第285話・元老モナクーシア(2)
この地下世界を牛耳っているモナクーシアが、王で在るシュネイを慕っていたと知らされるプリームス。
正直、他人の恋路など余り興味の無いプリームスとしては、そんな事どうでも良かった・・・・。
しかしこの人間関係人にこそ核心が隠れて居そうで、仕方なくオリゴロゴスから話を聞き出す事にした。
「多分、オリゴロゴス殿は知っていると思うが・・・・シュネイと
そうプリームスがオリゴロゴスへ尋ねると、少し驚いた表情で答えた。
「王から直接聞いたのか?! まぁ今更隠しても意味が無いか・・・・その通りだ。だがな、王は気付いていたようだぞ」
他者に対して敏感な感覚を持っていれば、自身に向けられた悪意や好意には気付いてしまうものである。
それは上に立つ者なら重要な資質であり、王であるシュネイが持っていて当然と言えた。
『私の場合は悪意の理由も大体分かるが、好意の方は其れが分かっても、何故慕われるか全然分からん・・・・』
などと内心で呟きプリームスは自嘲してしまう。
そして『って、私の事などどうでもいいか・・・』と自身に突っ込みを入れて、この三角関係に想いを馳せた。
シュネイは100年の歳月が経った今でもインシオンを想い続け、地下世界から助け出そうと試行錯誤して来た。
しかも現れるかも分からない、プリームスの様な超絶者をも待ち続けたのである。
それらを鑑みればインシオンを愛するシュネイの想いの強さは、生半可な物では無いだろう。
またインシオンはモナクーシアの武の師と言っても良い存在で、裏・真人流を極める要因となった
要するに恩人なのだ。
『愛する王と、恩人であり師でもある存在・・・・2人の邪魔をするような事は、モナクーシアには出来なかったのだな・・・』
そうなるとモナクーシアは、義理堅く忠誠心が強い人間と言う事になってしまう。
『う~む・・・・何だか解せんな・・・・』
独裁に至るモナクーシアの心情が洞察出来ず、頭を傾げるプリームス。
だが、「あっ・・・・」と声を漏らして失念していた事に気付き、オリゴロゴスへ問いかけた。
「オリゴロゴス殿! モナクーシアの目的は何だ?」
先ずは表から見える理由を知るべきなのだ。
ついついプリームスは人間の二面性を考え、裏に有ると思われる核心を洞察しようとしてしまう。
少ない情報の中で其れを行うのは突飛であり、プリームスでも無理があるのだった。
「あぁ・・・そう言えば話していなかったな。奴の目的はこの地下世界からの脱出と、地上への侵攻だよ」
オリゴロゴスも失念して居たとばかりに、申し訳無さそうに答えた。
意外な返答に、ついプリームスは聞き返してしまう。
「地上への侵攻?! 地下世界から解放されたい気持ちは分かるが、流石に地上へ攻め入るのは無茶な考えだな・・・」
オリゴロゴスも同意するように頷く。
確かに守り人一族の文明水準は、地上の国々を上回っている。
エスプランドルの古代迷宮がその証であり、あれ程の巨大な地下施設を作り出す技術は地上には存在しないだろう。
また地上の人間では抗えない、魔神と戦える軍事力も持ち得ている。
その武力、魔術力で比肩するのは、"同じ使命"を有すると思われる魔導院くらいだろう。
『だが、それでも無茶な話だ。最盛期で50万人近い人口を誇っていたようだが、今はその影も無いだろう・・・。世界を相手するには絶対的に物量が足りていない』
プリームスはそう今の守り人一族の力を評価し、オリゴロゴスへ鋭い視線を向けた。
「モナクーシアが地上へ攻め入る訳は何だ?」
オリゴロゴスは古い記憶を呼び起こすように瞳を閉じて、徐に語り出す。
そこは美しく研磨された大理石で囲われた屋内の一画。
華美さは殆ど無く、儀礼用だろうか・・・最小限の装飾のみ施された広大な間であった。
また間の一番奥には祭壇があり、美しく形どられた2m程の女性の神像が安置されている。
