第235話・神域の人形(2)
ミメーシスとプリームスの戦いが更に加速し始める。
しかし互いには傷一つ付け合っていない。
本番はこれからと言わんばかりに、プリームスは嬉々とした表情でミメーシスへ歩みを進める。
それは久方ぶりの強敵に胸が踊ったからか?
だが自身の右肩に違和感を感じるプリームス。
それは痛みと言っていい物で、
『む? 攻撃は一切受けていない筈だが・・・』
そう内心で呟き、訝しむ様子でプリームスは右肩を確認した。
目に見える傷は無い。
そして目に見える異変も無いが、"腕が上がらない"事に気づく。
「!」
何とプリームスは右肩を脱臼していたのだ。
理由はプリームスの振るった音速の一閃に、自身の体が耐えられなかったのであった。
直ぐさま歩みを止め、プリームスはミメーシスから距離をとる様に後方へ徐に下がる。
急な動きの変化はミメーシスを刺激し、突発的な攻撃を誘発する危険を考えたのだ。
幸いミメーシスは、様子を窺う様に微動だにしない。
『まさかこれ程まで貧弱な身体だったとはな・・・』
そう自嘲し、プリームスは脱臼した右肩を左手で押さえ器用にはめ込む。
「あぅっ・・・」
するとプリームスは痛みで顔を顰め、可愛らしい声を漏らした。
その様子を見てテユーミアはプリームスの異変に気付く。
『やはり御自身の動きに身体が耐えきれていない!』
それでもプリームスは、ミメーシスとの戦いを楽しもうとしている様に見えた。
つまりそれは、その気になればミメーシス程度なら問題は無く”遊び相手”になると言う事なのだ。
『うぅぅ・・・お願いですから、さっさと勝って下さいまし・・・・』
テユーミアの中にある信用と不安が混ざり合い、今にもプリームスの元へ駆け出し加勢したくなってしまう。
そんなテユーミアを余所に、プリームスは痛む右肩を庇いレイピアを左手に持ち替えた。
そうするとミメーシスが様子見を止め、悠然とプリームスへ向けて歩を進め始めたのだ。
「ハハハ、まさか私を気遣っているのか? ゴーレムの癖に武人の様な奴だな・・・・そんなに私と対等の戦いがしたい訳か」
「いや・・・お前に指示を出している”王”の意向かな?」
プリームスの独り言の様な問いかけに、返事をする筈も無い
その歩みは止まることなくプリームスの間合いに踏み込む。
次の刹那、鋭い突きがプリームスを襲うが縦に構えたレイピアがそれを受け流す。
だがその威力は凄まじく、突きの慣性力がレイピアを押し流しプリームスの身体が回転するように弾け飛ぶ。
否、弾け飛んだのでは無かった。
プリームスは相手の突きの威力を利用し、更に身体を回転させることで遠心力に因る攻撃力を生んだのだ。
それは超音速に達した払い斬りで、斬撃と共に衝撃波がミメーシスの腹部を両断するように襲い掛かる。
咄嗟に左腕を下げ防御挙動をするミメーシス。
2秒にも満たない一瞬の攻防で、プリームスの完璧な反撃に対応しようとした事は驚きだ。
しかし腕程度で防ぎきれる訳も無かった。
プリームスのレイピアの刃がミメーシスに到達した瞬間、その衝撃波が防御した腕を粉々にする。
そしてパンッ!、と乾いた音が後から響き渡り、ミメーシスの腕を構成していた黒い液体が周囲いへと飛び散った。
衝撃波で左腕を失ったものの、レイピアの刃先は腹部まで到達せずミメーシスの胴は無傷で済む。
つまり回避は不可能と判断したミメーシスは、左腕を犠牲にして胴への被害を防いだのであった。
片やプリームスは、レイピアを振り抜く前に腕で受け止められ、その威力の幾らかが逆流し反動として反ってしまっていた。
ゆえに直ぐさまレイピアを手放し、自身の身体への被害を最小限に留めるが、完全には凌ぎきれずに後方へすっ飛んでしまう。
それでも武を極めたプリームスは無様な着地はせず、まるで羽毛が落ちる様に音も無く床へ降り立った。
それで余裕そうな表情を浮かべると思いきや、
「おいおい、何て頑丈な奴だ。今のを片腕だげで済ますとは・・・やはりその液体構造は何かあるな」
と言い、嫌そうな顔をするプリームス。
「
そしてそう古代マギア語で呟くと、無手であった左手に手放した筈のレイピアが姿を現した。
少し驚いたように?動かずにプリームスを見据えるミメーシス。
液体で構成されたゴーレムなので表情は無い・・・なので実際は様子を窺っているだけなのだろうが・・・。
そんな事を思いつつテユーミアは溜息をついた。
プリームスとミメーシスの戦闘が余りにも一瞬で、そして余りにも高度であったからだ。
『生身の人間で在りながら、あのミメーシス相手に優勢をとるなんて流石プリームス様です・・・・でもミメーシスの恐ろしさはこれだけで無い』
危険や障害をそのつど容易に乗り越えて見せるプリームスだが、その度に現れる容赦ない現実にテユーミアは奈落を感じた。
奈落とは要するに”どうにもならない場所”であり地獄の事だ。
また地獄は苦行や苦しみを永劫に繰り返される場所だと誰かが言った。
プリームスが、まさにそんな境遇に居るようにテユーミアは思えてならない。
余りにも超絶的で人間離れしたプリームスは、世界が、そして運命が放っておきはしない。
それこそが奈落であり、多くの難事、試練がプリームスに引き寄せられて来るに違いないのだ。
自身の考えに唖然とするテユーミア。
自分もプリームスを奈落に誘っている要因の1つだと、今更ながらに気付いたからだ。
でももう後には引けない・・・・。
『ならば今回の件が全て片付けば、奈落からプリームス様を守る為に私は身を粉にしましょう』
プリームスを守り忠誠を誓うという不退転の決意が、テユーミアを支配するのであった。
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