第3話 自爆スキル


 自爆。それは言ってみれば最後の切り札である。どうしようもない状況に追い詰められたとき、自らの命を懸けて、大切な人を守るために、目の前の敵を倒すために放つその技は、時に大きな感動を生む。

 僕自身、アニメや漫画の自爆シーンは大好きだ。本来の実力では劣る人物が強敵に一矢報いる。その姿に感動したし、自爆するキャラが仲間たちからその死を惜しまれるところも好きだった。


 だが、言わせてほしい。確かに、僕は自爆が好きだ。爆発も好きだ。どうせ死ぬなら自爆して死ぬのもありだなと思ったこともある。でも、それでも、僕だけの特別な能力が『自爆』ってのはあんまりだろう!!


 一回だけだ!僕の見せ場はたった一回!!しかも!その見せ場が最初で最後だ!!やってられるか!!


 怒りに任せた拳が枕に吸い込まれる。枕からはボスという何とも間抜けな音がした。まるで、今の僕を枕までもが嘲笑っているようだ。


 あの後、武藤君がステータスの確認をして、僕らは建物の奥に連れていかれ個別の部屋へと案内された。今、僕がいるのは僕に割り振られた部屋だ。ちなみに、武藤君のステータスは全ての項目が50でスキルは言語理解以外、何もなかったらしい。


コンコン


「シバ様。いい加減、部屋に入らせていただいてもよろしいでしょうか?」


 おっと、そうだった。すっかり忘れていたが、僕らには一人一人にお世話係が付けられていた。僕は部屋でストレス発散したかったため、少しの間、お世話係の人に外で待ってもらっていたのだ。


「あ、はい。もう大丈夫です。」


 返事をすると、すぐにドアが開き、お世話係の方が入ってきた。


「改めまして、自己紹介させていただきます。暫くの間、シバ様のお世話をさせていただくエリザと申します。何かあれば何なりとお申し付けください。」


 エリザと名乗る女性は、透き通るような水色の髪にツンとした顔立ちの美人だった。ロングスカートのメイド服を着たその姿はいかにも仕事のできる女性といった感じだ。スーツとか似合いそう。


 異世界のレベル高いな。なんか、あれだ氷とか出しそう……。


「この後のことですが、食堂にて軽く食事をとっていただきます。その後は自由時間となりますので、入浴などをしていただいた後はゆっくりと休んでください。」


「あ、はい。分かりました。」


「では、行きましょう。」


 エリザさんについて行くと、広めの部屋についた。


「好きな席にお座りください。」


 好きな席か……。

 周りを見ると、既にいくつかのグループができて、まとまって座っているようだった。


 ざっと見た感じ、オタクグループ、体育会系グループ、勇者グループ、その他といった感じか……。とりあえず、勇者と体育会系はないな。オタクたちも、仲が悪いわけじゃないけど、あんまり喋ったことないからなぁ……やめとくか。

