第296話・起動支柱(3)
プリームスが徐に抱き着くと、イリタビリスが驚いてしまった。
「え、え?! 何々?!」
基本的にプリームスから他の身内に抱き着く様な事は少ない。
皆、プリームスの事が大好きなので、何方かと言うと身内から抱き着く事が多い。
なので、このようにプリームスから無言で、しな垂れる様に抱き着いて来るとビックリしてしまうのである。
「何って、指輪の飛行魔法で断崖に沿って飛んで欲しいだけだが・・・」
と首を傾げて答えるプリームス。
すると残念そうな顔をしてイリタビリスは言った。
「そ、そうだよね~、こんな状況で御褒美を先に貰える訳無いよね・・・」
それを聞いて悪戯心が芽生えたプリームスは、イリタビリスの首に両腕を回して顔を近付ける。
そして耳元へ囁くように告げた。
「ほほう? セッカチな奴だな。発情期なのはイリタビリスの方なんじゃないか?」
更にそこからイリタビリスの耳をペロリと舐めたり、軽く息を吹き掛けたりと悪戯し放題。
これにはイリタビリスも我慢出来なかったのか、プリームスをギュッと抱きしめて言った。
「プ、プリームス! 断崖の上の方を調べるんじゃなかったの?!」
『目的を優先し自身の煩悩を抑え込むとは・・・予想以上に自制心が強な!』
イリタビリスに感心しつつも、プリームスは遊んでいる場合では無いな・・・と自嘲する。
「そうだったな。では私を抱えて崖に沿って飛んでくれないか? 最終的な位置は、矢倉が有ったと思われる一番上だな・・・その辺りで停止して欲しい」
指示通りイリタビリスはプリームスをお姫様抱っこをして、
そうすると2人は緩やかに上昇し、危なげなく20m程の高さに到達する。
そしてプリームスが崖の岩肌を観察すると、掘削され埋め立てられたような跡が残っているのに気付く。
縦横1.5m程の正方形の木枠が岩肌にめり込んでいる状態で、明らかに木枠の内側が”岩肌”では無いからだ。
「これは、まるで墓のようだな・・・」
プリームスが居た以前の世界では、山地で暮らす民族が崖に墓を作る習慣が有ったのだ。
これは”
だが基本的に火葬した後に残った骨を安置する場所であり、埋め立てたりはしない。
これが気になってプリームスはイリタビリスへ尋ねる。
「守り人の民の墓は、崖に作るのかね?」
イリタビリスは頷いた。
「そうだよ~、ここでは平地が希少だからね。火葬した後に骨壺に入れて崖墓に安置するんだよ。それでね、お墓の入り口は開けっ放しにしておくの」
「ほほう・・・何故かね?」と続けて問うプリームス。
すると少し切なそうな表情を浮かべイリタビリスは答えた。
「天国から家族を見守れるように・・・・だから出来るだけ高い崖の位置にお墓を作って、入り口は塞がないんだよ」
「そうか・・・」
イリタビリスの様子から、自身の両親を思いながら説明しているのは明白であった。
プリームスも切なくなってしまい気不味くなるが、こればかりは仕方ない・・・と割り切り調査を開始する事にする。
先ずは”
それは少しずつ土の表面を透視し奥に向かう作業で、実に地味な上に集中力を使う。
こうして10分程かけてジワリジワリと調べ進め、プリームスは漸く怪しい何かを発見した。
『次元断絶の内側にあるが、相当に魔力硬度の高い隠蔽魔法が施されているな。それにこれは存在力を希薄にされているだけでは無い・・・。物理的な干渉が”完全に不可能”な状態にあるぞ!』
守り人一族の魔法技術が抜きん出ている事は承知している。
しかしプリームスが目の当たりにしている”それ”は、人の領域を超えた法則で成り立っていた。
物理的な干渉が出来ない──それは変化を有しておらず観測出来ないに等しい。
そして観測出来ないと言う事は、要するに存在しない事なのだ。
プリームスが”それ”に気付けたのは、存在する筈の空間に何も無かったからであった。
『だが、これは生きた人間の出来る技では無い。もし可能であるとするなら・・・時間停止級の代物になる。こんな物、冗談ではないぞ・・・』
自身の推測から至った答えに、プリームスは舌打ちする。
そうして溜息をつき、
「これが起動支柱なのは間違いないだろう。しかし万が一見つかっても干渉出来ぬ様に仕込んであるのは、それだけ魔神を危険視していたからだろうな・・・」
そう独り言のようにプリームスは呟いた。
プリームスを抱えて空中停止しているイリタビリスは、少し心配そうに尋ねる。
腕の中で絶世の美少女の機嫌が悪くなったように思えたからだ。
「何か良くない事でも見つけたの?」
プリームスがした先程の質問と言い、イリタビリスへの配慮が足らなかった自分が情けなくなる。
『お互い密着している所為か微妙な感情が伝わってしまったか・・・』
「いや・・・良くないと言う訳では無いよ。ただ私の推測が正しければ、守り人一族は業が深いと思ってしまっただけだ・・・」
そうプリームスは告げて、イリタビリスへ地面へ降りるように指示をした。
「業が深い?」
プリームスを優しく地面へ下ろし、イリタビリスは首を傾げる。
「うむ。強大な力を求める余り、その犠牲を厭(いと)わなかったと言う事だよ。躊躇わず次元断絶を発動させた事も然り・・・そして次元断絶を完成させる為に強いた犠牲も然りだ」
と感慨深くプリームスが告げるが、余計に分からなくなり困った表情を浮かべるイリタビリス。
そんな新たな身内の様子が可愛く見え、プリームスは笑みが溢れた。
『ややこしい事は、今は私が背負い込めばよい・・・』
「フフフ・・・。まぁイリタビリスには直接関係の無い事だ、余り気にするな。それよりも次元断絶に関しては大体把握したゆえ、次の段階に進もうか」
次の段階と言われ、自分が役に立てるのかと不安と期待にイリタビリスは胸を高鳴らせる。
「あたしに出来ることなら何でも手伝うよ! さっきみたいに教えて貰ってやれる事でも、頑張って挑戦するよ!」
プリームスを慕い身内になった者は皆、役に立ちたくて仕方が無いのである。
それがビンビンに伝わりプリームスは苦笑してしまった。
「あ〜、いや、う〜む。そうだな・・・実は荒事になりそうでな、一応イリタビリスの実力も確認したい」
「え?! あたしの実力って・・・真人流の技術の事?」
イリタビリスは、プリームスの漠然とした言い様に少し困惑した。
実力にも色々ある訳で・・・技なのか?、実際の立ち合いの強さなのか?、はたまた対象を殺す戦闘能力なのか?
これには説明が足らなかったとばかりに再び苦笑いをし、プリームスは補足するように言った。
「都市部に乗り込み
「プリームスを守れるか?って事だよね! で、どうやって確認するのかな?!」
漸く腕を磨いて来た結果を出せると、イリタビリスは鼻息を荒くさせるのだった。
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