第297話・イリタビリスとの手合わせ(1)

プリームスが実力を確認したいと言うと、イリタビリスはやる気満々な様子を見せた。

「どうやって確認するのかな?!」


その意気込みの強さに圧倒されてしまうプリームス。

「え~っと・・・取りあえず立ち合ってみるか?」



するとイリタビリスは驚いた様な表情で、

「えええ!? プリームスを殴ったり蹴ったりするなんて出来ないよ!」

などと、まるで自分の攻撃が当たるのを前提に言う始末。


オリゴロゴスとの立ち合いを知っている筈なのだが、それを踏まえても自信が有るのか?

それともプリームスの外見に惑わされ、その実力の事を失念してしまったのか?

どちらにしてもイリタビリスが、プリームスを侮っているのは変わりない。



『出会った時もイリタビリスに年下と思われていたようだしな・・・まぁ、こんな為りでは仕方ないか・・・』

プリームスの中身は350歳だが肉体年齢は15歳なのである。

しかも下手すれば、それよりも幼く見えるようなので、どうしても弱々しい印象を与えてしまうのだ。



『念のために言っておくか・・・』

「イリタビリス・・・お主の師匠と私が立ち合ったのを見ただろう? それでも私に殴ったり蹴ったりが当たると思っているのか?」

そうプリームスが告げると、イリタビリスは少し考える素振りを見せた。


そしてウッカリしていたとばかりに、

「そう言えばそうだったねぇ~。でも師匠は本気出せなかったんじゃない? こんな可愛らしくって華奢なプリームスを普通は攻撃できないよ~」

と言い出す・・・やはりプリームスの実力を過小評価・・・否、これは武を試し合う対象では無いと言った認識のようだ。



『これでは実力の確認が出来んな・・・。なら少し搦め手で・・・』

プリームスはイリタビリスへ徐に寄り添い、

「イリタビリスが心配してくれるのは嬉しいよ。それなら寸止めでどうだい? 互いに当てなければ怪我する事もないゆえ」

と、しな垂れながら言った。



華奢で全く体重を感じさせないプリームスに寄りかかられても、負担どころか軽すぎて心配になってしまうイリタビリス。

そうなると、こんな儚い美少女と模擬戦とは言え拳を交えるのは、寸止めでも無理がありそうに思えてしまった。


しかしもう少しとばかりにプリームスが押しにかかる。

「ねぇ~お願い。イリタビリスの強い所、私に見せて欲しいの」

そう告げてイリタビリスの胸へ頭を預け、まるで猫が懐くようにスリスリした。

更に密着している為か、ほのかに甘い優し気な香りがイリタビリスの鼻腔をくすぐる。



「ううぅ・・・わかったよ」

ここまで媚びられると流石のイリタビリスも御手上げになってしまった。

プリームス程の絶世の美少女に頼み事をされて、首を横に振る者など居る訳が無いのだ。

それが惚れた側なら尚更であり、敵対している者でもない限り跳ね退ける事は不可能だろう。



こうして何とかイリタビリスの実力を確認出来る所まで至ったが、失念している事が1つあった。

「ねぇ、立ち合うのは良いけど・・・魔神とか都市部の人間に見つかったら・・・」

とイリタビリスに言われ、プリームスは漸く気付いたのだった。



「あぁ・・・確かに立ち合っている所に横槍が入るのは危険だな」

正直な所プリームスからすると、20mからの高さから落下する危険に比べれば、只の人間や魔神程度の横槍など恐れるに足らないのだ。

だが可愛い身内が心配だと言うのなら、配慮して然るべきだとプリームスは考え、少し思案し提案した。

「では結界を張るとしようか」



「結界って・・・私が住んでる集落にしているような?」

魔法に疎いイリタビリスは、良く分からず見知っている事を口にして首を傾げる。



「それは設置型の結界で次元断絶もそれに当たる。その場合は起動支柱に使う魔道具の魔力が切れぬ限り、半永久的に結界が維持されるな。だが私の使う物は、私を中心に任意の時間と範囲を結界で覆う事が出来る。つまり好きな時に使えて、好きな時に解除できる訳だ」

そう自慢げにプリームスが説明すると、イリタビリスは微妙な表情を浮かべた。


プリームスも釣られて微妙な表情になり、訝し気にイリタビリスへ尋ねる。

「どうした?」



イリタビリスは苦笑いをすると、申し訳なさそうに告げた。

「え~と、そうじゃなくて・・・どんな効果の結界なのかな~って」



的外れな事を偉そうに言ってしまい、顔を赤くするプリームス。

「お、おう?!」

そして何とか気を取り直して、再度説明を始める。

「え~と・・・警報キンディノス・アンゲリアーと言う魔法結界で、私を中心に半径20mの空間を範囲に出来る。効果は範囲に入った生物を感知して、私に視覚と意識で注意喚起してくれると言う物だ」



感心したように驚いて見せるイリタビリス。

「おおお! 凄い! じゃぁ安心して手合わせが出来るね!」

気を使っている感じが伝わってしまい、プリームスの羞恥心を刺激する。


更には、それがわざとだったようで、

「プリームスって可愛いよね~。勘違いして自信満々に説明してくれるし、微笑ましくなっちゃうよ~」

とイリタビリスは上げて落として来た。



余りの恥ずかしさに悶絶しそうになるプリームス。

更にグッと感情を押し殺したかと思ったが、

「な、なんでそんな意地悪するの~!!」

と子供っぽく怒り出し、その場に怒りなのか恥ずかしさなのか屈み込んでしまう。

これは明らかに従来のプリームスでは無く、精神的な負荷が幼児退行を招いたようであった。



「えええぇ?! ど、どうしたのプリームス!? もう意地悪しないから機嫌直して・・・・お願い」

まさかこんな展開になるとは予想できず、慌てるイリタビリスはプリームスの傍に屈み込み懇願するように言った。



するとプリームスは頬を膨らませイリタビリスへ視線を向ける。

「本当に?」


コクコクと首を縦に振り、イリタビリスは必死に頷く。

そうすると何とか誠実さが伝わったのか、

「分かった・・・・」

そう呟きプリームスはイリタビリスに抱き着いてきた。


機嫌を悪くした幼児が愚図りつつも、素直になって母親にしがみ付くような状態である。

しかしイリタビリスは悪い気がしなかった。

プリームスとの関係が密接になり、必要とされている様に感じたからだった。


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