 となると、やっぱりここかな。


「ここいい?」


「お、久遠じゃねえか。いいぜ。」

「もちろんでござるよ、久遠殿。」


 僕は2人で座っていた晴夫と武蔵に混ざてもらった。


「そういや、久遠のステータスはどうだったんだ?」


「僕?僕は基本的には50とか80とかだったよ。」


「へ~。じゃあ、俺の方がステータスは上だな!俺はオール80だったぜ!」


 晴夫はニヤニヤしながらそう言った。


「はっはっはっ!それなら、拙者はほとんどの項目が90でしたぞ。おまけに知力に関しては150!これは、拙者の時代到来ですな!」


「ちっ。まあ、武蔵はスキルも凄いしな。伝説の賢者様と同じスキルらしいし。」


 晴夫が羨ましそうにそう言った。


「晴夫はどんなスキルだったの?」


「お!よくぞ聞いてくれたぜ!俺のスキルは『ロックオン』。ロックオンした後の攻撃が必ず当たるってものだってよ。結構強い能力だろ?」


「晴夫殿の能力は使い方次第では、最強になれるかもしれませんな。」


 いいなぁ……。どうして、僕の能力は一発限りなんだろう……。


「久遠はどんなスキルなんだ?」


「え?僕?……あー、僕のスキルは何ていうか……。」


「ん?どうした?……ははーん。さては、大したもんじゃなかったな?まあ、気にすんなよ!困ったときは俺と武蔵が守ってやるからよ!」


 うん。まあ、大したものではないけど……まあ、いっか。あんまり人に話せるもんでもないし。


「ここ、いいかな?」


 声をかけてきたのは武藤君だった。


「おお……。武藤か、意外だな。」

「確かに。春野さんはよいでござるか?」


 武蔵の言葉に武藤君は苦笑いを浮かべていた。


「あー、うん。瑞樹ちゃんはほら、神崎君たちといるし……それに僕、無能だから……。」


 ハハハと乾いた笑いを浮かべる武藤君の顔は、明らかに暗いものだった。


「そっか。なら、座りなよ。何だったら、これからも一緒にご飯食べようよ。僕も皆に比べればステータスは大したことないしさ。」


「そうだぜ!武藤!それに、久遠のやつは人に話せないくらい恥ずかしいスキルみたいだしな!」


「そうでござるな。それに、武藤殿のようなキャラはラノベでは覚醒するのがテンプレでござるよ。気にせずとも、必ず強くなれるでござるよ。」


 晴夫の発言は余計だけど、武藤君の顔にさっきのような暗さはなくなっていた。


「そうだね。なら、これからも一緒にいさせてもらおうかな。」


 異世界に来る前なら、こうして武藤君と喋ることもなかっただろう。こうして今までにない繋がりが出来るのも、異世界のいいところかもしれない。


「お待たせしました。」


 暫くして、僕らの前に食事が運ばれてきた。それからは、特に何事もなく4人で食事を楽しんだ。



~・~・~・~・~・~・~・


 食事が終わった後、入浴をして僕は部屋に戻ってきていた。


 改めて自爆について考えてみよう。そもそも、自爆はどうやってするんだろうか。僕が自爆したい!と思ったら勝手に爆発するんだろうか。


『自爆しますか?』


 んー。自爆か。まあ、できたら練習がてら一回くらいしときたいよね。


『自爆に使う素材を選択してください。』


 素材?それは自分の命じゃないの?


『自らの命を素材に自爆を行います。ここで使った素材は二度と戻ってきません。よろしいですか?』


 いや、ダメだよ。そんな簡単に命使っていいわけないじゃん。


『では、自爆に使う素材を選択してください。』


 いや、だから素材は自分の命じゃないの?


『自らの命を素材に自爆を行います。ここで使った素材は二度と戻ってきません。よろしいですか?』


 いや、だからダメだって!!……あれ、僕誰と喋ってんだ?


『自爆に使う素材を選択してください。』


 ん?素材?……これ、もしかして自分の命じゃなくていいのか?

 ……試してみるか。


「僕の髪の毛一本。」


『髪の毛一本を素材に自爆を行います。ここで使った素材は二度と戻ってきません。よろしいですか?』


 おお!これは、髪の毛一本でもいけるのか!まあ、戻ってこないみたいだけど、髪の毛一本ならいっか。


「はい。」


『髪の毛一本で自爆を行います。3,2,1……』


カッ!!!


 眩い光が部屋を包み込む。そして直後、それなりに大きな音が鳴り響いた。


ドォン!!!



「シバ様!どうされましたか!?」


 突然の音に慌てたのか、エリザさんが部屋に入ってくる。


「あー、うん。大丈夫。少し、はしゃいじゃって……ごめんね。」


「そうですか。夜も遅くなりますから、あまり騒がないようにお願いします。」


 エリザさんはそう言うと、再び部屋から出ていった。


 あー、びびったあああ!!

 いや、まさかあんなに光と音が凄いと思わなかった……。威力は、部屋の中を見る感じ大したことはないみたいだけど、音と光がやばい。


 いや、でもそれ以上に大きな収穫があった。

 自爆は自らの命を代償に行う最後の切り札。僕はそう思っていたけど、どうもこの『自爆』は少し違うらしい。まだ研究してみないと分からないけど、このスキルなら、もしかすると僕が人生で一度はやってみたかったあのシチュエーションができるかもしれない。


「フフフ……フハハハハハ!!」


 最高だ!最高だよ異世界転移!さあ、始めよう!刺激のある日々を!!



「騒がないようにと伝えたはずです。」


 高笑いする僕を絶対零度の表情でエリザさんが見つめていた。


 この後、僕が土下座したのは言うまでもないだろう。


 



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