第382話・ピスティとプリームス(1)
眠気を催したプリームスを気遣って、ノイモンは会食を切り上げる事にした。
それに伴いプリームスの傍付きとして、自身の次女であるピスティを紹介する。
彼女は妙齢で非常に端正な顔立ち・・・正にプリームスの好みに合わせてた様な人選だ。
また綺麗に編み込まれた深緑の髪と、首元が隠れる詰め入りの黒いドレスが妙に硬さを連想させる。
つまり神経質そうで、堅苦しさを見る者に感じさせるのだった。
『この服装はわざとなのか? それとも自身の趣味なのか? もっと似合う衣装が有ろうに・・・』
とプリームスはピスティを見て少し残念に思ってしまった。
更にピスティが傍に来ると圧倒されるプリームス。
何故ならプリームスより頭1つ分以上は身長が高かった為だ。
恐らくスキエンティアより背が高そうで、180cm程度はあるのではないだろうか。
「ピスティは今後、プリームス陛下の傍仕えとして奉仕させます故、好きに使って頂いて構いませぬ。また王族に仕える為の教養も十二分に習得しておりますので、御心配には及びません」
などとプリームスに仕える事が然も当然かの様にノイモンが告げた。
「え? あ? おいおい・・・傍仕えって、私はそんなもの要求しておらんぞ」
急展開に戸惑うプリームス。
するとピスティが切なそうな表情を浮かべ、俯いて言った。
「わたくしでは御不満でしょうか・・・? 憧れの聖女陛下に仕える事が出来て、非常に嬉しく思って居たのですが・・・勝手に舞い上がってしまって・・・」
透かさずノイモンが援護する様に続く。
「この娘は今年で19になりますが、嫁の貰い手が決まっておりません。理由は良く分からないのですが何故か縁談が上手く纏まらず、途方に暮れて居まして・・・もし宜しければプリームス陛下に使って頂ければ有難いのですが・・・」
地位が高い家柄なら政略的に縁談を決めるのが常識・・・女性なら幼少時に既に決まっている事もある程だ。
それなのに成人の15歳を越えても縁談が決まらないのは、何か問題があるのは確実。
そう周囲に思われる事に、ノイモンは体裁の悪さを感じていたのだろう。
しかしながら行き遅れの娘を、体よく追い出す様に他人へ押し付けるのは如何なものか・・・。
そう思うとプリームスは、ピスティが気の毒になってしまう。
『ん・・? 待てよ・・・。何か変だぞ』
だが少し引っかかりを感じた。
体裁を繕う為に、まるで
だが嫁の貰い手が付かない・・・と言及するのは、敢えてピスティに問題が有ると言っているに等しい。
問題児を引き取る者など只の物好きかお人好しで、普通らな有り得ない。
要するにそれらを鑑みても、”プリームスにとって”ピスティが何かしら有益であると言う事なのだ。
『まぁ少し背丈はデカいが容姿は美しいしな。傍に置いて鬱陶しい事には為らんか』
「美しい娘は嫌いでは無い。構わんよ、私の傍仕えとして置いてやろう。だが身内の面々も居るでな、常に私が構ってやれるとは思うなよ」
そうプリームスが告げると、ノイモンはホッと胸を撫で下ろし、ピスティは表情を明るくさせた。
それからピスティはプリームスを突如抱え上げる。
「わ、な、何だ?!」
と驚くプリームスを余所に、ピスティは笑顔で答えた。
「失礼ながら聖女陛下は、足元が覚束無い御様子・・・ですのでこのまま、わたくしめが寝室までご案内いたしますね」
「ちょっ、ちょっと待て! 確かに眠いが、寝る前には出来れば湯浴みをしたい。身体を清めずに床につくのは、どうも気持ちが悪くてな・・・」
抱きかかえたプリームスをジッと見つめた後、ピスティは首を傾げて言う。
「普通の人間でしたら、そうでありましょう。けれども聖女陛下は神々しく在られまして、とても良い香りで汚れなど全く無い様に存じます」
そして嬉しそうな顔で続けた。
「ですがそれ程までに共に湯浴みを楽しまれたいと仰るのでしたら、わたくしは吝かでは御座いません。と言うか・・・是非にでも!」
少し引き気味で絶句し、
『誰もそこまで言っとらんわい!』
と内心で突っ込んでしまうプリームス。
口に出さなかったのはピスティの為人を計り兼ねて、藪蛇になるのを危惧したからだ。
『何だか良く分からんが・・・この娘、怖いよ・・・』
娘を差し出すノイモンの企みを少しは洞察出来てはいたが、まだ確証は無い。
故に両者とも不気味ではあるが、プリームスは状況に流される事にした。
そうする事で徐々に見えて来る物が必ずあり、警戒されず情報を得るには、これが一番楽なのであった。
「ま、まぁ、傍仕えをすると言うなら、そう言った世話も任せる事になるか・・・。宜しい、ならば早々に浴場へ案内しなさい」
プリームスから許可もとい言質を得たピスティは、
「承りました」
と一言発すると、颯爽と食堂を後にする。
女性にしては高身長では有るが、別に体躯が特別良い訳では無い。
なのにプリームスを軽々と抱え、苦も無く屋敷内を歩くその膂力は異常と言えた。
故にプリームスの脳裏に既視感が過る・・・テユーミアとの出会いを思い出したのだ。
『まさか・・・守り人一族の血筋を引いているのか・・・?』
エビエニス国王がエスティーギア、そしてクシフォスがテユーミアと守り人一族の女性を妻にしているのだ。
大公であるノイモンが同じでは無い・・・とも考えにくい。
真偽を確かめる為、プリームスは
そうすると意外な結果がでて、プリームスは驚く羽目に。
『着痩せする質だったか・・・』
そう・・・ピスティは女性らしく細身ながら、筋骨隆々であったのだった。
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