第158話・魔導院 聖都サブマ(1)
プリームスとフィエルテが魔導院の聖都近郊にまで来て、早々諍いに巻き込まれてしまう。
恐らく巻き込まれたと言うより、プリームスがそう仕向けたのだろう。
それは黒い意匠の装備を身に纏った一団で、20人程度の小隊規模であった。
皆、覆面をしており顔を窺い知る事は出来ない。
彼らはプリームスを目にしたとたん少しの間、惚けたように立ちすくんでしまう。
その余りに美しい様相に目を奪われてしまったのだ。
そして直ぐに我に返ったのか、先頭に立っている隊長格風の男が、
「我々は魔導院特殊防衛隊の者だ。先程、強力な魔力を感知し、何らかの大魔法を観測した。君達は不正魔術使用の疑いがある為、拘束する!」
そうプリームスへ告げる。
するとプリームスとフィエルテを取り囲むように動く特殊防衛隊の一同。
機敏かつ相手を侮らない、よく訓練された動きであった。
プリームスが使った
どう観測したのかは分からないが、未知の魔法に対する危機意識は重要である。
しかしプリームスが相手なら不足しており、無謀だったと言えよう。
「話も聞かずに拘束とは・・・文化水準が高い国のする事では無いと思うのだがね。それに私は法王に会いに来ただけだぞ」
とプリームスは溜息をついて呟くように告げた。
特に抵抗する素振りを見せないプリームス。
その背後に居るフィエルテも動かない。
下手に動けばプリームスの邪魔になる可能性があり、指示待ちと言ったところである。
そんな2人を見て隊長格風の男は、御しやすいと判断したのか自らプリームスへ触れようとした。
ひょっとしたら、この触れれば壊れそうに儚い絶世の美少女を、自身の手で触れ確かめてみたい・・・と思ってしまったのかもしれない。
そうして隊長格風の男は徐にプリームスの腕を掴んだ。
少し力が強かったのか、
「ぁんっ、強くしないで・・・」
とプリームスが痛そうに言った。
何故か慌てて手を離す隊長格風の男。
「す、すまない!」
いつもはこんな言い方など絶対しないのに・・・とフィエルテは思う。
プリームスが随分とあざといからだ。
『ひょっとしてこの状況を楽しんでおられるのかな?』
「リヒトゲーニウス王国に在る魔術師学園を御存じですか? 私はそこの理事長代行をしているプリームスと言う者です。重要な案件で法王様にお会いしたく参りました」
などと言い出すプリームス。
いつもと全然違う口調であり、丁寧でプリームスらしく無い。
プリームスの言葉にハッとした様子で少し考えだし、隊長格風の男は呟いた。
「これは・・・私の手に余る事のようだ」
そして覆面を取りその素顔をプリームスへ見せて告げる。
「私は防衛大隊の指揮をしているラティオーです。貴殿の身分の確認と、先程の現象・・・恐らく魔法であるが、その関係性を取り調べさせていただく。法王陛下に取り次ぐのはその後になるが、宜しいか?」
ラディオーは厳格で誠実そうな30歳前後の男性だ。
それに女性に対して初心そうな感じがして、そこがプリームスの悪戯心を刺激したのかもしれない。
プリームスは他人に見せた事の無いような、優し気で感じの良い笑顔を浮かべた。
「はい、了解しました。ではラティオーさん、案内していただけますか?」
頷くラティオーは、聖都に向けて少し手を差し出して向けると、
「案内しよう、私の隣を歩かれよプリームス殿」
そう言ってフィエルテを一瞥した。
それに気付いたプリームスは、
「この者は私の護衛兼従者のフィエルテです。なにぶん私は魔術しか扱えないひ弱な身体でして・・・この者が傍に居ないと色々困るのです」
と苦笑いしながら告げる。
絶世の美少女であり、触れれば壊れてしまいそうな位に儚く見えるプリームス。
実際に余り身体も強く無く、今日は調子も良くは無い。
その為、信憑性が増したようだ。
「成程、では従者のフィエルテ殿もプリームス殿の傍に居られるよう取り計らいましょう。ですが武器類はお預かりしますよ」
