第273話・イリタビリスとプリームス(1)

オリゴロゴスに酒を勧められ、飲み過ぎたプリームス。

どうも酔い潰れてしまったようで、丁寧に布団へ寝かされてしまっていた。



眠っていたプリームスの傍にはイリタビリス居て、酔い潰れたプリームスを介抱してくれたようなのだが・・・・服は脱がされ下着姿だったのだ。

「私の容姿が気になって、介抱を理由に悪戯したと・・・・?」



そうプリームスが問い詰めると、イリタビリスは苦笑いを浮かべた。

「あ・・・えっと~、うん・・・・だってプリームスってすっごい色っぽい身体してるんだもん・・・・」


更に開き直り続ける。

「って言うか、調子に乗って悪酔いするプリームスが悪いんだからね! それを介抱してあげたんだから、ちょっと見たり触ったりするぐらい良いじゃない!?」



深い溜息をつくプリームス・・・少し呆れたのだ。

「まぁ、イリタビリスの言う通りだな。ここが戦場なら、酷い目に合うか死んでいた所だしな。介抱してくれて有難う」

『そもそも戦場で酔い潰れたりはせんが・・・・』

と自嘲と自身への突っ込みを入れつつ、プリームスはこの少女の行いを不問にする。



するとイリタビリスは、意外な顔をして言った。

「プリームスって優しいんだねぇ。大らかって言うか、寛大っていうか・・・」

そして少しだけ俯くと呟いた。

「あたしはね・・・師匠は大丈夫なんだけど、男の人とかが全然駄目で・・・。その所為なのかな?、女の子に・・・特にプリームスみたいに儚くて可愛らしい娘が好きなのよね・・・」



などと自身の性向を告白されても、プリームスは困ってしまうだけである。

だが、このイリタビリスの言い様で、”やはりそうなってしまうか”と言う思いも脳裏を過った。



酔い潰れて眠っている間に見た過去夢は、イリタビリスが見た過去の記憶に違いないとプリームスは確信していた。

いままでの過去夢は、空間の魔力量子に記憶された過去の事象を見る事だった。


しかし今回はイリタビリスの記憶を、プリームスは過去夢として見てしまっていた。

『これは恐らくイリタビリスの内包する魔力と、私の魔力の相性が良かったゆえに同調し、過去夢を発現させたのやもしれんな・・・』



また過去夢で見た惨劇から、イリタビリスは男性に対する精神的外傷を負ってしまったのだとプリームスは分析する。


『そう言えば、オリゴロゴス殿が師匠であり親代わりと言っていたな・・・。となると両親共々、もうこの世には居ないのか』

そう思うとプリームスは、リタビリスがとても不憫に感じ、何かしてやれる事が無いか?と考えてしまうのだった。


詰まる所それは、プリームスのお人好しと御節介が発動したのである。

そうしてついつい口にでてしまった言葉が、

「私で良ければ気にせず甘えてくれても構わんぞ」

である・・・・言って直ぐにハッとして後悔する。



パァっとイリタビリスの表情が明るくなり、横になっているプリームスに抱き着いて来た。

「わっ!? 危ないではないか・・・この辛抱足らずめ!」


プリームスに咎められても気にせず、イリタビリスは布団に潜り込みだす。

そしてまるで愛玩動物を抱き締め、撫で繰り回す様にプリームスを弄った。

そしてイリタビリスが言った言葉が、

「はぁ~なんて触り心地の良い身体なの~。あたし、こんな可愛い妹が欲しかったのよね~」

である・・・。



『えええぇ・・・・』

と脱力してしまうプリームス。

350歳を数えるプリームスが、17歳の少女に妹扱いされたのである。

意図していない展開に脱力し項垂れるのは仕方無いというものだ。



「う、うむ・・・・こう見えても中身は歴史遺産級に古いのだけどな・・・」

内心のぼやきが口から漏れてしまったが、プリームスの声が小さかった為にイリタビリスには聞こえなかったようだ。


「え? 何か言った?」

そう言いながらイリタビリスは、プリームスをガクガクと乱雑に揺らしてしまう。


「あだだだっ!?」

当のプリームスは悪酔いしていた所為で、頭痛がしていた。

揺らされれば当然に頭も揺れる訳で、その痛さは加速する。



「え? あ? ごめん!! ど、どうしたの?」

慌ててプリームスから身を離し、心配した様子で委縮するイリタビリス。



プリームスは布団の上でグッタリして、頭を押さえながら告げた。

「う、うむ・・・多分二日酔いだ・・・・酒精を分解して出る毒気を浄化出来ていないのだな。頭痛が酷くて堪らん」



そんなプリームスを目の当たりにして、イリタビリスは委縮していた気分が一気に消失する。

気怠げに横になるプリームスが、余りにも艶っぽく扇情的に見えたからだ。

今度はゆっくりと顔をプリームスに近付け、無意識にその唇に触れてしまう。

それは手や指先では無く、自身の唇でだ・・・。



自身の無意識の行動に、イリタビリスは驚いてしまう。

「あ、あたし・・・・どうして・・・」



プリームスは、そんなイリタビリスに微笑みかけた。

「人は好きになり、愛おしく思った相手に触れたくなるものだ。それも己の弱くて柔らかい部分で・・・。だから唇を求める事は、何ら不思議な事ではない」


イリタビリスは心配そうに尋ねる。

「プリームスは、あたしの事・・・好き?」

心配に感じたのは今日会ったばかりの相手に、こんな込み入った問いかけをしてしまったのが理由だ。


はっきり言ってこれは一目惚れであり、それが相手に受け入れられるとは到底思えないからでもあった。



プリームスは手を差し出し、イリタビリスの頬に触れると柔らかい語調で告げた。

「お前は少しお転婆だが、綺麗で何だか小気味良い。少なくとも好ましいと思っているよ・・・・」



それを聞いたイリタビリスは突拍子も無い質問に、”前向き”な答えが返って来た事で浮かれてしまう。

それは過大解釈となり、”自分が受け入れられた”と認識に至る。

「う~! プリームス大好き!!」



再びプリームスはイリタビリスに抱きしめられ、勢い余ったのか布団の上でゴロゴロと転がる。

勿論これで、プリームスの頭痛が酷くなったのは言うまでも無い・・・。


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