第267話・オリゴロゴスとプリームス(1)

イリタビリスの師匠であるオリゴロゴスと対面したプリームス。

早々に自己紹介を済ませ、この地下大空洞の状況を聞き出そうと思った矢先・・・・オリゴロゴスは固まってしまった。



それは天上の美しさを目の当たりにしてしまった為だ。

イリタビリスとプリームスは顔を見合わせ苦笑いをすると、オリゴロゴスが正気を取り戻すのを待つ事にした。


待つ事3分・・・・目をパチクリさせながら、漸くオリゴロゴスは我に返る。

「う~む・・・・お主、本当に人間か!? 魔神の類が化けているのでは無いだろうな?」

などと失礼なことをプリームスに言い放つ。



「何言ってるの! あんなデカブツの魔神と、こんなに小っちゃくて可愛らしいプリームスを一緒にしないでよ!」

とイリタビリスも、まるでプリームスが自分の物の様な言い方をする。



苦笑いを浮かべるしかないプリームス。

自分が他者と様相が異なる事は良く自覚していた・・・・が、”他者より優れた様相”などとは余り思っていないのだ。


そもそも美しいなどと思う感覚は主観的な物であり、それは”自身の好み”と直結する。

そして好みを除外して客観的に能力を計る立場に居たプリームスは、自然と他者の美醜に疎くなってしまい、それが自身への評価にも影響していた。


そして何よりもプリームスは、表向きの美醜に拘る人種を軽蔑している。

理由はプリームス美しさに魅入られ、その表向きの美しさだけを評価し近付いて来た者が後を絶たなかったからだ。

そうしていつしかプリームスは、自他ともに美醜を評しなくなってしまったのであった。


ただ、これは個人的な状況での好みや性癖は別としてだ。

正直な所、プリームスは面食いである。

しかしそれは相手の為人が、プリームスが求める水準に達しているのが前提なのだ。



『さて、このオリゴロゴスとやらの為人は、どう言ったものか・・・』

プリームスは値踏みするようにオリゴロゴスを見つめた。

するとオリゴロゴスはプリームスの視線に耐えられなかったようで、顔を少し横に逸らしてしまう。


プリームスに見つめられて、その目を直視し続ける事が出来るのは、恐らくスキエンティアぐらいしか居ないだろう。

それは詰まるところ付き合いの長さであり、プリームスの美しさに対して免疫を有しているかどうかで決まる。


そんな事とは当然思っていないプリームスは、

『なんだ? 年の割には恥ずかしがり屋さんだな・・・・』

と内心でニヤケる。



ゴホンッと咳払いをしてオリゴロゴスは居住まいを正し、

「すまんな・・・まさか100年目にして、”外界”からの来訪者と会えるとは思わなんだからな。少し驚いてしまった」

そう言った後、イリタビリスへ顎をしゃくって見せた。


イリタビリスは無言で頷くと部屋の右側にある引き戸を開き、そのまま隣の部屋へ移動する。

そうして引き戸を閉めて完全に席を外してしまった。



「プリームス殿と言ったか・・・・。ワシの見込み通り、お主が外界からの来訪者ならイリタビリスには聞かせられん話も出てくるでな」

オリゴロゴスはそう言って奥の部屋へ進み、プリームスへ手招きをする。


誘われるままプリームスが奥の部屋に入ると、手前の部屋と同じく2.5m四方の小じんまりとした構造になっていた。

また中央には高さの低い長方形のテーブルが置かれており、オリゴロゴスがその前にクッションの様な物を置いている最中だ。


そしてテーブルを挟んだ対面に同じ物を置き、その上に「どっこらしょ」と言って座ったのであった。

その様子を見たプリームスは、

『あ~やっぱりクッションなのか・・・・。と言うか、椅子では無く床に座る習慣があるのだな』

と初めて目の当たりにする文化に興味が湧く。



「フフ・・・我々の生活様式に少し驚いているようだな。そうなるとプリームス殿は、やはり外界の人間で在るようだ」

オリゴロゴスは何故か嬉しそうな表情でそう告げて、プリームスへ同じように座るよう手をかざして促した。



素直にプリームスは従い、クッションのような物の上に座る。

「お・・・これは絶妙な固さと柔らかさ・・・」

と自分で言っていて、言葉に矛盾があるな・・・と笑いが出そうになる。



「これは座布団と言ってな、長時間座っていても大丈夫なように作られた物だ。地上では、もっとこう柔らかいクッションを使ったりするだろうが、あれでは柔らか過ぎて姿勢が不安定になるでな」

そう説明してくれるオリゴロゴス。


プリームスは実に面白いと感心した。

目の前にあるテーブルも、床に座る事で丁度よい高さになるのだ。

この家の構造と内装、そして家具・・・当たり前ではあるが、全て生活様式に合わせて作られていたのだった。




2人共が落ち着いて話せる状態になり、漸くオリゴロゴスは真剣な表情を浮かべて本題に入った。

「さて、プリームス殿は、あの越える事が出来ない次元断絶を越えて来たのだろう? わざわざこの様な隔絶された場所に来た理由を聞きたい」



「オリゴロゴス殿は、こんな私を見て侮らないのだな。貴方の弟子、イリタビリスと言ったか・・・彼女は私を見て年下と思ったようだぞ」



プリームスの言い様にオリゴロゴスは苦笑いを浮かべる。

「あ~まぁ仕方なかろう。あの子はまだ17歳で、この閉ざされた地下世界しか知らぬ。失礼な振舞いは勘弁してやってくれ」



「17歳か・・・・若いな」

そう呟き、プリームスはアグノスの事を思い出した。

伴侶である彼女もイリタビリスと同じ17歳なのだ。

「で、貴方はどうなのだ?」



問いかけに対して、問い返された形になるが、オリゴロゴスは嫌な顔をせずに誠実に答えた。

「次元断絶を越えたにしろ、”越えさせられた”にしろ、結局は相当な実力が無ければこんな所にやって来ぬじゃろ? それに立ち姿やその雰囲気で、武術に限って言っても強者で有ると直ぐに察したよ・・・」



見た目だけに捕らわれず、また拘らず相対する者の本質を見抜く──それは鋭く柔軟な心眼の持ち主で無ければ不可能な事である。

そんなオリゴロゴスにプリームスは好感を持ち、

「1人目が無垢なイリタビリスで正直どうしようかと焦ったが・・・・その師匠が経験豊富な良識人で助かったぞ」


そう告げ、真剣な面持ちで続けた。

「私は、シュネイ・・・守り人の王キディー・モーナスの依頼を受け、次元断絶を越えて来たのだ」


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