ラティオーがそう言うと、囲んでいた部隊騎士の一人がフィエルテに手を差し出した。
頷くプリームスを確認して、フィエルテは帯剣していたロングソードや短剣類をその騎士に手渡す。
それを確認するとラティオーはプリームスを連れて歩き出した。
そして横を歩くプリームスへ世間話をするように尋ねる。
「彼の魔術師学園の理事長は、確か古代迷宮の魔女と呼ばれていた方ですな。今はリヒトゲーニウス王国の女王陛下でありますが・・・で、プリームス殿は代行と申されましたな?」
「はい、エスティーギア女王陛下はお忙しい身で、基本業務以外の突発的重要案件は私がこうして対応しているのです。理事長は女王ですから、王都からは動けませんしね」
と愛想笑いをしながらプリームスは答えた。
「ふむ、成程・・・では先程の山頂付近で起こった魔法現象は、プリームス殿が起こした物ですかな?」
何気なく尋ねるラティオー。
これにはプリームスも少し感心した。
本格的な取り調べは聖都に着いてからだろうが、こうして世間話をしながら探りをいれて来る所など抜け目ないと言える。
プリームスは小声でラティオーに告げた。
「内密にお願いしたいのですが・・・宜しいですか?」
ラティオーは少し逡巡してしまった。
何故なら取り調べなければならない内容で有るからだ。
要するに話はするが、それを口外せずラティオーで止めておいて欲しいと言う事である。
不安そうにラティオーを見つめる絶世の美少女。
プリームスに上目遣いで見つめられて落ちない男など居ないだろう。
そしてラティオーも例外では無かったようだ。
「分かりました・・・確約は出来ませんが」
そうラティオーは小声でプリームスに答えた。
ホッと胸を撫で下ろし、嬉しそうな顔をプリームスは浮かべる。
それが何と可愛らしい事か。
そんなプリームスを直視したラティオーはドキッとしてしまった。
傍で見ていたフィエルテは呆れた様子で内心で呟く。
『あ~、これは落ちちゃいましたね』
ラティオーは部隊の者達に、少し後方に離れて付いて来るように指示を出す。
すると大隊長の命令は絶対なようで、誰も異議を唱えず全員プリームス達から距離を取った。
プリームスはそれを確認すると、直ぐに小声で話し出す。
「あれは私の移動魔法なのです。3種の魔法を組み合わせて今回は使用したのですが、私を含めて2,3人程度なら一瞬で長距離を移動できます」
ラティオーは驚きを隠せなかった。
魔術師学園の理事長であるエスティーギア女王。
そのエスティーギアは先の南方戦争で名を馳せた大魔術師である。
プリームスはそんな女王が理事長代行を任せた人物であり、超高度な魔術技能を持っていても可笑しく無いのは当然であった。
驚いた様子のラティオーへ苦笑いを向けるプリームス。
「ですがそう何度も乱用は出来ないのです。複雑な魔術機構の操作、膨大な魔力の消費、それに限られた運用人数。今回のような案件が無ければ、基本的に移動魔法は使用しませんね」
「う~む」と唸るラティオー。
そして心配そうにプリームスへ尋ねた。
「では、プリームス殿が持ち込まれた案件は、余程重要な事なのですね?」
「はい、魔術師学園と魔導院の友好関係を築くことを考えれば、払拭しておきたい内容ではあります」
内容はぼやかしたまま、そうプリームスは答える。
そうこう言っていると聖都の外郭外壁に到着し、目の前には大きな門がそびえ立っていた。
華美な装飾は無いが、機能美重視でプリームスが好む様相である。
『以前の世界で、私が築いた砦に少し似ているな』
人間との大戦で、人の侵攻から
こちらの世界に来てからそれ程経っていないのに、懐かしく感じるのは色々あったからかもしれない。
そんな風にプリームスが思いに浸っていると、ラティオーの声がした。
「ようこそ我が魔導院の聖都サブマへ」
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