第4話 ラブロマンスは突然に

「なるほど……。持ち物にしても、何でもいいわけではないのか……。」


 さて、早いもので僕らがこの世界に来てから5日たった。僕のスキルの謎が少しわかった次の日、僕は頑丈で、防音が施されている部屋を貸してもらって、自爆の研究を進めていた。


 部屋を貸してほしいと頼むときは怪しまれるかと思ったものの、過去にいた異世界転移者たちの中にも、僕と同じように陰でこそこそ特訓したがる人たちがいたようで、僕のお願いは簡単に聞き入れられた。


「よし!これで、かなり情報は集まったかな。」


「シバ様。そろそろ昼食の時間です。」


 どうやら、昼ご飯の時間になっていたようだ。呼びに来てくれたエリザに返事を返して、僕は部屋を後にした。


「シバ様。いつも、どのような訓練をされているのですか?とてもではありませんが、シバ様のスキルはこんなに頑丈な部屋で訓練しなくてもよいのではないですか?むしろ、カンザキ様などと訓練された方がいいように思われるのですが……。」


 最近、エリザはよくこの質問をしてくる。正直、僕にはエリザの言っている意味が全く理解できない。大体、神崎君たちと自爆のスキルでどうやって特訓すればいいというのだ。

 最後に悪あがきをする敵役でもやれというのだろうか?


「エリザさん、何度も言っていますが僕のスキルは取り扱いには注意が必要なんですよ。とてもじゃありませんが、人前ではまだこのスキルを使うことはできません。」


「……そうなのですね。」


 それ以降、特に僕とエリザさんの間に会話は無く食堂についた。




「おはよう。」


「お!久遠ようやくきたか!」

「久遠殿、おはようでござるよ。」

「おはよう。柴君。」


 この世界に来てからはこの風景も見慣れたものだ。


 しかし、今日はいつもと違い、食堂には僕らがこの世界に来たときに出会った偉そうなお爺さんの姿があった。


「皆さんこんにちは。こちらの世界にはもう慣れましたか?皆さんがこちらに来られてから5日が過ぎました。これまで皆さんには、この世界に関する基本的な知識を学んだり、スキルの訓練などをしていただいていました。」


 お爺さんの言う通り、僕らはこの5日間でこの世界の基本的な知識を知った。僕らが今いるのはボンバール大陸というらしく、この大陸は人間界、獣人界、魔界の3つに分けられているとのことだった。そして、僕らが戦う魔王は名前の通り、魔界の王らしい。


「明日からは皆さんにいよいよ戦闘訓練に取り組んでいただきます!」


 お爺さんの言葉にクラス内の反応は大きく2つに分かれていた。


「よっしゃ!いよいよ俺TUEEEE!!の始まりだぜ!!」

「ふっ……。拙者の力を見せる時が来たようでござるな。」


 晴夫や武蔵のように、戦闘を待ち望んでいた人。


「……ははは。僕は、できたらあんまり戦いたくはなかったな……。」

「武藤君……。僕もだ。」


 そして、僕と武藤君のようにあまり戦いには気乗りしない人たちだ。

 ついに来てしまったか……。正直、まだまだ調べたいことがたくさんあったんだけどな……。


「そこで、本日は皆さんを鍛えてくださる方々を紹介します。また、以前から言っていましたが、今日はボンバール大陸連合軍の上層部の方々に皆さんを紹介する日ですので、食事を済ませた後、各自着替えてから大講堂に集まってください。」


 なるほど……。どうやら、今日から本格的に僕らは救世主として戦う準備を整える必要があるようだ。


~・~・~・~・~・~・~・ 


「シバ様、こちらの服にお着換えください。」


 食事を終え、部屋に戻るとエリザさんがいかにも高そうな服を持って待ち構えていた。


「……これ、着なきゃダメ?」


 日本の正装といえばスーツだ。だが、この世界では豪華であればあるほどいいという考えがあるようで、僕の前に用意された服も金や宝石が所々に散りばめられていた。


「ダメに決まっています。今日、シバ様たちがお会いするのはボンバール大陸の各国の王族、皇族の方々です。その方々に謁見する以上、これくらいの服装は当然です。」


「……まじか。ハア……。」


「何がそんなに嫌なのですか?こんなにも良い服をシバ様はいただけるのですよ?」


「今なんて!?」


 エリザさんの言葉に聞き逃せないものがあったぞ!


