第157話・いざ魔導院へ(2)
視界が闇に覆われたかと思うと、次の瞬間には見知らぬ場所に立っていた。
傍にはプリームスが立っており、自分が一人では無い事に胸を撫で下ろすフィエルテ。
冷静になり周囲を見渡すと、メルセナリオから聞いた話とは随分違うような気がした。
魔導院の聖都は山間部に在り良く整備されているのだが、それが想像以上なのだ。
とても僻地に在る都市とは思えない風景であった。
プリームスとフィエルテが転送した場所は聖都の郊外で、山の頂上にある整備された公園のようだ。
山と言っても聖都らしき山間部都市を少し見下ろせる程度の標高である。
それだけ聖都自体の場所も標高が高いのだろう。
山の峰に形成された立体的な都市構造は、どの国のよりも高い土木建築技術を感じさせる。
また豊かな緑とも調和し、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
プリームスは聖都を一望すると、直ぐに良く整備された展望台のような公園を歩き出した。
その足は真っ直ぐに聖都へ向かっているようである。
フィエルテは風景に圧倒され呆然としていた精神を元に戻し、慌ててプリームスの後を追った。
まるで観光名所のような展望台風の公園を抜け、急な山の斜面を聖都に向かって降りて行く。
急と言っても安全面を考慮された石造りの階段であり、フィエルテにはそれ程苦になる物では無い。
だだ、体力が無さそうなプリームスにはキツそうで少し心配だ。
階段を降り進につれ、細かな街の全貌が見えて来た。
聖都の中央には川が流れており、その川の両斜面から山の中腹に向かって家々が階段状に建ち並んでいる。
そして川に沿っても色々な施設や、良く整備された道路が見えた。
フィエルテはプリームスに伝えなければならないことを思い出す。
この国の法王の事だ。
また聖都の構造もメルセナリオから詳しく聞いており、今向かっている事を考えれば直ぐにでも話すべきだと思い至った。
「プリームス様・・・メルセナリオ様から伺った法王の事と、この国の街の構造をお伝えしたいのですが」
そうフィエルテが前を歩く主へ告げると、
「うむ、まだ街まで距離がある。歩きながら聞こう」
危なげなく綺麗な仕草で、プリームスは急な階段を降りながら答えた。
何をしても様になるプリームス。
見た目だけで無く、その所作1つ1つが美しく思え、フィエルテは見惚れて溜息が出てしまう。
中々話し出さないフィエルテに、プリームスは少し心配そうに振り向くと、一言優しげに言った。
「どうしたのだ?」
慌てて我に返るフィエルテ。
「あ、いえ・・・申し訳ありません。え〜と、法王の事でしたね」
フィエルテはメルセナリオから得た法王の情報を、出来るだけ端的にプリームスへ伝えた。
プリームスへは多くを語らずとも、その鋭い洞察力で簡単に全容を把握し理解してしまう。
因ってフィエルテは得た情報に何も加えず、真っ直ぐに伝えるのだ。
「成程、実に興味深い人物だな法王は・・・」
とプリームスは独り言のように言う。
フィエルテはプリームスの背後をついて階段を降りている。
故にプリームスの表情は伺い知れないが、その語調が弾んでいるように感じた。
プリームスの忠臣であり、フィエルテの師であるスキエンティア曰く、
「プリームス様は、美しい妙齢な女性が大好きですからね。悪い癖が出て大所帯にならないか心配です」
・・・だそうだ。
プリームスが政治的な意味で興味があるのは勿論だろうが、法王が若くて美しい事の方に惹かれているような気がしてならない。
かと言ってフィエルテがとやかく言える訳も無く・・・。
その後は聖都の話に移った。
リヒトゲーニウス王国と同じように、魔導院の首都は内郭と外郭に分かれている。
何故分かれているかと言うと、内郭は基本的に住居区画で外郭は商業区画だからである。
つまり厳選され入国を許可された商人のみが外郭に出入出来る訳だ。
そして魔導院の国民が居る内郭には、国外の人間は出入りできないという寸法である。
これにより国内の情報が漏れる可能性を抑えているのだ。
要するに徹底した情報統制がされており、フィエルテからすれば何とも息苦しい国と言えた。
「と言う事は、国民一人一人が厳重に管理されていそうだな」
プリームスの問いかけにフィエルテは頷き、補足するように続けた。
「はい、詳細な国民名簿が有るようです。そうなると個人の私事や色々な情報が筒抜けな様な気がして・・・ゾッとしますね」
「つまり死なない限り姿をくらます事さえ出来ないのか。それに秘密裏に潜入する事も不可能になるな」
とプリームスは感心したように呟く。
そうこう言っている間に聖都の外郭壁が目前に見えて来る。
リヒトゲーニウス王国の首都程ではないが、中々に立派な城壁だ。
しかも機能重視であり、防衛に適した造りになっていた。
そして城壁と一緒に別の物が目に留まる。
それは前方からこちらに向かって走って来る、黒い意匠の装備を身に纏った一団であった。
魔導士風の者も居れば、騎士風の者も居る。
規模は小隊程度で20人は居そうだ。
それを見て他人事のように言うプリームス。
「あ~勘づかれたようだな」
慌てるフィエルテはプリームスに詰め寄ってしまう。
「えええ!? どうなさるのですか?!」
そんなフィエルテを見て楽しむ様にプリームスは惚けた様子で言った。
「今更慌てても仕方ない。それにあれだけ派手な魔法を使ったのだ、バレない方が可笑しいと言う物だろう」
プリームスのそんな良い様に、フィエルテは既視感を覚えた。
リヒトゲーニウス王国に来た初日も、似たような事態に陥ったのを思い出したからだ。
あの時は傭兵ギルドで食事をしながらメルセナリオと会話をしていると、王宮から小隊規模の騎士達が押しかけて来た。
そしてそれは、そうなる様にプリームスが仕向けたのである。
プリームスは惚けているが、きっとこうなるように今回も仕向けたに違いない。
『大雑把と言うか端的と言うか・・・』
そう思いフィエルテは溜息が出てしまった。
法王に会うための最短方法を選んだのだろう。
しかしとても安全と言える方法では無く、プリームスの従者であり護衛である身としては気が気で無いのであった。
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