第268話・オリゴロゴスとプリームス(2)

「私は守り人の王・・・キディー・モーナスの依頼を受け、次元断絶こ越えて来たのだ」

プリームスがそう告げると、オリゴロゴスの目が見開かれた。


「王の・・・王の依頼とは!?」

逸る気持ちを抑えてオリゴロゴスは、プリームスへ問う。



「この地下世界に取り残された守り人の民と、剣聖を救い出すように頼まれたよ」

そうプリームスは端的に答えた。

すると感極まったようにオリゴロゴスは両手で顔を覆ってしまう。


そして暫くの間、感慨に浸った後に染み染みと呟いた。

「そうか・・・漸く助けが来てくれたか・・・・」



次元断絶により隔絶されて100年もの歳月が過ぎたのだ。

普通の人間ならば全てを諦め、うに寿命が尽きていただろう。

またオリゴロゴスの様に長命な者でも、これ程の年月を生き抜き、助けを待ち続ける事は容易では無かった筈だ。



「随分と苦労したようだな・・・・。シュネイからの話では、民同士での諍いでも命を落とす者が出ていると聞いている。話すのは辛いだろうが、状況を確認したい」

プリームスにそう言われて、オリゴロゴスは自身を落ち着かせるように深呼吸をした。


そうして不思議そうな表情で問い返す。

「王をシュネイと呼ばれたな・・・・。その名は真名であり、余程に信用した相手か身内にしか呼ばせないものだ。プリームス殿は一体、王とどのような関係なのか? それに何故、王は我々の状況を知っているのだ?」



プリームスは前者の問い掛けに困ってしまった。

自身の事を信用してもらう為にも、立場やシュネイとの関係を説明すべきなのだが・・・・中々に突拍子もない内容なので話すのを躊躇われたのだ。

しかしながら、ここで上手く誤魔化せても後々で明白になる。

『う~む・・・・・』



そんなプリームスへ、少し訝しむような視線をオリゴロゴスは送った。



『誤魔化しや嘘は、人心を得られぬか・・・・』

諦めたように溜息をつくと、プリームスはシュネイとの関係を話すことにした。

「シュネイは100年もの間、次元断絶を越えて更に戻る手段を持つ者を探し続けていた。勿論それは、お主たち民や剣聖を救い出す為だ。それでな色々あって100年目にして私がそれに該当した訳だ・・・」



かなり端折り掻い摘んだ言い方をしてしまった所為か、オリゴロゴスは「う~む」と唸り更に訝しみの眼光を増した。



これでは駄目だと思い、直ぐに補足するプリームス。

「私の力を見極める為に、イースヒース、エテルノ、ミメーシスと戦わされたよ。まぁ少し疲れたが、軽くあしらってやったぞ。でだ、私の能力がシュネイの想定以上だったようでな・・・・王権を私に譲渡すると言い出したのだ。少し怖がらせてしまったやもしれんな・・・・」



それを聞いたオリゴロゴスは、唖然とした様子で固まってしまった。

1分程待ち漸く我に返ったかと思うと、ブツブツと小声で独り言を言い出す始末。



「お~い・・・オリゴロゴス殿~」

と見かねたプリームスが声を掛ける。



そうすると戸惑いを含んだ語調でオリゴロゴスは言った。

「あ・・・いや、すまない・・・・イースヒースとエテルノ殿を手玉に取ったと言うのは、正直驚かざるを得ない。それにミメーシスは対魔神用決戦兵器だ、それをも退けるとは王がプリームス殿を畏れるのも頷ける」


そして両腕を組むと、まるで悩み考え込む様に呟く。

「う~む・・・・しかしプリームス殿へ王権を譲渡する程とは・・・・。余程我らをここへ残した事に罪悪感があったのだな」



王権の譲渡に関しては、プリームスにしてみれば迷惑な話しである。


地下世界へ民を置き去りにしたのは、魔神から人類を救うために仕方なく選んだ方法なのだ。

もしそれが王の不手際で”罪”と言うのなら、この100年間、迷宮の最深部で自責の念に苛まれ続けた事が、贖罪と言えるのではないか?


『ならばシュネイが王を退く必要など無いのだ』

そうプリームスは思いつつも、自身の悪手に忸怩じくじたる思いも湧き起こる。

シュネイから王権を奪うように仕向けたのは、プリームスなのだから。



『はぁ・・・・何とも矛盾ばかりだな私は・・・・しかしそれも今更か』

後悔しても仕方ない・・・そう割り切りプリームスは話を続けた。

オリゴロオスが問いかけた後者に関する事である。

「シュネイは地下世界の事を完全には把握出来ていない。現存している25基程の監視用ゴーレムが視覚的情報を伝えてはいたが、音声までは送れなかったようなのでな」



「なるほど・・・・」

これはオリゴロゴスも素直に納得出来たようであった。


この地下大空洞内に設置された監視用ゴーレムの存在は、恐らく王を中心とする中枢の者しか知らされていない筈である。

となると、監視用ゴーレムとその”機能”について驚かないオリゴロゴスは、守り人一族の中でもそれなりの地位にあったと窺い知ることが出来た。



『それにイースヒースとエテルノとも、随分と既知の間柄に感じるしな・・・。まぁそんな事よりも先ずは現状か』

「兎に角、私の事は大体分かったであろう? なら次はオリゴロゴス殿の番だ」

そうプリームスが告げるとオリゴロゴスは頷き、それから直ぐ傍にある家具へ向き直る。



その家具は濃い鼈甲色べっこうしょくの木材で出来ており、艶々とした光沢感の為か随分と手の込んだ工芸品の様に見えた。

大きさは高さ1m程、奥行き30cmで横幅が1m程度、一見してタンスに見えるが正面が引き戸2枚で構成されている。


オリゴロゴスは家具の引き戸を開け、中から小さな杯2つと硝子で出来た大きな瓶を取り出した。

それをテーブルの上に置き、

「少し話が長くなりそうだ。なら酒でも飲み交わしながら落ち着いて話そうではないか。これは取って置きの最後の1本だ、嫌とは言うまいな?」

と言いオリゴロゴスはニヤリと笑みを浮かべる。



イリタビリスも始めて見る人間であるプリームスに、随分とはしゃいでいた。

こんな閉ざされた地下空間では変化も乏しく、好奇心や知識欲を満たすものが無かっただからだろう。


それはオリゴロゴスも同様だったようだ。

娯楽の最たる酒を・・・しかも最後の1本となれば、プリームスも付き合わざるを得ないのだった。


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