第277話・妹属性と母親属性
イリタビリスに因って、プリームスは好き放題に身体を洗われてしまった。
多少気持ちは良かったが、疲れた感は否めない。
グッタリしたプリームスを見てイリタビリスは、
「ごめんね・・・調子に乗り過ぎっちゃったみたい・・・。次は普通に髪の毛洗ってあげるから安心して」
と少し申し訳なさそうに言った。
ただ髪の毛を洗うだけなのに、変な事をされて堪るか!!、と思いつつもプリームスはイリタビリスに寄り添ったまま頷く。
するとイリタビリスは、石鹸と一緒に持って来たのか20cm程の高さがある瓶を2つ持ち出して来た。
1つは透明な瓶で、もう1つは薄い赤色をした瓶だ。
形状と大きさが全く同じなので、恐らく色違いなのは中身を見分ける為だろう。
『ひょっとして洗髪剤かな?』
とプリームスが推測していると、イリタビリスは透明な瓶の蓋を開けて言った。
「これはね師匠が私の為に作ってくれた洗髪剤なんだよ~。ちなみに赤い方は洗った後に髪の毛を保護する薬剤なんだって~」
スキエンティア並みにオリゴロゴスは凝り性のようだった。
と言うか、スキエンティアはプリームスの事が好き過ぎて、プリームスの為を思い洗髪剤を作ったのである。
詰まりオリゴロゴスも可愛い弟子の為に洗髪剤を作ったのではなかろうか?
そう考えるとオリゴロゴスは、子煩悩もとい弟子煩悩と言った所か。
『実子が居ないという話だからな、弟子と言うよりイリタビリスは娘に近いのかもしれんな・・・』
プリームスがそんな事を思い、ほくそ笑んでいるとイリタビリスは行動を始めていた。
既に掛湯で濡れていたプリームスの髪に洗髪剤を少量馴染ませ、優しく洗いだしたのだ。
「うぅうぅぅ・・・・」
と声が漏れるプリームス。
別に如何わしい事をしている訳では無いのだが、イリタビリスの洗髪技術が上手過ぎて気持ちが良かったからだ。
「他人に頭を洗って貰うって、何だか気持ちが良いでしょ! 自分で洗うのと全然違うよね~」
プリームスは顔が濡れない様に俯いている為、イリタビリスの表情は分からないが、その語調はとても楽しそうである。
そんなイリタビリスを不思議に思うプリームス。
世話好きなのもあるだろうが、相手を不快にせず心地よくさせる洗い方は、誰かを真似ないと出来ないもの。
「イリタビリスは洗髪だけでなく他人の世話が上手に感じるが、どうしてなのだ? 誰かの付き人でもやってたのか?」
そんな何気ない問いかけにイリタビリスの声は、ほんの少しだけ暗く変化したように感じた。
「付き人はしたこと無いけど・・・母がね、あたしの髪の毛をこうやってよく洗ってくれたんだ~。今は父も母もどちらも・・・もう居ないけどね・・・」
「・・・・・・」
『やはり過去夢で見た事は、現実の記憶で間違いないようだな・・・・だが、父も亡くしているとは・・・やはり魔神相手なのか?』
プリームスが黙ってしまった事で、気まずい雰囲気になってしまう。
「ご、ごめんね! 何だか湿っぽくなっちゃって・・・・。今は師匠が私の親みたいなものだから寂しく無いし、あたしは全然大丈夫だから!」
と慌てて場の空気を元に戻そうとするイリタビリス。
何とも健気で可愛いな・・・とプリームスは和むのだった。
それから髪の毛を洗い終えたプリームスは、先に温泉に浸かる事になる。
身体や髪の毛を洗ってくれた礼に、イリタビリスの背中を流してやろうと思ったのだが、やんわりと拒否されてしまった。
「プリームスはお客様だからね! 気にしないで!」
だそうだ・・・。
『オリゴロゴス殿に何か言われたのだろうか?』
プリームスは少し勘繰るが温泉が気持ち良すぎて、もうどうでも良くなってきていた。
因みに湯舟へ流れてくる温泉は、40度前後の温度で多少長湯しても大丈夫そうであった。
ふと湯舟の木で出来た外枠に首根っこを乗せ、天井をプリームスは見上げた。
本来、露天風呂なら満天の夜空や、青い空が見える筈なのだ。
しかしここは地上から隔絶された地下空間・・・・そんな物は望める訳もなかった。
だが魔法照明が幾つか垣根の上に設置されていて、淡い橙色が辺りを照らし幻想的な雰囲気を醸し出している。
『これはこれで趣があって良いな・・・・』
そうプリームスが内心で素直に感心していると、イリタビリスが身体を洗い終え湯舟に入って来た。
そしてプリームスに寄り添うように密着する。
「おいおい、何だ?」
まるで甘えてくるような様子で近寄って来るイリタビリスに、プリームスは戸惑ってしまう。
するとイリタビリスは上目遣いに視線を投げかけて言った。
「プリームスは妹みたいに小っちゃくて可愛いのに、お母さんみたいに包容力もあって凄く優しい・・・・」
『おおう!!?』
戸惑いから焦りに変化するプリームスの心情。
プリームスは自身の容姿が、他者より取り分け優れているとは思っていない──事実は別としてではあるが・・・。
だが自身の容姿の所為で、他者がプリームスに魅了される事は理解していた。
『こ、これは私へ好意を持っていると言う事か・・・・いやその好意では無く、恋愛的な?!』
更に言えば母性的な愛情も求められているのだ。
これには流石のプリームスも焦ると言うものである。
そうこう自問自答している間に、イリタビリスはプリームスへ迫って来た。
先程までは横に寄り添う形であったが、正面から絡みついて来たかと思うと、その豊満なプリームスの胸に顔を埋めたのだ。
イリタビリスの事を好意的に思っているプリームスとしては、特に拒否する理由も無いのだが、
『何か様子が変だな・・・・』
そう怪訝に感じて警戒してしまう。
「ちょ、ちょっと、待ってイリタビリス! 急にどうしたの?」
拒否してしまえばイリタビリスが傷付くと思い、プリームスは言葉で問い質した。
そうするとイリタビリスは、おずおずと視線を向けて告げる。
「あたしね師匠から簡単にだけど聞いたんだ・・・。プリームスが解放者だって・・・・それに皆を導く王になるんだって」
いずれ”それ”は分かる事であり、今イリタビリスに知れたところで大きな変化はない筈である。
なのに今のこの状況とどう結びつくのか?!、とプリームスは混乱するばかりであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます