第6話 皇女との邂逅
「暇だね……。」
「うん……。」
交流会が始まり、もう2時間近く時間がたったが、僕と武藤君は完全に暇を持て余していた。
周りでは、各国の有力者と思われる人たちと僕らのクラスメイトが楽しそうに交流していた。勿論、初めのうちは僕らの所にも何人かの人たちがいた。しかし、全員が健のスキルがないことを知ると、どこかへと姿を消していった。
「久遠は僕と違ってスキルもあるんだし、僕は放っておいてどこか行ってきなよ。」
「いや、いいよ。無能ってことを知って離れていくような人たちと仲良くしたいとも思わないし、目立ちたくないしね。」
「そっか……。でも、どうしよっか。お腹いっぱいでもう料理も食べられそうにないし。」
そうなのだ。やることがなく暇となった僕と武藤君は、交流に夢中でほとんどの人があまり手をつけていない料理を楽しんでいたのだが、予想以上に交流会が長く、お腹がいっぱいになってしまったのだ。
「うーん。そうだ!少しベランダの方に出てみない?」
僕の提案に武藤君は快く了承してくれた。
外に出ると、先客がいた。
「おや……。あなた方は、確か『無能』と『モブ』でしたかしら……?」
「健。お前、いつの間にやら『モブ』ってあだ名付けられてるぞ。いいの?」
「いや、『モブ』は久遠のことだよ。クラスのオタクたちが僕らのことをそう言っていたのを聞いたから、間違いないよ。」
「なっ!?僕がモブだって?あいつら……異世界に来て強力な力を手にしたからって調子に乗りすぎじゃない?」
「……あなたたち、この私を前にしてそのような態度が許されると思っているのですか?」
「調子に乗るのも仕方ないよ。それに悔しいけど、『無能』も『モブ』も事実だから……。」
「ちょっと待て。健、君の『無能』は事実かもしれないが僕が『モブ』っていうのはどうなんだ?こう見えても、僕は爆発オタク的なところがあるし、キャラはかなり立っている方だと思うよ?」
「……っ!ふ、ふ~ん。この私を無視するとはいい度胸じゃありませんか。どうやら、あなた方は聞いていた通り、救世主たちの中でもかなりの低俗な方のようで……「爆発オタクって言ってもそれを知っている人はほとんどいないよ。僕だって今知ったし。久遠、キャラっていうのは知られなきゃ意味ないんだよ。いくら君が爆発オタクでもそれを知る人がほとんどいないなら、君は特に取り柄のないモブだ。」
「なん……だと……!?」
「……グス。……無視しないでよぅ……。」
僕がモブという驚愕の事実が判明した時、女の子の涙をすする音が聞こえた。音が聞えた方を向くと、そこには14歳くらいの年齢と思われる女の子の姿があった。黒い大人っぽさを感じさせるドレスは子供っぽい顔の女の子にはあまり似合っていないように感じられた。
「健。どうやら、僕らはあの女の子を無視していたみたいだ。女の子を泣かすなんて紳士として最低だ。ここは1つ、お兄ちゃんスキルとやらを使ってあの子を慰めてくれ。」
「久遠。残念ながら僕は『無能』なんだ。それより、久遠が隠しているスキルがそのお兄ちゃんスキルとやらじゃないの?」
「ま、また二人で話してる……。うぅ……私、皇女なのに……。」
皇女だって!?それはまずいな……。
健もこの状況のまずさに気付いたようだった。
「う、うわー!な、何だこの美少女はー!あまりの可憐さに話しかけるのが恐れ多くて無視してしまったー!!」
「か、可愛すぎて、直視できないー!無視してしまったのが悔やまれるー!!」
「……え。そ、そうなの……?」
「そ、その通りですー!」
「また話しかけていただけるなんて、なんて慈悲深いんだー!この方は女神のような美貌だけでなく、優しさまで兼ね備えているのかー!」
「へへへ……。そ、そうだったんだ。ふ、ふん!感謝なさい。この私が哀れなあなたたち二人にもう一度話をするチャンスを差し上げますわ。」
ちょっろ。凄い偉そうな口調使ってるけど、お世辞に対してあり得ないくらい嬉しそうなんだが。
「「ははー!ありがたき幸せー!」」
だが、これ以上皇女の機嫌を損ねるわけにもいかないので、適当に機嫌を取っておこう。
「さて、ところであなた方はどうしてここに来たのですか?」
「えっと、僕らは中でやることも特になかったので外に出たんです。」
健の言葉に僕も頷く。
「それで、恐れ多いのですがあなたのお名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「人に名前を聞くときはまず自分からと教わりませんでしたか?」
おっと……それはそうだな。どうせだし、モブという不名誉な名前もやめてもらおう。
「それは失礼しました。僕の名前は武藤健です。」
「僕の名前は柴久遠です。」
「ムトウケン……シバクオン……面倒ですね。あなた方は『無能』と『モブ』でいいですね。」
面倒だと!シバだったらモブと変わらず2文字じゃないか!!
