最強、最大にして最高の一撃を求めて

わだち

クラスメイトを救う自爆編

第1話 平穏な日々の終わり

 僕の名前は柴久遠しば くおん。人よりほんの少しだけ「自爆」が好きな高校2年生だ。


「おはよー。」

「おはよう。」

「おいっすー。」


 今日もいつもと同じように登校して仲の良い友人と会話を楽しむ。


「なあ、久遠。この間の『春のドッキリ爆発祭り』見たか?」


「もちろんだよ。やっぱり大気の揺れとか音の響きは冬の方が良かったけど、春ならではの爆発の振動で桜の花びらが舞い散るシーンは風情があって良かったね。」


 友人の滝本晴夫たきもと はるおは呆れたような顔でこっちを見ていた。


「……お前、どこ見てんだよ。普通そんなことより春野瑞樹はるのみずきちゃんが思わず腰を抜かしちゃうシーンとかの方が話題になるだろ!」


「あー、あれか!」


「そうだよそうだよ!あれだよ!瑞樹ちゃんが爆発に驚いて若干涙目になってるところが最高だったよな!いやー、あんな子が同級生ってのが本当信じられないぜ!!」


「あの、音はやけにでかいけど爆発の威力はそうでもないやつだろ?威力を抑えてあれだけの音が出せるって最近の技術は凄いよなぁ。」


 僕の発言を聞くと晴夫はガクッと崩れ落ちた。


「お前なんなんだよ……。」


「はっはっはっ!爆発オタクの久遠殿に一般人の会話を求める方が無理というものですぞ、晴夫殿。」


 笑いながらこちらに近づいてきたのはこれまた友人の村田武蔵むらた むさしだ。女子も羨むサラサラヘアーのロン毛にメガネの自他共に認める一流のオタクらしい。


「武蔵か!お前なら瑞樹ちゃんのあのシーン分かるよな!!」


「当然でござろう。瑞樹殿は我が推しではござらんが、我の応援するアイドルの次期エース。録画して既に5回は見ておる。」


 いや、5回は多すぎでしょ。てか、同じクラスだからテレビじゃなくても見れるじゃん。

 そんな僕の考えは他所に、晴夫と武蔵は互いの顔を見てフッと笑うと、力強い握手からの熱い抱擁をしていた。


 あー、もう放っておこう。この2人は可愛い子好きとアイドルオタクという点で話が合うことが多く、よくこうして僕を置き去りにするのだ。

 折角爆発についてもう少し話ができると思ったのに残念だ……。


 「みんな、おはよー!!」


 そうこうしていると、晴夫と武蔵が話していた春野瑞樹さんが教室に入ってきた。

 明るめの茶髪に歩くたびに揺れるサイドテールが今日も可愛らしい。


「おはよう。瑞樹。」

「おはよう!」

「おはよう!!」


 春野さんが来ると毎日このおはようの大合唱が始まる。美少女でありながら少し抜けたとこのある春野さんは女子からは守りたい存在として、そして男子からは憧れの存在としてみんなから好かれている。


「晴夫くんと武蔵くん。それに、久遠くんもおはよう!」


「お、お、おおお、おは、おは……ようございます……。」

「おはようでござる。」

「おはよう。」


 上から晴夫、武蔵、僕だ。晴夫は可愛い子好きの癖して可愛い子と喋るときは緊張して上手く喋れなくなるらしい。

 春野さんは僕らに笑顔を向けると自分の席に向かっていった。


「いいよなぁ……。春野さん。マジ天使……。」


「学校で毎日顔を拝めるというのは本当にありがたいことでござるよ。」


 2人は春野さんの方を拝みありがたやと繰り返していた。

 ちなみに晴夫と武蔵はアイドル活動中の春野さんは瑞樹ちゃん。クラスメイトとして関わるときは春野さんと呼んでいる。これだけは2人の中で譲れないルールらしい。

 よく分からん。


 「おはよう!健くん!」

 「おはよう……瑞樹ちゃん……。」


僕らのもとを去った後春野さんは隣の席で仲の良い武藤健むとう けんくんに喋りかけていた。

 武藤健君はクラス内では目立たないやつでよく寝ている姿が見られるため、瑞樹ちゃんと仲良くしていることをあまり良く思っていない男が多い。まあ、嫉妬だろうけど。

 


 「むぎぎ……!健のやつ、また春野さんと仲良さげに……!!」


「折角春野さんが喋りかけているというのに眠そうなのはいただけないでござるな……!!」


まあ、こんな感じのが多い。


「はぁ……。」


なんだかなぁ……。


「なに、辛気臭い顔してんのよ。」


「ん……なんだ、朱音か。」


後ろを振り向くと、幼なじみの夏樹朱音なつき あかねがいた。


赤みがかった髪とポニーテールがトレードマークの朱音は男前な性格とその美しい顔立ちから春野瑞樹と並んで人気の高い女子だ。


だが、以外と趣味は女の子らしかったりする……。


「なんだとは何よ。それで、なんでまたそんな辛気臭い顔してんのよ。」


「なんでもないよ。」


僕の適当な返事に納得出来なかったのか、朱音はムッとした顔になった。


「何よ、何か悩みあるなら抱え込まずに言いなさいよ。私とあんたの仲じゃない。」


「そんなに深い仲でもないと思うけど……。」


「な、に、か、言った?」


「あ、いや、何でもないです……。」


ぼそっと呟いただけなのに……地獄耳かよ。

朱音の目は早く言えよと僕に催促していた。


「んー、なんか刺激がないなぁって思ってさ。」


「刺激?」


「うん。平穏な毎日だなぁって。」


「平穏ならそれが1番じゃない。」


「まあ、そうなんだけどさ……。」


朱音は軽く首を傾げた後、「変なの」と呟いて自分の席に戻っていった。



 平穏な日々が一番ということは自分でもよく分かっているつもりだ。

 でも、どこか僕の中に満たされない感情があった。

 その原因は何となく理解している。だからこそ、この想いがこれから先満たされることもないということもよく分かっていた。

 まあ、気にしても仕方ない。僕のこの思いは一生胸の中に仕舞い込んでおしまい。それでいいのだ。


***


"人間が想像できることは全て起こり得る現実である"


 その少年がそれを願ったからそうなるかというとそうとは限らない。

 目からビームを出したいと願っても出すことは現在のこの世界では不可能である。

 そう、この世界では……。


「え!?な、何だこれ!!」

「え?え?え?何これ何かのドッキリ?」


 突如、柴たちのクラスの床に光と共に幾何学的な紋様が浮かび上がる。

 生徒たちは皆一様に驚いていた。



 そう、この世界では実現不可能なのだ。ならば、別の世界に行けばいい。

 そうなればお前は俺に面白いものを見してくれるのだろう?



 一際大きな光が生徒たちを包み込む。

 光が収まるとそこには既に誰もいなかった。



 こうして、この世界から渡船高校2年B組は姿を消した。なぜ彼らがこの世界から姿を消したのか。彼らに何があったのか。それを知るものはこの世界にはいない。

 ただ一つ言えることがあるとすれば、これから先、彼らの身に何が起きてもおかしなことは何もないということだ。

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