第274話・イリタビリスとプリームス(2)

プリームスは過去夢に因り、イリタビリスが男性に対しての精神的外傷を負っている事を知る。

しかしイリタビリスの主観的な過去夢だった為、本人が何歳の時に起こった惨劇かは分からない。


『だが思春期であったのは恐らく間違いない・・・』

そうプリームスが判断したのは、イリタビリスの性向が同性に向いてしまっているからだ。


成長に伴い異性に対して興味を抱くのは、自然の理であって何ら可笑しい事では無い。

それが人間の成長途上で起こる思春期であり、人が繁栄して行く為の準備なのである。

だが女性に対する男を模した存在の一方的な暴力で、イリタビリスの心が傷付いたのは明白であった。



『・・・・それを目の当たりにして歪まない方が変か・・・』

そうイリタビリスを分析するが、当の本人はプリームスに引っ付いて離れない。



「イリタビリス・・・・湯浴みをしたいのだが・・・まぁ最悪、水浴びでも」

二日酔いで頭痛が酷かったプリームスだが、水分を取り暫く布団でゴロゴロしていると楽になった。

そうなると次はスッキリしたくなってきて、綺麗好きのプリームスとしては御風呂に入りたくなるのである。


寝起きは湯浴み──それが習慣である為、どうも我慢が出来ないプリームスであった。



するとイリタビリスは嬉しそうに答える。

「お風呂!? 大丈夫だよ! 直ぐにでも入れるから、一緒に入ろう!!」

御風呂であるなら合法的?にプリームスの裸体を見ることが出来る。

しかも背中を流すと称して、その魅惑的な身体に触れ放題であるのだ。

嬉しく成らない訳が無かった。



「直ぐに湯浴み出来るとは驚きだな・・・ひょっとして温泉でもあるのか?」

プリームスの問いにイリタビリスは頷くと立ち上がり、宙で淡い光を放っていた光源に手を差し出す。

そして何やらいじったかと思うと、部屋中を眩い光で覆ってしまった。



急に明るくなれば慣れていない目が過敏に反応する為、

「ぐわぁ~! 目が!」

と言ってプリームスは布団の上でのたうち回ってしまう。


そんなプリームスを見てクスクスと笑うイリタビリスは、非常に女性らしい声色で言った。

「フフフ・・・・何? 大袈裟なんだから」



眼が光に慣れプリームスは周囲を見渡すと、小じんまりとした角部屋なのに気付く。

部屋の2面に2枚ずつの引き戸があり、残りの2面1つには壁、片方は窓が設置されていたのだ。

オリゴロゴスと酒を飲み交わした部屋と同じ大きさなので、この一辺2.5m程の広さが部屋の基本形なのだろう。


またイリタビリスが弄った物は魔法の照明道具らしく、天井からぶら下げられた10cm程の球体だ。

球体は硝子で覆われていて、触れる事に因り中の魔法光が強さを変化させるようであった。




「ここはイリタビリスの部屋なのか?」

プリームスは少し首を傾げながら尋ねた。

この部屋は殺風景で、家具はタンスらしき物と小さなテーブルが置かれているだけだからだ。

とても年頃の女子の部屋とは思えない・・・。



「そうだよ~、何にも無くて驚いたでしょ」

そう言いながらイリタビリスは引き戸を開けた。

引き戸の先は収納空間になっており、恐らくこの小じんまりとした部屋を有効に使う為の物に違いない。


その収納空間は上下2段に分かれていて、上の段にはタンスが設置されている。

『収納空間に収納家具を置くとは・・・・』

”頭痛が痛い”のような、矛盾する言葉を内心で呟いてしまい笑いそうになるプリームス。



イリタビリスはタンスから大判のタオルや着替えを取り出し、プリームスを見て不思議そうな顔をした。

「どうしたの? プルプルしっちゃって・・・・。それより早くお風呂に行こう! 私に付いて来て」



イリタビリスの後を付いて行こうとするが、プリームスは二日酔いの所為かフラフラして上手く立ち上がれなかった。

『むむ・・・・酒精の強い酒は流石に堪えるな・・・・』


この世界で人は15歳で成人を迎えるが、酒に関しては18歳になるまで基本的に口にしない。

それは成長途上にある者が酒精を摂取する悪影響を、医学的に把握出来ていたからであった。


なのに未成熟な身体で酒精を、しかも強い酒を大量に飲んでしまったプリームス。

『うぅぅ・・・・年甲斐も無く調子にのりすぎたか・・・』


今更後悔しても仕方ないのだが、実は以前の身体なら滅法酒に強く、潰れた事はおろか悪酔いなどしたことが無かった。

故に今の身体でも大丈夫と過信し、愚行に至った訳である。



「待ってくれ〜イリタビリス・・・」

プリームスは四つん這いになって、助けを請う有様だ。



イリタビリスは「やれやれ」と言い溜息をつくと、プリームスの傍に徐に戻る。

そしてプリームスを仰向けに転がすと、その腕に着替えとタオルをドサリと置いたのだった。


転がされた上に急に自身の上へ物を置かれ、戸惑うプリームス。

「あぅっ!?」



更にイリタビリスはプリームスを抱き上げたのだ・・・言わばお姫様抱っこ状態である。

しかもプリームスは半裸なので、一見して色っぽくなるかと思いきや、着替えやタオルを乗せられているので不格好に見えてしまう。



「師匠のお酒は全部強いのばっかりなんだよ〜! プリームスみたいな御子様が調子に乗って飲む物じゃないんだから!」

と半ば年下を嗜めるような言い方をするイリタビリス。


これにはプリームスも反論の余地無しである。

「ぬぐぐ・・・」



イリタビリスはプリームスを抱えたまま軽快に歩き出し、

「そんなオッサンみたいな唸り声あげないのっ! プリームスはちっちゃくて可愛らしいだから、もっとお淑やかにしないと」

などとお姉さん風を吹かす。



反論出来ない上に子供扱いされ、ぐうの音も出ないプリームスは諦める事にした。

「もう好きにしてくれ・・・」


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