白髪が混じりかけた灰色の長い髪の男が、神像を背に憮然と立っていた。
その男は見た目だけなら初老に入る頃と見て取れるが、鋭い眼光と威厳と自信に満ちた雰囲気は生命力に溢れ、壮年程度に見えなくも無い。
またその身体を覆う法衣は漆黒で、ふんだんに施された美しい金の刺繍が、この人物の地位の高さを物語っていた。
そしてこの人物の視線の先には、多くの武術着を着た者達が地に伏せ身動きすらしない。
この状況は明らかに戦いが終わった後であり、そしてこの漆黒の法衣を来た人物が勝者である事は明白に見える。
だが只一人、地に伏せず漆黒の人物の前に膝を屈し、鋭い眼光を放つ男がいた。
この男も法衣を身に着けてはいるが、鮮やかな朱色で細やかな美しい刺繍があしらわれている。
その様相から、この男も相当に地位の高い人物と言えた。
漆黒の人物は静かに言った。
「兄上・・・いやオリゴロゴス元帥、俺に賛同し意志と行動を共にするのだ」
朱色の法衣の人物──オリゴロゴスは唸る様に溜息を洩らすと、
「モナクーシア・・・今更よく言えたものだ! 突如軍部を混乱に陥れ、剰(あまつさ)え軍門に下らない者を皆殺しにする奴など信用出来るか!」
罵るが如く語気を荒めて言い放つ。
しかしモナクーシアは揺らぐ事無く、静かに返す。
「こうする他無かった。俺が一族の解放だけでなく、地上への侵攻を告げれば兄上は同意しなかったであろう? ならば掌握してから選ばせればよい・・・・同調か死しか有らぬがな」
オリゴロゴスは拳を床に叩きつけ、怒りに任せ言い返した。
「そんな物で人心が得られると思うな! 必ずお前は失敗する・・・そもそも次元断絶を越える術無く、我々は此処で絶えるのだからな! それにお前はスキア神の教えに背いている・・・・いつか神罰が下ろう!」
呆れたように深い溜息をつくモナクーシア。
「俺には神託の棺がある。これで必ず地上へ戻る術を見つけて見せよう。で、兄上は俺がスキア神に背いていると言うが、よく考えて見ろ・・・魔神と戦う使命を神から授かったが、人類を守れなどと言う天啓など授かっていない」
モナクーシアの言い様に呆然とし、オリゴロゴスは目を見開いた。
「なっ・・・・何を馬鹿な事を言っている!」
「我ら一族は、スキア神より聖典を託され時に発祥した。その聖典には人へ仇なす魔神を退け地に栄えよ・・・そう記されている。我々の使命は魔神を退ける事にあり、人類を守る事ではない・・・それは只の過大解釈だ」
そうモナクーシアに言い放たれ、オリゴロゴスの脳裏が真っ白になってしまう。
あまりの衝撃な発言に思考が一時的に停止してしまったからだ。
『馬鹿な・・・それこそが過大解釈であろうに・・・・』
しかし今のモナクーシアの一言で、オリゴロゴスの心が揺らがなかったとも言い切れなかった。
その様子を悟ったのか、モナクーシアは静かだが捲し立てる様に言葉を発する。
「我々は900年もの歳月を人知れず魔神と戦い、何の見返りも無く人類を守り続けて来た。だがその結果、今のこの有様だ・・・。魔神を地上に引き入れない為に、民50万人をも犠牲にしたのだぞ! こんな無慈悲な現実があって良いのか? 我々も同じ人類だと言うのに!」
そして諭す様に語調を弱め続けた。
「故に・・・魔神を退けた我々が”地に栄える”べきなのだ」
オリゴロゴスは俯き、苦悩するように歯を噛み締める。
『一見してモナクーシアの言っている事は正しくも思える・・・。だがそれではワシ等が・・・一族が行って来た今までを無駄にしてしまう。魔神を退け地上の人々が幸福に暮らせる世界を作る・・・それがスキア神の使徒である我々の役目だった!! でなければ900年の歳月を無駄にしてしまう!』
「む!」
「むお?!」
その時、突如二人の間に眩い光源が発生し視界を奪ったのだった。
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