第182話・メンティーラの真実(2)

メンティーラは、諦めたのか意を決したように言った。

「私は魔導院法王ネオス・エーラの娘、フィーユ・エーラと言います」



学園に潜入工作していたのが、まさかの王族で驚きを隠せないプリームス。

「よもやネオスの娘だったとはな・・・・」



「意外でしたか?」

笑顔でそう告げたメンティーラは、先程まで怯えていたとはとても思えない様子である。

もう完全に腹を括ったのか、或いはこれが本来のメンティーラもとい王女フィーユなのであろう。



メンティーラの変わりように苦笑いしながらプリームスは尋ねる。

「では率直に訊くが、学園に潜入した使命は何だ?」



普通ならば手間も時間もかかるこの様な任務を、王女がするなど考えられない。

ならば推測するに”王女”でなければならない理由があった筈だ。


それをプリームスは今即座に見抜いていたが、本人の口から言わせたいと少し意地悪な気分になる。

メンティーラが王族だと言う事実に少し驚かされた腹いせと言って良いだろう。



メンティーラは真っ直ぐのプリームスを見つめて言った。

「もうプリームス様はお気付きかと思われますが・・・・私の任務はアロガンシア王子を籠絡する事です。そしてあわよくば婚姻まで漕ぎ付ける事が最大の使命でした・・・・」


要するにリヒトゲーニウス王国へ食い込むことが目的だったのだ。

王子を夫にすれば将来は王妃である。

そうすればリヒトゲーニウス王国は、知らぬ間に魔導院によって内部に橋頭保を築かれる事になる。



プリームスは首を傾げた。

『でした・・・・? 何故過去形なのだ?』



するとイディオトロピアが申し訳なさそうに告げる。

「あの~・・・・私のせいだよね? 失敗したって事でしょ?」



増々分からなくなり首を傾げるプリームス。

「うん? どう言う事かね?」



「実はですね・・・・」

溜息をつきながら話すメンティーラによると、アロガンシア王子は元々強い傭兵が好きで、特に”閃刃”の愛好家であったらしい。

しかし立場上、下級学部の生徒と仲良くなる訳にはいかずアロガンシアは途方に暮れていた。


だがここに来てバリエンテがイディオトロピアを伴い、学部外活動の団体を結成する。

これを好機ととらえたアロガンシアは、何とか接触できる機会にしようと決闘を持ち掛けたのであった。


別に決闘で無くても良いのでは?、と思うのだが、それはアロガンシア曰く彼の”閃刃”の実力を肌で体感してみたかったそうだ。

何とも酔狂と言うか熱狂的である。



正直な所、イディオトロピアを含むバリエンテ達の実力を試す事も目的であった。

噂通り有能で自分達を負かす事が出来れば、王子は将来手にする自分の私兵に加えようと考えていたのだ。

そして自分を魅了する”閃刃”へ告白しようとも考えていたらしい。



漸く合点がいったプリームス。

『負けて告白するとは・・・・逆のような気もするが・・・・要するにイディオトロピアへ告白させない為にも、メンティーラは王子を勝たせなければならなかった訳か』



にしても、何故それをイディオトロピアが知っているのか?



それを察したイディオトロピアが、

「昨日の決闘の後、私は気を失って診療所へ運び込まれたでしょ。目を覚ました時、傍にアロガンシア王子が付き添っていて・・・事情を色々聞かせて貰った上に告白までされっちゃったの」

と何故か申し訳なさそうに言った。



するとメンティーラが苦笑いをしてイディオトロピアへ告げる。

「貴女が気に病む事ではありませんよ。”私の”は任務であり使命で有っただけで、アロガンシア王子を好いていた訳ではありませんから・・・。で、どうされるんですか?」



それはアロガンシア王子からの告白を受けるのか?、それとも拒否するのか?、と言う事である。



イディオトロピアは少し俯くと少し嬉しそうに言う。

「分からない・・・只、話してみて分かったのだけど、今までの彼は演技だったみたい。少し馬鹿に演じて見て、御しやすいと周りに思わせる目的があったみたいなの。多分それで寄り付く人間の為人を観察していたのかもね・・・・」



それを聞いたメンティーラは複雑な表情で呟いた。

「では、保留と言う事ですか。それならば王子にもまだ機会が残っていると言う訳ですね・・・・」


3年もの時間を費やしても”閃刃”のイディオトロピアから好意を奪えなかったのだ。

そして企みは露見し失敗に終わってしまった。

そんなメンティーラの気持ちを考えると察するに余りあるものである。



それからメンティーラはプリームスへ真っ直ぐに向き直ると、

「私をどう扱うおつもりですか? 潜入工作をしていたとは言え、私はこれでも魔導院の王族です。下手な扱いをすれば国家間の争いに繋がりますよ」

そう強気に発言した。



何とも勇ましい・・・そうプリームスは思わずには居られ無かった。

だが自身の中にある常識に囚われ過ぎ、想像し洞察する思慮に欠けていると言わざるを得ない。



「私はバリエンテ達”など”と言った訳だが、それに法王ネオスは”如何様にもお使い下さい”と答えた。つまり君はもう私の所有物なのだよ」



そのプリームスの言葉にメンティーラは顔色を変えた。

使命は果たせなかったが、何とかして安全な自分の立場と自由を確保したかったのだろう。

しかしそれさえも不可能な状況に追い込まれ、顔色は既に真っ青であった。



「わ、私をどうするつもりですか?」

狼狽える様子を見せるメンティーラ。

歳相応の少女に戻ったようで、何だか可愛らしいとプリームスは思ってしまう。

それもその筈、メンティーラの容姿は非常に整っていて可愛らしくプリームス好みだったからだ。



『母親には余り似ていないな・・・・父親似か?』

などと場違いな事を考えるプリームスであった。


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