った時、ピーチマン・モモタロウは絶望する。世界を救うためにピーチマン・モモタロウは奇病に罹り、Mr.コロナへと変貌してしまったお爺さん、お婆さんと戦わなくてはならなかった……。」


「そ、そんな……。つ、続きはどうなるんですか!?」


 フィール皇女が目を血走らせて健に詰め寄る。

 僕も続きが非常に気になっていた。


「……続きは……。」


ゴクリ。


 唾をのむ音が聞こえてくるほど、その場は静かで、健の次の言葉を僕とフィール皇女は待ち望んでいた。

 いよいよ、健が喋ろうかというその時、背後から渋い声が響いた。


「お、フィールちゃん。ここにいたのか。もう、交流会は終わったから帰るぞ。」


「お、お父様!?そ、そんな……もう少しだけ、ここにいれないのですか?」


 声を掛けてきたのはどうやら、フィール皇女のお父さんのようだった。

 ん?皇女のお父さん?……皇帝じゃねーか。


「いさせてやりたいが、もう他の人は解散してるからなぁ。俺たちは王城に一泊するから、もう移動しないとさすがに厳しい。」


「そうですか……。」


 フィール皇女は肩を落として落ち込んでいた。

 そんなにモモタロウにはまったのか……。


「今日はありがとうございました。とても楽しい時間を過ごすことができました。あなた方なら、きっと、これから我が帝国に来る機会もあるでしょう。その時に、是非「ピーチマン・モモタロウ」の続きをお聞かせください。」


 フィール皇女はそう言うと、皇帝の方へと歩いていった。

 皇帝は特に僕らに声をかけることはなかったが、僕らを見定めるようにじっと見つめていた。




「ふー。いやー、思ったより話が長くなったね。」


 皇帝がいなくなり、緊張がとけたのか健はベンチに寄りかかっていた。


「そうだね。ところで、話の続きはどうなるんだ?」


「あー、知らない。」


 健は他人事のようにそう言った。


「いや、知らないって……大丈夫なのか?」


「まあ、次にフィール皇女に会う時までに考えとくよ。」


 考えとくってことは、やっぱさっきの話は健が考えたのか……。なるほど、これが最近話題のハイスペックぼっちって人種か。


「まあ、次に会う機会があればだけどな。」


「そうだね。疲れたし、僕らも部屋に戻って休もうか。」


 僕と健は部屋に戻って次の日に備えるのだった。



***



「シバ様、おはようございます。」


「エリザさん、いつもありがとうございます。」


「いえ、これが私の仕事ですから。」


 今日もいつものようにエリザさんの声で目を覚ます。

 それにしても、昨日はエリザさんの新しい一面が見れた日だったっけ。


「昨日のエリザさん、可愛かったね。」


「何を言っているのですか?昨日は特に何もありませんでしたよ。」


 何か面白い反応が見られるかな、と思ったけどエリザさんの態度はいつも通りだった。


「おかしなこと言ってないで、早く起きて下さい。私は先に部屋の外でお待ちしています。」


 そう言って、エリザさんは足早に部屋を出ていった。部屋を出る瞬間、チラッと見えたけど頬が若干赤みがかっていた気がする。


 クールな人が照れてることを隠そうとするのって、ずるいな。可愛すぎて惚れるわ。


 エリザさんを待たせるわけにも行かないので、僕は素早く着替えて、エリザさんと共に食堂に向かうのであった。



***


 食堂で食事が終わると、クラスメイト全員と共に王城へと向かうことになった。

 僕らが過ごしていた教会は元々、バーン王国にあり、教会では大規模な武器を使った訓練ができないため、これからは僕らは王城で生活することになるとのことだった。


 王城に着くと、早速バーン王国の国王の簡単な挨拶があった。その後は各自いったん部屋に案内された。

 ちなみに、教会のときに担当してくれたメイドはこれからも僕らに継続して付き従ってくれるみたいだった。


 よかったぜ。エリザさんと折角仲良くなったのに、離れるのは寂しいからね。


「シバ様。初めての訓練頑張ってください。」


「うん。頑張ってくるよ。」


 今日からいよいよ、実戦訓練。

 僕はエリザさんに返事を返して、王城の兵士訓練場へ向かった。



 訓練場にはクラスメイトだけでなく、王国の兵士と思われる人が何人か集まっていた。


「全員集まったみたいだな。私は、君たちの指導を務めるバーン王国副騎士団長ローズ・ガーネットだ。よろしく頼む。」


「同じく、てめえらの子守りをする帝国副兵士団長グラン・バーンズだ。」


「……フラム獣王国第3師団長ヘルド・バルトだ。」


 どうやら、基本的には名乗ってくれた3人が僕らの指導をしてくれるようだ。


「さて、早速だが君たちの基礎的な体力を知るために君たちにランニングを行ってもらう。」


「えー。そんなんより、武器使って戦った方がいいだろ……。」


 クラスの中から不満の声が出る。異世界だからこそ、すぐに戦えると思っていたのだろう。


「君たちに先に言っておくが、今までに異世界からやって来た救世主のうち毎回、少なくとも3人は死んでいる。」


 ローズさんの言葉にクラスメイトの一部の顔が青ざめる。


「その死因のほとんどが疲労からだ。君らはステータスは確かに高い。だが、重い武器を装備して長距離を移動することには慣れていない。そんな状態で戦いに出ても移動に無駄な体力を消費して、無駄死にするだけだ。」


 ローズさんの言葉に、文句を言っていた人も渋々ではあったものの理解を示したようだった。


「それでは、各自この30キロの重りを背負ってヘルド・バルトに付いていけ。私がいいと言うまでは走ることをやめるなよ。」



 30キロか……重そうだな。

 そう思いながら、重りを背負う。だが、予想よりも重りはずっと軽く感じた。周りを見ると、クラスメイト全員が予想より軽い重りに驚いていた。


 なるほど……これがステータスの力か。


「何をぐずぐずしている!早くしろ!!」


 ローズさんに叱られて、僕らは慌ててヘルド・バルトさんを追いかけ始めた。


 

 

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