第377話・派兵準備と急転(1)

プリームスが南方連合治安維持軍への協力を承諾し、何故かその指揮と管理まで任せられる羽目になってしまう。

元よりエビエニス国王はそのつもりだったようで、恐らくノイモンの入れ知恵なのは間違いないだろう。



只、治安維持軍と言っても今回に限っては、軍規模どころか軍団規模でも無い。

5000名弱・・・つまり師団級であった。

それは予め準備していたとは言え事態に対応すべく、リヒトゲーニウス側が急いで編成した為である。


更に付け加えるなら、永劫の騎士団アイオーン・エクェス1人1人は一騎当千であり、プリームスや剣聖インシオンに限って言うなら万に匹敵する武力と言っても過言では無い。

その為、ノイモンは軍団規模の武力は必要無いと考えたのだった。



「やれやれ・・・体良く治安維持軍とセルウスレーグヌムの件を押し付けられたな・・・」

三人掛けソファーへ横になり、怠そうにぼやくプリームス。

現在プリームス達は会談を終え、滞在用の賓客室を宛がわれていた。



一人掛けのソファーで寛ぐスキエンティアは、

「だから忠告したでしょうに・・・ついでだからとか、何でもかんでも安請け合いするからですよ」

と呆れた様子で言った。


元々プリームスはセルウスレーグヌム王国へ、自身の持つ個人的な用で赴く予定だったのだ。

そこに今回の案件と治安維持軍の話が重なった訳である。


この案件等が重ならなければ、面倒臭がり屋なプリームスなら知らぬ顔をする筈だっただろう。

だが如何せん好奇心と御節介が発動してしまい、ついでだから引き受けてやる・・・という気持ちになってしまった。


詰まる所、渡りに船ならぬ、渡る船に上手く乗せられた・・・のであった。

こんな状況ではスキエンティアに苦言を呈されても仕方ない。

故にぐうの音も出ないプリームスは、ソファーにうずくまって子供の様に拗ねる始末。



片や豪華なベッドでゴロゴロしているエテルノは、そんなプリームスを見て、

『フフ・・・ほんと王様らしくないよね。そこが良いと言うか可愛らしいと言うか・・・』

とホッコリ日和り気味。


そんな他人事な心中を見抜いたのか、鋭い視線をエテルノに向けるスキエンティア。

「エテルノさん、貴女も他人事では無いですよ。こうなってしまった以上、しっかり働いてもらいますからね」



王であるプリームスの前での素行の悪さを咎められると思いきや、実務に関しての言及でエテルノは呆気に取られてしまう。

「えっ・・・あ、うん・・・」

『宰相も、そこは態度を怒るとこだよ・・・』



因みにイースヒースはと言うと、正に実務的な事で席を外していた。

急遽編成された治安維持軍の確認である。

彼曰く、軍事の専門家と言う訳でプリームスが一任したのだ。


また政治事が苦手なイースヒースとしては会談が退屈だったようで、自身が活躍できる実務の方へ早く行きたかったのは言うまでもない。

こうしてイースヒースは、リヒトゲーニウス側の軍事の専門家クシフォスと共に、プリームスの元から離れているのであった。



そして同じく会談に随伴していたアグノスは、母親のエスティーギア王妃と共に魔術師ギルドの支部を置いている魔術師学園へ向かった。

永劫の王国アイオーン・ヴァスリオの建国にあたって、ギルドの実務的な処理が御座なりになっていたからだ。


ギルドマスターであるプリームスが実際は何もしていないので、後で詰められてご褒美を強請ねだられそうである。

そう思うと嬉しいやら面倒やらで、複雑なプリームスであった。



「で・・・どう言うおつもりなのですか?」

いきなりスキエンティアから脈絡なく問われて、「ほぇ?」と間の抜けた声を漏らすプリームス。



スキエンティアは溜息をつくと、

「ほぇ・・・じゃ無いですよ・・・。今回の案件、セルウスレーグヌム王国へ向かう”ついで”と言うからには、ちゃんと理由を話して貰いますよ」

そう少し機嫌悪そうに告げた。



「何だか今日のスキエンティアは機嫌が悪いなぁ・・・、どうしたんだ?」

と逆にプリームスが問い返すと、またもや溜息をついて仕方なさそうに答えた。


「分かっているかと思いますが、セルウスレーグヌム王国へ同行できません。我が永劫の王国アイオーン・ヴァスリオが建国して直ぐに、宰相の私が国元を離れるわけにはいきませんのでね。ですからプリームス様を御目付出来なくて心配なのです」



一気にスキエンティアから捲し立てられて、プリームスは耳を押さえた。

「うぅ~、そんなに怒らなくてもいいじゃないか!」



「怒てるんじゃありません! 心配しているのです!」



『いつもこの2人は、こんな感じなのか・・・?』

苦笑いしながらスキエンティアとプリームスを見つめていると、エテルノは微かな音を窓際から耳にした。


コンコン・・・と小さな突くような音・・・。



「2人とも、箱舟アルカから何か知らせが来たよ」

そう言ってエテルノはベッドから降りて窓際まで行くと、そっと硝子窓を開けた。



そして2人の方に振り向いたエテルノの肩には、小鳥が乗っていて可愛らしい声でさえずっている。

この小鳥はエテルノの使い魔であった。


それから用件を伝え終えたかのように、小鳥は直ぐに窓から飛び立ってしまう。



以前にもプリームスは、エスティーギア王妃が使い魔らしき物を使役しているのを目にしていた。

『興味深いな・・・』

そう思ったのは、プリームスが知り得る使い魔の仕組みとは、少し違う様な気がしたからだ。


既知の仕組みなら非常に高度な魔法を駆使せねばならず、また新鮮な死体が必要・・・更には大量の魔力を必要とする。

止めには使い魔を維持するために常時魔力供給をせねばならないので、手間と消費に対する見返りが少ない。


故に常用で使い魔を使役する事は常識的に有り得ない。

つまり局地的、限定的な使い捨ての場合に限られる訳だ。



『まぁ使い魔に関しては追々訊くとして、箱舟アルカで何が起きたか確認するのが先だな・・・』

プリームスが居住まいを正す様にソファーに座り直すと、徐にエテルノが口を開いた。



「死神を・・・あのアポラウシウスを倒したそうだよ」


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