第276話・露天風呂とイリタビリスの才能(2)

イリタビリスに悪戯するつもりは無かった?のだが、触診により思った以上に刺激を与えてしまったプリームス。

そうなるとイリタビリスから反撃を受ける訳で、抵抗する術無く好き放題されてしまう。



「はぁはぁ・・・・む、無駄に汗をかかせおって・・・・」

とプリームスはイリタビリスに寄りかかりながら脱力状態だ。


「良いじゃない、これから身体を洗い合いっこして温泉に浸かるんだし!」

片やイリタビリスは、嬉しそうにプリームスの身体を未だに撫でている有様である。



それから互いに落ち着くのを待って、漸く洗い合う事になった。

隅に有る木製の桶と腰掛を、湯舟の傍まで持ってくるイリタビリス。

そしてプリームスを腰掛に座らせた。


「先ずはプリームスを洗ってあげるね!」

楽しそうに言うとイリタビリスは桶でお湯を湯舟から汲み、ゆっくりとプリームスへ掛湯をする。

40度程のお湯だろうか・・・・熱すぎず、ぬる過ぎず、気持ちの良い温度だ。

「あぁぁあぁ・・・・」

つい心地よくプリームスは声が出てしまう。



「フフフ・・・いいお湯加減でしょ! 洗い終わったら一緒に浸かろうね!」

元々世話好きなのか、それとも歳の近い同性と親しく出来て嬉しいのか、イリタビリスは随分と御満悦な様子だ。


「えらく楽しそうだが、どうしたんだ? 一緒に風呂に入れる仲間が居らんでも無かろうに・・・・」

不思議に思ったプリームスは、率直に疑問を口にしてしまう。



するとイリタビリスは楽しそうな表情を崩さずに言った。

「う~ん・・・・ここではね極端に出生率が下がっているみたいで、あたしと近い年頃の娘は殆ど居ないの。居たとしても、それぞれの集落で隠れて姿を見せる事は無いと思う」


それから何時の間にか持っていた石鹸で手を泡立てると、プリームスの右腕を取り優しく指先から洗い始める。

くすぐったい感覚と、他人の肌と触れ合う心地よさが綯交ないまぜになり、プリームスは声が漏れそうになった。


そんな感覚と戦いながら、イリタビリスの言葉を脳内で咀嚼する。

『出生率が下がっているのは、恐らく自然の流れと言って良いだろう。いくら広大な地下空間とはいえ隔絶されているのだ、他から新たな血が加わらなければ血が濃くなりすぎる・・・・』



気が付くと両手、両腕は洗い終わり、イリタビリスはプリームスの足を洗い出していた。

「うぅうう・・・こ、こそばゆい・・・」

プリームスは悶えるのを堪えながら、イリタビリスが言った後者の内容に思考を巡らせる・・・・が出来なかった。


その泡立った手がプリームスの太腿に触れたからだ。

しかも優しく揉みながら洗うその技術は、とても素人とは思えない。

脚や太腿の内部に溜まった老廃物が、イリタビリスの按摩技術に因って散らされ疲れが引いていくようであった。



「あぁぁ・・・・何でイリタビリスは、こんなに上手なの?」

余りの気持ちよさに他の疑問が割って入り、プリームスの口から漏れる。



イリタビリスは次にプリームスの背中を按摩しながら洗いを進めた。

「それはね、修行の後にいつも自分で揉んでたからだよ~。元々、あたし・・・って言うか師匠の流派は、こんな感じに身体の手入れや管理を主とするからね~、按摩とかも修行の一環なんだよ」



『なるほど・・・肉体を常に健康に保ち、気を操る事で劣化を防ぐ。これは詰まり長寿に繋がる。即ち武術において戦わずして相手に勝利する事を意味する・・・だな』

敵対する相手がいても寿命で勝れば、相手は淘汰される事になるのだ。

ある意味、武術や仙術の究極の考え方と言えた。



漸くイリタビリスの洗いに慣れ、冷静に考えられる様になったプリームス。

イリタビリスの言った師匠の流派に興味をそそられる。

「オリゴロゴス殿は武術の宗師なのかね?」



背中を洗い終えたのか、イリタビリスは胸をプリームスの背中に押し付けて密着状態にした。

更にそこから抱きしめる様に手を前に回し、プリームスの前半身を洗い出す。



慣れたと思ったのは錯覚であった。

前半身は思った以上にくすぐったく、悶絶しそうになる。

「うぅうぅ・・・うは・・ひぃ! イ、イリタビリス・・・・お主、わざとやってるのでは・・・・」



プリームスの後者の問いかけは聞き流し、楽しそうにイリタビリスは答えた。

「うん、表・真人流の宗師だよ~。でも実子が居ないから、あたしに後を継がせたいって言っててね・・・・困るよね、あたしなんかまだまだなのに・・・」



表・真人流と言う事は、裏の流派も存在し宗師も別に居ると考えられる。

それは基礎は同じでも、その技の使用目的や趣旨自体が異なるのは明白であった。


得た情報からあれこれ推測するプリームスだが、イリタビリスの巧みな指捌き手捌きが思考を阻害してしまう。



そしてプリームスの脳裏には、この世界に来て初めて湯浴みした事が走馬灯のように過っていた。

あの時はスキエンティアに好き勝手され悶絶したのだが、また同じ事が起きそうで気が気でならない。



『なぜ皆は、私を洗いたがるのか??』

風呂や温泉などの裸の付き合いは、心の距離が縮まると一般的に言われる事が良くある。


しかしながら身内などがプリームスにする”それ”は、一方的であり煩悩を感じずにはいられない。

『全く! 私は皆の玩具ではないぞ!!』

そう内心でぼやくプリームスだが、綺麗にされるまでイリタビリスの手が止まる事は無いのであった。


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