第3話

海 三章

 思ったよりも早く終わった夕食会。


「あーあ、楽しかったな。咲良バカすぎー。

ははははは」


 嬉しい気分で帰ることができた。だから今日もいつもの砂浜に行ってみよう。いつもより遅いからもういないかもしれないけど。


 そう思って私は砂浜に向かう。


 そこに着いたとき、私は衝撃を受けた。

海斗の周りを海水が中に浮いて回っている。

そして海斗がその水に笑いながら話しかけているようなそんな気がした。


「サッ」

私の足音がなってしまった。


 彼は驚いたようにこっちを見る。そして私と気づくとさらに驚いたような顔をした。


 私が彼のそんな顔を見たのは初めてだ。今までは無表情の顔か少し笑った顔しか見たことがなかった。


 彼だけでなく私も驚いていた。何が起こっているのか理解できなかった。今目の前でありえないことが起こっていることだけが分かった。


「……」

私が何も言えないでいると彼が話しだした。

その様子はさっきの驚いたときとは違ってとても落ち着いているようだった。


「見ちゃったんだね。急に見られてびっくりしたけど、君には言おうか迷っていたからこれを見られるくらいなら僕は大丈夫だよ。こんな形で見せることになるとは思わなかったけどね」


「……」

私はまだ何も返事ができないままでいた。そうしていると彼は言った。


「僕は水というか海水を操れるんだ。特殊な事情があってね」


 私は事情が理解できなかったけれど、とりあえず答えた。口が勝手に動いたかのようにも感じた。

「そうなんだ。……」


 彼はいつもより嬉しそうに話す。

「水はね、すぐに形を変えるし、なくなるしとても弱そうに見えるけど実はすごいんだよ。多くの水が集まったらできないことはないんだから」


 そういって彼は私の目の前で隠すことなく、水を浮かしたり、動かしたりした。


 ようやく状況が理解できた私はいつもの私に戻った。


「うわー、すごいね、何これー?こんなことできるんだ。不思議だね」

そう言って私は宙に浮く水の塊をつついてみる。それは本当にただの水だった。


「フフフ、やっといつもの君になったね。

ずっとたまげた顔をしてたから面白かったよ」


「そうかもね。最初はまったく意味が分からなかったからね。今でもそんなに分かってないと思うな。あー、それとは別に女の子の顔のことはあんまり言っちゃいけないんだよ。しっかり覚えておくこと」


「そうなんだ。これからは覚えておくよ。

ところで話を戻すけど、他にもまだまだ水はいろんなことができるんだよ」  


 そういって彼は水の上に乗った。え、乗ったってどういうこと?いや、乗ったのだ。


 そして、水が動いて、彼の足元だけが海面より高くせり上がった。


 彼は言う。

「こんなこともできるんだ。すごいでしょ。君も乗ってみる?」


そう聞かれて、私もできるのかと驚いたが、 同時に好奇心が湧き出てくる。未知のことだし少し怖いけれどやってみたいと思う気持ちの方が強かった。


「うん。やってみたい!だけど、私も乗れるの?」


「僕がいれば誰でも乗れるよ」

そう言って彼は手を差し出してきた。


 私は彼の手を取り、おそるおそる水の上に乗った。そして、私たちの足元の水が上下左右に動き、クネクネしたり色々な動きをした。


 とても不思議で楽しい時間だった。私はそんなあり得ないことを経験した。


 私はいっぱいいっぱい笑った。彼も見たことがないくらいの笑顔を見せていた。


 そして私たちは疲れ切って砂浜で横になっている。時間を忘れて楽しんでいたのか、周りはもう真っ暗だ。


 夜空に輝く星を見ながら私は問いかける。

「海斗はなんでこんなことができるの?」


 彼の纏う空気が少し暗くなった気がした。

彼が言う。

「今はまだ君に言えないや。でもそのときがきたら僕はきっというからそれまで待っててよ」


 彼の真剣な気持ちがひしひしと伝わってきたので私はそれ以上の言葉をいらないと思った。

「うん、待ってる」


 こうして私の一日は終わっていった。

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