「……近いです。」


 おっと、ついついエリザさんに詰め寄ってしまった。冷静に、冷静にだ。


「それで、今何て言ったのかな?この服が僕のものになるって聞こえたんだけど……。」


「はい。確かに、この服はシバ様のものになりますが、それがどうかしたのですか?」


 どうやら僕の聞き間違いではなかったようだ。こんなにも高価そうなものを手に入れられるのは大きいぞ!!


「よし!なら、早速この服を着よう!!」


「はあ……。最初からそうしてください…………っつ!……ど、どうしてここで服を脱いでいるんですか!!」


 エリザさんは普段では考えられないほど、顔を真っ赤にして声を荒げていた。


「え?でも、着替えないと……。」


「そ、そうでしたね……。では、お、お着替えを手伝わせていただきます。」


 着替えを手伝う?何を言っているのだろうか?僕は一人でも着替えくらいできるのだが……。


「いや、手伝いとかいらないよ。それより、部屋から出て行ってくれない?流石にそんなに見られると恥ずかしいし……。」


「〜っ!!失礼しました!!」


 あれ、僕、何かやっちゃったかな……?まあ、いっか。




~・~・~・~・~・~・


 さて、着替えも済んだことだし、移動しますか。


「エリザさん。着替え終わったから案内お願いしてもいいですか?」


「……馬子にも衣装とはこのことですね。シバ様、大変お似合いですよ。」


 エリザさんはニッコリと美しい笑顔を浮かべてそう言ってくれた。


「ありがとう、エリザさん。エリザさんもメイド服似合ってるよ。」


 僕が笑顔でそう言うと、エリザさんのこめかみに血管が浮き出たように見えた。まあ、気のせいだろう。


「あ、柴君!」


 後ろを振り向くと、そこには僕と同様にそれなりに装飾の施された服を着た武藤君がいた。


「武藤君……なんていうか凄い恰好だね……。」


 正直、武藤君の服装は全く似合ってなかった。


「いや、柴君には言われたくないけど……。」


 な!!エリザさん、嘘をついたのか!?

 僕がエリザさんの方を向くと、エリザさんは真横を向き僕と目を合わせようとしていなかった。うっすらとではあるけど、口元がニヤついていた気がする。


 くそ!仕事ができるクール美女だと思っていたのに!


「まあ、あんまり気にしなくていいと思うよ!どうせ、僕たちは隅っこで縮こまってるだけだしさ。」


「武藤君……。それ、自分で言って悲しくならない?」


「……言わせないでよ。」


 まさかこんな場面で、男にそのセリフを言われるとは思わなかった。



「武藤君!」



 僕と武藤君の間に気まずい空気が流れた時、日本で多くの人を魅了した綺麗な声が響いた。


「あ、瑞樹ちゃ…………。」


 武藤君が思わず言葉を失うのもよく分かる。武藤君の名前を呼ぶ春野さんの格好はまさしく聖女であった。

 僕と武藤君のように、よく分からない装飾はなく、純白のドレスは露出の少なさと相まって春野さんの純粋さを引き立てていた。その一方で、肩と首回りの少しの露出がぐっと春野さんの女性としての魅力を上げていた。


「武藤君?どうしたの……?」


 まずい!武藤君、あまりの春野さんの美しさに放心してしまっている!

 僕は武藤君の身体を肘で突き、春野さんに返事するよう目と首で訴えた。



「あ……な、何でもないよ!それより、瑞樹ちゃん……す、すごく似合ってるね……。」


「え……?そ、そうかな……。」


「う、うん!なんていうか……おとぎ話に出てくるお姫様みたいだ。」


「も、もう……。武藤君も似合ってるよ……。」


「い、いや……僕なんか全然似合ってないよ。」


「ううん……。似合ってるよ。本当に、王子様みたい……。」


 頬を赤らめながらも、真っすぐと武藤君の顔を見ている春野さんの言葉に嘘はないように感じられた。武藤君もそれを感じたのか、照れたように目線を春野さんからそらしていた。そして、そんな武藤君の様子を見て、春野さんは嬉しそうに微笑んでいた。



 ぐ、ぐあああああ!!!

 な、何だこの桃色の空間は!?だ、ダメだ……!この空間にいたら僕はおかしくなってしまう!撤退!撤退だ!!


 僕はそっとその場から離れるべく行動を開始した。横を見ると、僕と同じくこの空間にやられたのか、よろよろとその場を後にしようとするエリザさんの姿があった。


 あ、エリザさん……。何だろう……この人、実は凄く面白い人なのかもしれない……。

 エリザさんの新しい一面に思わず僕は苦笑してしまうのだった。



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