第184話・予期せぬ来訪者(2)

突然現れた法王ネオス。

しかもイディオトロピアの妹を連れて来た為、姉である当人は驚きすぎて固まってしまう。



ラティオーに抱えられていたイディオトロピアの妹は下ろされると、姉に駆け寄りすぐさま抱き着いた。

「お姉ちゃん!」


一年以上もの間を離れ離れで暮らしていた姉と妹。

肌身で自身の妹に触れ、漸く実感が湧きイディオトロピアは我に返る。

「え!? ミーラクス??」


妹のミーラクスは姉のイディオトロピアと同じグレーの長い髪で、とても可愛らしい。

成長すれば姉と同じく美人になるだろう。

そんな事を考えつつプリームスは、2人の再会を暖かく見守る。



「魔導院から術士をこちらに派遣して、週に1度の妹さんの治療にあたらせます。それに新設の魔術師ギルドへ常駐させますから今後の心配もありませんよ」

と優しくイディオトロピアへ告げるネオス。



イディオトロピアはミーラクスを抱きしめたまま、ネオスに深々と頭を下げた。

「ありがとうございます、法王陛下・・・・」


するとネオスは苦笑いをしてプリームスを見やる。

「私に礼を言うのは筋違いですよ。今回の件の立役者はプリームス様なのですから」



言われて気付いたイディオトロピアは、慌ててプリームスに頭を深く下げた。

ノイーギアもイディオトロピアも、プリームスのお節介により魔導院から受けた使命を白紙にしてもらえ、しかも枷となっていた身内も救って貰えたのだ。

2人からすれば、返せない程の借りを作った事になる。



「本当にありがとうございます、プリームスさん。妹まで救っていただけるなんて・・・私に出来る事があれば何でも言って下さいね」

といつも強気なイディオトロピアが、殊勝な様子でプリームスへ言った。



更にノイーギアまでもが忠実な部下の如くイディオトロピアにつづく。

「私も返せない程の恩を受けたと思っています。イディオトロピア共々私達に遠慮なくプリームスさんが望む事を指示して下さい」



そうなるとバリエンテが取り残された様になり、

「お、俺にも遠慮なく言ってくれ! 人として信義にもとる事以外なら何でもするぞ!」

そう慌ててプリームスへ告げた。



プリームスが魔術師ギルドのマスターになれば、バリエンテ達は部下になる訳である。

言われなくても必要な事は指示もするし、命令もプリームスはするつもりでいた。

しかし急ぎの重要事でない限りバリエンテ達に任せ、プリームスはお飾りで居たいと言うのも正直な所だ。



「まぁそう堅苦しくしないで欲しい。先ずは魔術師ギルドの運営に尽力を尽くしてくれ」



プリームスがそう言うとバリエンテ達は畏まった様子で、しかも声を揃えて言った。

「了解しましたギルドマスター!」



それを聞いたプリームスはキョトンとして、

「あれ? 私が魔術師ギルドのマスターをするって言ってたっけ・・・?」

と不思議そうに訊いてしまう。



「え? しないんですか?」

「む? 違うのか?」

「ええ?! 魔導院に行ったくだりを聞いてたら、そうなのだと思ってたのだけど・・・」

バリエンテ達に口々に言われるプリームス。



「う・・・」とプリームスは口ごもる。

本当は上手く煙に巻いてギルドマスターになるのを回避しようとしていたのだ。

それを察していち早く突っ込んだのがスキエンティアである。


「プリームス様、色々思い付き提案されるのは良いのですが、その後は放置と言うのは良く無いですよ・・・。どうせ面倒だから適当に誤魔化して逃げ出そうと考えていたのでしょう?」



そうスキエンティアに図星を指され「うぐっ・・・」と再び口ごもるプリームス。

それを見た一同が無責任だと怒り出し詰め寄った為、結局プリームスはギルドマスターになる事を公言する羽目になってしまった。



ぐったり項垂れるプリームスを他所に、ネオスが自身の娘へ歩み寄る。

数年ぶりの親子再開による感動の場面かと思いきや、

「フィーユ・・・いえ今はメンティーラと名乗っていたのでしたね。貴女はこれからプリームス様に仕え、魔術師ギルドの運用に協力するのです。そして結果を出し魔導院とリヒトゲーニウスの発展に貢献しなさい」

と厳かに告げた。



するとメンティーラは形式ばった敬礼をネオスに向ける。

「はい法王陛下、新たな使命を承ります」

そして少し首を傾げると、

「私は”魔導院の人間として”プリームス様に従事するのでしょうか? それとも”プリームス様のモノとして”仕えるのでしょうか?」

そう問いかけた。



ネオスは優しく微笑む。

「貴女の原点は魔導院にあり、そして私の大事な娘でもあります。ですがもう拘る必要は有りません。プリームス様を新たな主として、また親と思い今後を生きていきなさい」



ほんの一瞬だが悲しそうな表情を浮かべたメンティーラ。

だが直ぐに生真面目な表情を取り戻し法王へ恭しく首を垂れる。

「分かりました・・・・」

それ以上何もメンティーラは言わなかった。



そんな自身の娘を無表情を装って見つめるネオス。

『私は政変を起こし閉鎖的な魔導院を破壊した。以前のままでは魔導院は世界から孤立しいずれは滅びると懸念したからだ。そしてここに来てボレアースの聖女が現れた・・・・。きっとこれは月の神の導き・・・自らの手で新たな時代を切り開けと示唆されているのかもしれない』


そうしてほくそ笑むネオスはプリームスを一瞥する。

『ならば新たな時代と娘をこの聖女に託そうではないか』



まさかそんな風に思われているとは一片も感じていないプリームスは、相変わらず項垂れたままだ。

『はぁ、毎回出来るだけ矢面に立たぬよう動いているのだが・・・・どうしてこうなった? それに異邦人の私がこの世界を動かすべきでは無いのだ、それなのに、ウゥゥ・・・』



以前居た世界でもそうであったが、プリームスはその余りの美しさと行動力の為に周囲がソッとしておかないのだ。

プリームスがしなければ誰がやるのだ?!

正にそう言った流れは常で有り、自身の事は割と鈍感なプリームスには、それに気付ける筈も無かったのであった。



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