第316話・ケーオとプリームス(1)
拘束?され一応監禁されているプリームスの元へ、副王モナクーシアの妻ケーオがやって来た。
なんとプリームスの世話をすると言っているのだ。
この艶やかな真紅のドレスを身に纏ったケーオは、見た目で言うなら非常に端正な顔立ちで優れた外見を持っていた。
また以前のプリームス程では無いが、腰まである綺麗な赤い長髪を持ち、ドレスと合わさって其の派手さが自己主張の強さを物語っている。
「この地下世界では人手不足が深刻で、本来であれば侍女を用意する所なのですが・・・」
そうケーオは、プリームスの怪訝な様子を察して言った。
「なるほど・・・」
と頷くプリームスだが、まるで賓客扱いなのが納得いかない。
するとケーオはベッドに腰掛け、横になっているプリームスの髪の毛を優しく撫でた。
「監禁されている身で、丁重に扱われるのは御不満ですか? ですが貴女様は救援者であり、私達の救世主と言っても過言ないのです。そんな方を邪険に扱えましょうか・・・」
優しげな表情と丁寧な口調のケーオだが、違和感を感じてしまうプリームス。
それは謂わば第六感的なもので、ハッキリした事は言えない。
故にプリームスは、
『まぁ意図的に消耗させられ、身体が危機を感じて敏感になっているだけかもしれんが・・・』
と漠然とした自身の感覚を、今は深く考慮に含まない事にした。
何より身体が気怠く、それが思考にも影響してしまっているので、考えるのが億劫になった感は否めない。
黙り込んでしまったプリームスを不安そうに見つめケーオは言った。
「あのぅ・・・御不快でしたか?」
自身の配慮の無さに今更気付き、プリームスは慌てて否定する。
「いやいや、すまない。少しボーっとしていた。では少し甘えさせて貰うとするかな」
それを聞いたケーオの表情は明るくなり、プリームスの身体に触れたかと思うと、手際良くその服を脱がし始めた。
「え?! 何? 何故に私の服を脱がすのだ?」
これには本当に不安になり、慌てて疑問を口にするプリームス。
「え? 何って・・・そのように窮屈な召し物では休まりませんでしょう? ですから私が用意した物に着替えて頂こうかと・・・」
などとケーオは然も自身の行動が正しいかのように言うのだった。
確かに今のプリームスの様相は、動き易い武闘着を模した衣装だが、厳かである意味
つまりベッドに横になり休むような恰好では無いのだ。
それをケーオが心配して着替えさせてくれると言っている訳である。
止める理由も、言い返す言葉も無くなりプリームスは借りて来た猫のように大人しくなってしまう。
「そ、そうか・・・」
それを許諾と受け止めたケーオは、躊躇わず”世話”を進めた。
しかし、どうしても四肢に繋ぎ留めた神鉄鎖が邪魔になる。
「着替えに邪魔ですので、輪はそのままで一旦鎖を外します。悪さをなさらないで下さいね」
と笑顔で忠告するケーオ・・・やはり優し気な中に、何か不気味な物をプリームスは感じた。
全くもって
「心配は要らぬよ、”今”はその時では無いゆえな・・・」
そうプリームスはケーオへ、状況次第では今後暴れるかもしれん・・・と暗に警告したのだった。
「さらりと怖い事を仰いますね・・・」
と言いつつもプリームスの身を起こし、テキパキと着替えさせるケーオ。
何時の間にか下着まで着替えさせられ、素早さと手際の良さに驚きを隠せないプリームスであった。
着替えさせられた服は、肩部分と脇腹部分を紐で留める仕組みになっていて、拘束された状態でも着替えが楽に行える物だ。
只、少し問題が有るとすれば思った以上に透け透けで、下着どころか身体の線がクッキリ見えてしまう点だろう。
そして服の型的に言えばドレスだ。
足首まである長い裾に腰辺りまで入った深い切れ込み、拘束状態からの脱衣が容易なように腕には布が全く無い。
色彩は下着が漆黒で、ドレス自体も黒を基調としていてプリームスの肌に良く合っていた。
プリームスに煩悩丸出しで寄って来る者達は皆、このような服を着せたがる傾向にある。
相手が男であれば、そもそも近付けさせる事も許さないのだが・・・相手が女性であるなら、どうしても抗えない。
それが礼節や好意を持って接して来る相手なら尚更であった。
「はぁ・・・私は着せ替え人形なのか?」
とプリームスは、ついボヤキが口を衝いて出てしまった。
「フフフ・・・そうですね。その表現は強(あなが)ち間違いでは無いでしょうね。こんなに美しく可愛らしい女の子を世話出来るなんて、早々御座いませんから」
ケーオは自身の欲望を隠すことなく楽しそうに告げる。
若干不気味ではあるが、自身に対する”人間らしい”見知った反応をするケーオに、プリームスは少しホッとした。
初見では人の存在感を何故か感じず、先程は其れが希薄になったと言っても違和感を感じる程に有ったからだ。
『心配事は杞憂に越した事は無い・・・精神衛生上、良く無いからな』
プリームスはそう内心で呟き、疲弊した肉体と精神を休ませるか如く、無理に洞察する事を止めたのだった。
その後、再び神鉄鎖を取り付けられ漸く着替えが終了するプリームス。
グッタリした絶世の美少女を心配そうに見つめ、ケーオは言った。
「このように貴女様の力を抑制し拘束するのは不本意なのですが・・・。夫の目的を成す為にも、プリームス様には受容して頂く他ありません・・・」
そんな申し訳なさそうに告げるケーオに、モナクーシアの本心を探る取っ掛かりになるのでは・・・とプリームスは思い至る。
勿論、真っ直ぐに訊いて、真っ直ぐに応じるとは思ってはいない。
だが洞察する為の凡その情報を得られる・・・その程度には期待してしまう。
「私の扱いに心が咎めるのなら、その埋め合わせに話を聞かせてくれないかね?」
プリームスは少し思わせぶりにケーオへ告げる。
物腰は柔らかいが、全体の雰囲気から自己主張の強さをケーオに抱いていた為、多少なりとも突っつけば語ってくれそうな気がした。
するとケーオは訝しむ様子は見せず、笑顔で言った。
「話ですか? 私程度の者の話で宜しいのでしたら・・・構いませんよ」
『さてさて、藪蛇に成らぬ様に細心の注意を払わねばな・・・』
そう内心で思い、プリームスは自身が焦燥しきっているのも忘れて、何を引き出そうかと胸を躍らせるのだった。
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