第376話・セルウスレーグヌム王国と商工連

セルウスレーグヌムの現国王アンビティオーとは、直接相対した事が無いにしろ関係に曰くが有るプリームス。

それを含めて、セルウスレーグヌム王国自体に興味を惹かれる。



『これは直接赴くのも悪く無いかも知れんな・・・』



プリームスがそんな事を思って居ると、ノイモンがおずおずと説明を再開した。

少し躊躇いがちなのは、先程まで機嫌が悪そうだったプリームスが、突如反応して会話に参加して来たからだ。

「現国王アンビティオー陛下の詳細は御存じかと思われますので、割愛させて頂きます。次は諍いになっている相手国の事を語りましょうか・・・」



割愛すると言ったのは、スキエンティアが掻い摘んで説明を求めたからである。

正直な所、プリームスからすればアンビティオーの事を全く知っておらず、アポラウシウスと繋がっている程度しか認識していない。


『まぁ別に教えて貰わんでも自身でも確認出来るしな・・・』

などと割り切り、プリームスはノイモンの話を黙って聞く事にした。



「西方諸国の最南端に位置し、セルウスレーグヌム王国に隣接する軍事国家をペレキス共和国と言い・・・また商工連とも呼ばれています」



ペレキス共和国は都市国家の集合体で、それぞれの都市が商業・工業で非常に栄えているらしい。

また都市国家1つ1つは、それほど高い軍事力を有しておらず、以前であれば他国からの侵略を牽制出来ない状況にあった。


そこで都市国家同士が軍事的に協調し合い、互いを守る事で出来上がったのがペレキス共和国なのである。

そして通商的に協調をして、遥か以前から結ばれていたのが商工連合と言う枠組みだ。


よって商工連合の方が印象と馴染みが強く、ペレキス共和国となった今でも”商工連”と呼ばれる事があるのだった。



そして軍事国家の側面を持つのは、セルウスレーグヌム王国と同じ地域的状況にあった為、軍事力を成長せざるを得なかったのは言うまでも無い。




「ほほう・・・セルウスレーグヌム王国も興味深いが、ペレキス共和国も実に面白そうではないか」

プリームスは興味津々にそう告げるが、些か不謹慎と言わざるを得ない。

その両国は下手をすれば戦争に発展しかねない状況にあるのだから。



しかしノイモンからすれば、プリームスに関心を持って貰った方が前向きに話が進むので願ったり叶ったり。

と言う訳で、プリームスを見て少し嫌そうな顔をするスキエンティアを余所に、笑顔で問いかけた。

「では南方連合治安維持軍の件は、前向きに考えて頂けるのですかな?」



「前向きも何も、状況は切迫しておるのだろう? ならば出向いて諍いを治めるしかあるまい」



プリームスのそんな言葉にホッとするが、ノイモンは危惧している事があった。

それは永劫の騎士団アイオーン・エクェスの誰か2人を派遣するのではなく、プリームス自身が赴く可能性にだ。


理知的で理路整然とした宰相のスキエンティアが向かうならいざ知らず、実力は申し分ないが気分屋なプリームスが向かうのでは、随分と話が違ってくるからである。


また新興国の王が自ら出向き、治安維持軍を指揮する事へ内外に対しての印象を考えたのだ。

正にスキエンティアが言う、ぽっと出の王がプリームスであり、多くの者が訝しむのは明白である。



「なら俺が付いて行ってやろう。若い頃腕試しで諸国を回った時に、セルウスレーグヌム王国には割と滞在していたからな・・・土地勘もあるぞ」

突如、会話に入って来たのはクシフォスだった。



元より永劫の騎士団アイオーン・エクェスに自国の将軍を同行させるつもりでいたノイモン。

プリームスの御目付役として、更に知名度・武力の高さではクシフォスは打って付けと言えた。



「クシフォス殿・・・宜しいのか? 最近は領地にも帰っておらぬだろうし、大公として御座なりになっている事はないのかね? まぁ小生としては安心して任せられて嬉しくはあるが・・・」

一応建前として、ノイモンは念を押す様に確認を取る。



「かまわんさ。息子と娘が俺の代わりを務めてくれておるしな・・・。それにプリームス殿には返しきれない程の恩がある。ここら辺りで少しずつ返済しておかんと、気分的に首が回らんようになるだろう?」

と言い、クシフォスは「ワッハッハ」と笑った。


これは混沌の森でプリームスに救われた事を言っているのだ。

そしてそれを知っているノイモンとしても、クシフォスを止める理由が特に無かったので承諾することにした。



こうして済し崩しに南方連合治安維持軍を預かる事になったプリームス。

面倒臭い思いより、問題を起こしている2国への興味が上回った事が原因と言える。


一方スキエンティアは、軽はずみに引き受けたのではないか・・・と危惧する視線をプリームスに向けた。



それに気付いたプリームスは、

「なんだ・・・? 何か言いたそうだな」

と2人にしか聞こえない程の小声で囁く。



「いえ・・・この案件は引き受けるべきですが、プリームス様自ら赴かれる必要は無いかと思ったので・・・」

同じく小声で囁き答えるスキエンティアは表情にこそ出さないが、目に随分と心配した様子を湛えていた。


プリームスの御節介な質が、毎回の如く何事かに巻き込まれる原因なのだ。

今回も必要以上に首を突っ込み、”何か”を救おうとするのではないかとスキエンティアは気が気ではない。



それを知ってか知らいでか、

「少し気になっている事があってな・・・。元より別件で彼の地には向かうつもりで居たのだ」

プリームスは、そう僅かに聞こえる声で告げる。


またその瞳は何かを洞察し、見通すように虚空を見つめているのであった。


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