第2話 ステータス
光が収まると、僕らの周りには見慣れない景色が広がっていた。
「おお……!ようこそ、おいでくださいました。選ばれし30人の異世界の救世主様。」
ヨーロッパの教会のような場所。立場の高そうな人に囲まれている状況。そして、恐らくこの場で最も地位の高い人物のセリフ。
なるほど……これが噂の……
「異世界転移ですぞ!!」
どうやら、オタクの武蔵はすぐに気づいたようだ。
「異世界転移……?何それ。」
「まじか……!じゃあ、俺らが勇者とか……?」
「え……?どういうこと……?え?」
武蔵の言葉でクラス内から様々な反応が出る。
ある程度のアニメ、漫画好きとそういったものにほとんど触れて来なかった人で反応は大きく分かれていた。
「ゴホン!」
咳払いが響き、それと共にクラス内に広がっていた喧騒が止んだ。
「どうやら、あなた方の中にもある程度の事情が分かっている方がおられるのですね。先ずは、突然呼び出したことへの謝罪を。そして、図々しいとは思っているのですが、お願いがあります。どうか、この国、いや、この世界を救っていただけないでしょうか?」
地位の高そうなお爺さんは深々と僕らに頭を下げてきた。
「あの、今すぐ私たちを返していただけることはできないのですか?」
おお、ここでその質問を叩き込めるとは、さすが朱音だ。
「……申し訳ありません。帰る手段は現状一つしかありません。」
「それはなんですか?」
「魔王を、倒すことです。私たちは女神様からの神託により今回の転移術を行うことができました。その女神様によりますと、魔王を倒すことができれば何でも一つ願いを叶えるとのことでしたので、そこで元の世界に帰りたいと願えば帰れるかと思われます。」
「……っ!!何よそれ……。お願いって言っておきながら実質選択肢は一つじゃない。」
どうやら、僕らが元の世界に帰ろうと思ったら、戦う以外の選択肢はないようだ。
「まあまあ、朱音。それぐらいにしなよ。このお爺さんだって、世界を救うために仕方なく俺らを召喚したんだ。それに、俺は困ってる人たちを放っておくなんてできない!皆はどうだ?どうせなら、この世界を救って、また、元の世界に戻ろうじゃないか!!」
「そう、だよね……。勇介が言うなら、私も頑張ろうかな。」
「まあ、現状それしかねえしな。」
「俺TUEEEEにハーレム展開もあるかもだしな!」
クラス内でも中心人物の
まあ、武蔵と武藤君は何かを考え込んでたみたいだけど……。
「おお……!では、我々を助けてくださるというのですか?」
「はい!俺たちに任せてください!」
いつの間にか、僕らの代表は神崎になっていたようだ。
いや、別にいいんだけどね。僕は絶対にやりたくないし。
「僭越ながら、発言させていただいてもよろしいでしょうか?」
突然の敬語にクラスの皆が驚いた表情を見せていた。
そりゃそうだ。
だって、この発言したの……武蔵だもん。
「ええ。構いませんよ。えーと、あなたは……。」
「発言をお許しいただき、誠にありがとうございます。私の名前は武蔵と申します。」
「はい。武蔵さんですね。それで、何か気になることがありましたか?」
「はい。私たちは皆、平凡な少年、少女です。とても魔王を倒せる力を持っているとは思えないのです。それなのに私たちに助けを求める理由を教えていただけませんか?」
オタクの武蔵の変貌具合にクラス全員の口がポカーンと空いている。
だが、武蔵の言っていることは紛れもない正論だった。確かに僕らには力なんてものは全くないはずだ。
「そうですね。丁度よいですし、武蔵さん。こちらに来ていただいてもよろしいですか?」
「……分かりました。」
一瞬、考える素振りを見せた後、武蔵は言われた通りお爺さんの方へ歩いていった。
「武蔵さん。こちらの石板に手をかざしていただいてよろしいですか?」
お爺さんの後ろには石板が一つあった。
その石に武蔵が手をかざすと、石が光り出した。
「武蔵さん。石板に書かれている文字が分かりますか?」
「はい。」
「そこに書かれている職業やスキル、ステータスを見て下さい。特に、ステータスについてなのですが、この世界の平均的なステータスはALL10前後です。」
「なるほど……。」
「武蔵さん。分かっていただけましたか?異世界から来られたあなた方は皆、この世界では強力なステータスを持っているのです。今のあなた方のステータスだけでいえば、この世界で100本の指に入るほどのものです。」
「確かに、このステータスに加えて、スキルが有る人物が30人もいれば、助けを求めるのは当然ですね。」
「分かっていただけたようで、何よりです。」
お爺さんは満足そうに笑みを浮かべてそう言った。
「いえ、こちらこそ失礼しました。」
武蔵は深々と頭を下げると、僕らの方に戻ってきた。
「他に、何か質問のある方はいませんか?」
お爺さんの呼びかけに答える人はいなかった。
「では、これから皆さん一人一人のステータスやスキルを確認していきます。申し訳ありませんが、ステータスとスキルは私たちも確認しますので、ご了承ください。」
その後は流れ作業の如く、どんどんクラスメイトのスキルやステータスが確認されていった。
最初は不安そうだったクラスの人たちも、自分たちのステータスやスキルがいかに凄いかを語られてからは満更でもない顔を浮かべていた。
さて、ここでクラスの中でも特に凄かった人を紹介でもしておこう。
1人目は、こいつだ!