だが、そんなことを言えるわけがなく、僕の呼び名は『モブ』になったのだった。
「私の名前はフィール・グリセリド。グリセリド帝国第3皇女ですわ。」
フィール皇女は胸を張ってそう言った。でも、150前後と思われる身長に慎ましい胸では子供が威張っているようにしか見えなかった。
「そうなんですね。では、僕らはこれで。」
僕はフィール皇女に一礼すると、健の肩を掴みその場を離れようとする。
皇女に関わっていいことがあるわけがない。特に、このお子様皇女は何ていうか……僕らにやっかいなことを呼び寄せる気がする。
「お待ちなさい。どうせ、あなた方も交流会が退屈でこちらに来たんでしょう?なら、私の話し相手になりなさい。」
「いやいや、僕らは『モブ』に『無能』ですから。フィール皇女を楽しめるなんてとてもできそうにありません。では、これで……。」
ガシッ
フィール皇女が僕の手首を掴む。
「フィール皇女、その手を放してくれませんか?」
「嫌です。」
「皇女として気安く男に触るのはあまり良くないと思いますよ。それにほら、話し相手なら大講堂に戻ればいくらでもいますよ。」
「彼らは嫌です。何が気に入らないのですか?先ほど、そちらの『無能』も私と話せるのが嬉しいと言っていたではありませんか。」
ぐ……ここで、おだてまくったのが仇になったか……。
「久遠、仕方がないよ。ここは諦めてフィール皇女の話し相手になろう。」
健はどうやらもう諦めた方がいいと考えているようだった。
まあ、この問答を続けてフィール皇女がまた拗ねても面倒だしな。
「はあ……分かりました。話し相手になりますからその手を放してください。」
フィール皇女は満足そうに微笑んだ後、僕の腕から手を放した。
「ご理解いただけて何よりですわ。そうですね、立ち話もなんですしあちらのベンチに座りましょう。」
ベンチに座ると、早速フィール皇女が僕らに話を求めてきた。
「あなた方は異世界から来たのですよね?なら、異世界の面白い話を教えてくれませんか?」
なるほど……どうやらフィール皇女は僕らの世界の話を望んでいるらしい。なら、どうせだしあの話をしよう。僕が大好きな『自爆』がテーマのある物語の話を……。
「なら、僕が『光の英雄』の話をしましょう。『昔々、あるところに…………』
****
『……待って、行かないで……その声を無視して男は目の前の敵に突っ込んでいく。勝ち目なんてない。そんなことは分かってる。でも、男にはたった一つ正真正銘一回限りの切り札があった。男の身体から眩いほどの光が放たれる。その光は苦しむ人々を優しく包み込み、敵を打ち払った。こうして、男は多くの人を守り、死んでいった。男は『光の英雄』と呼ばれ、多くの人に感謝された。でも、男が一番守りたかった、大切な人の笑顔だけは…………守れたかどうかは誰にも分からないままだった。』……と、これでお終いです。」
「な、何ですかその話……そんな結末嫌です!!」
話し終わった時、フィール皇女の目からは今にも涙があふれ出てきそうだった。おまけに、フィール皇女はこの話の結末はお気に召さなかったようだ。
「この話は、一つの問いを投げかけてます。命を懸けて人を救った時、残された人々の気持ちはどうなるのか。という問いです。でも、僕はこの男の気持ちが分かります。命を懸けてまで守りたいものがあった。その男の気持ちが……。」
「でも、そんなのその男のエゴじゃないですか……。」
うーん。フィール皇女もこの話はあんまり好きじゃないのか。朱音にもこの話した時、渋い顔されたんだよな。
「ちょっと悲しい話だったかもね。それじゃ、次は僕が伝説の戦士『ピーチマン・モモタロウ』の話をするよ。」
少し暗くなった雰囲気を変えるために健が『ピーチマン・モモタロウ』。つまり、昔話の桃太郎を話し始めた。
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