第183話・予期せぬ来訪者(1)

「わ、私をどうするつもりですか?」

と狼狽えるメンティーラ。



するとプリームスはニヤリと笑むと、

「そうだな・・・君は私の好きな容姿をしているしな、私の玩具になって貰おうか」

などと言い出した。



これにはプリームス陣営の顔色が変わる。


「駄目です!! これ以上競争相手・・・いえ所帯を増やすのはプリームス様に負担がかかるだけです!」

と公私混同のアグノス。


スキエンティアは呆れた様子で溜息をつく。

「プリームス様・・・またそうやって気まぐれで・・・・」


フィエルテはと言うと、あまり良く分かっていないようで、

「え? 玩具? 所帯?」

と言いつつ首を傾げる。


だが一番五月蠅い反応をしたのはエスティーギア王妃であった。



「黙って聞いていれば、全く私の預かり知らない所で話が進んで! 魔術師ギルドを作るなんて聞いてませんよ! それに王子に想い人が居るなんて!」



エスティーギアが怒るのは最もである。

王子の事は良いとして魔術師ギルドに関しては、理事長であるエスティーギアに許可なく、プリームスが独断でやった事なのだから怒られても仕方ない。



プリームスは詰め寄って来たエスティーギアへ上目遣いで見つめると、

「ごめんなさい・・・・余計な事をしてしまって・・・。でもね学園の事を私なりに考えてした事なの・・・」

そうワザとらしく健気に言った。



「ぐぬぬ・・・・」

あざとい・・・しかし何とプリームスの可愛らしい事か。

分かっていながらも絶世の美少女にこのような態度を取られては、流石のエスティーギアも抗う事が出来なかった。


深い溜息をつき諦めたようにプリームスへ言うエスティーギア。

「もう・・・仕方ないですね、次に何かされる時は私に一言声を掛けて下さいね」



その様子を見てメンティーラは唖然とする。

『えぇ?! 理事長はエスティーギア王妃なのに・・・それでいいんだ?!』



何とか落ち着きプリームスはメンティーラへ向き直り告げた。

「すまない・・・話しが逸れてしまったな。メンティーラ、君にはバリエンテ達と同じく魔術師ギルドの運営に携わってもらおう」



再び唖然としてしまうメンティーラ。

潜入工作をしていた他国の間諜なのに、特に拘束も尋問もする事なく、新設されるギルドで働けと言うのだから。


「えっ? 私をこのままリヒトゲーニウスに置いておくと?!」

メンティーラは戸惑いプリームスへ聞き返す。

使命が果たせず、しかもそれが露見したにも拘らず自分が無事な事に現実味を感じないのだ。



そんなメンティーラへプリームスは真面目な面持ちで語りかけた。

「魔導院が学園に対して"していた事"は全て無かった事とする。そしてこれからは魔導院とリヒトゲーニウスの間で取り交わされる魔術協定に基づき、互いに協力し合う事になるだろう」



そもそも国同士の諜報活動は"していて当然"なのだ。

それを見付けたからと言って、一々騒いでいたら国同士の争いが絶えなくなってしまう。

故に大した被害で無ければ、国同士水面下でやり取りして穏便に済ませるのが定石である。


今回はプリームスがお節介を焼いた事により、遠く離れた国同士が予想以上に密接になろうとしている訳であった。



プリームスは席から立ち上がると、

「さて、後は首脳陣同士が話し合えばよい」

そう言って何も無い部屋の壁の方へ歩きだした。



そして一同が首を傾げる中、突如プリームスが収納魔道具である指輪から姿見を取り出し、壁の前に置いてしまう。

それは2.5m×1.5mはあろう巨大な姿見で、身長が1.5m程しか無いプリームスとの対比が異様さを演出する。


それから徐にプリームスは綺麗に磨き上げられた鏡面へ人差し指で触れると、何やら文字の様なものを描き出した。

その細くて真っ白な美しい指の動きに、一同は暫し見惚れてしまう。



またフィエルテ以外は魔術を嗜んでいる面々であるので、そのプリームスの行動に魔力が伴っている事を察知していた。

何かの魔術?魔法?

そう洞察するも一同には何が行われているのかサッパリであった。


ただ分かっている事は、プリームスは無意味な行動は取らないと言う事だ。

一つ一つに意味が有り、先を見通す様に先手を打って行くのである。



そうしてプリームスは事が済んだのか、鏡から数歩後ろへ退がった。



一同が何が起こるのかと見守る中、2分程の沈黙の時間が理事長室を支配する。

そろそろ痺れを切らしてバリエンテが喋り出そうとした瞬間、異変が起こる。



プリームスが設置した姿見の鏡面が、まるで水面の様に波打ったのだ。

そしてその鏡面から人の腕が生え出し、一同は驚愕する。


更に見る見る鏡面から水の膜を突き抜けるかの様に、人が飛び出して来たのである。

それは1人では無く、厳かな法衣を纏った女性が1人、6歳程の幼女を抱えた男性が1人の計3人であった。



「プリームス様、昨日ぶりですね」

そう笑顔でプリームスに語りかけた鏡面からの来訪者は、魔導院法王ネオス・エーラだったのだ。


それが理解出来るのは直接会った事のあるバリエンテ達とメルセナリオ、そしてネオスの娘であるメンティーラだけである。

また突然現れた法王に驚愕したのは言うまでも無い。



「ネオス、良く来てくれた。早々にこちらの陣営を紹介したいのだがいいかね?」

と言うプリームスにネオスは快く頷いた。


するとネオスの後から現れた幼女を抱える男性が、

「陛下、その前にこの妹さんを・・・・」

と少し困った様子で告げる。

彼は魔導院防衛大隊の隊長ラティオーで、プリームスと縁があると言う事で法王に同行したのだ。



ネオスはうっかりしていたとばかりに苦笑いすると、

「そうでしたね・・・プリームス様少々お待ちを。ラティオー、妹さんをイディオトロピアさんの元へ」

そう言って周りを見渡す。



少しの間、見慣れない空間に興味津々であったが、直ぐにバリエンテ達を見つけ歩み寄るネオス。

そしてイディオトロピアの傍まで来ると笑顔で言った。

「イディオトロピアさん、妹さんをお返しします。それから治療の方ですが、週に1度程度の処置で大丈夫になりましたよ」



イディオトロピアは予想も出来ない唐突な展開に、只々固まってしまうばかりであった。

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