「おお!!これは凄い!!全てのステータスが100を超えている!その上、『聖剣術』のスキルをお持ちとは……!!」
「え?このスキルそんなに凄いんですか?」
「このスキルはかつて『魔王』を倒したとされる初代勇者と同じスキルですよ!!」
「さすが神崎君!」
「へっ!やっぱ勇介はすげえな!」
「そっか……この俺が、勇者と同じスキル。なら、必ずこの俺が勇者として魔王を倒して見せます!!」
神崎の言葉に異世界の人々は感動しているようだった。
ということで、1人目は自称・皆のヒーロー神崎君だった。
そして、2人目は……
「おお!!勇者に続いて、『聖魔法』のスキルを持つ方が現れるとは!!」
「あ、あのこのスキルはそんなに凄いんですか……?」
「もちろん!これはかつて、『魔王』を倒したとされる、2代目勇者にして、初代聖女であった方と同じスキルですよ!!」
「そ、そうなんですね……。」
「さすが瑞樹だ!共に魔王を倒すべく頑張ろう!」
「さすが瑞樹ちゃんだぜ!!」
「やっぱり瑞樹ちゃんは凄いね!」
ということで、2人目は皆のアイドル春野さんだった。
更に、3人目は……
「おお!!これまた凄い!!まさか、『剣の極意』のスキルを持つ方まで現れるとは!!」
「あの、そんな……「当然です!!このスキルはかつて『魔王』を倒したとされる、3代目勇者にして、初代剣聖の方と同じスキルですよ!!!」……凄いんですね。」
「朱音も共に魔王を倒すため頑張ろう!!」
「さすがは朱音の姉御っす!!」
「きゃー!!朱音さんに守られたーい!」
「ハハハ……。」
ということで、3人目は皆の姉御、朱音だった。
てか、お爺さんのテンション上がりすぎてキャラ崩壊してるし、魔王はどんだけいるんだよ。
ちなみに、4人目は武蔵だった。何でも、かつて魔王を倒したされる4代目勇者にして、初代賢者と同じ『知の極致』を持っていたらしい。
そんなこんなしてるうちに、ステータス確認をしていないのは残り2人になった。僕と、先程から渋い顔をしている武藤君だ。
「武藤君。僕、先に行くけどいい?」
「え?あ、うん。」
さて、こういうとき最後に行くとロクな目に合わないと相場で決まっているのだ。
この時、僕はかなりワクワクしていた。
刺激が欲しいと思っていたらこれ以上ない刺激が来たのだ。そりゃ、心の一つや二つ高鳴るものだろう。
そう、これからまだ見ぬ景色を見に行く冒険が始まるのだ!
「む!これは……!!」
僕が手をかざすと、石板に徐々に文字が浮かび上がる。
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NAME:柴 久遠
TRIBE:人間
HP(体力):80
MP(魔力):50
STR(筋力):50
VIT(耐久):80
INT(知力):50
AGI(敏捷):50
LUK(運):120
スキル:<言語理解><剣術>
<<<自爆>>>
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どうやら神様はこの世界で僕を生かす気がないらしい。
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