第155話・固有魔法メテオリーティス

プリームスが目を覚ました時には、既にメルセナリオから聞き出したかった話は終わってしまっていた。

フィエルテが全て聞いてくれていたからだ。



フィエルテに抱き着いたままで、

「うお、うたた寝してしまった! どれくらい眠っていたのだ?」

と自分に驚くような様子でプリームスは2人に尋ねた。



苦笑しながらメルセナリオは答える。

「ほんの30分程だぞ。慌てる程の事ではない」

どうやらプリームスが起きるまで待っていてくれたようだ。



「すまないな、訪ねて来た方が勝手に寝てしまうとは・・・」

そうプリームスが申し訳なさそうに言うと、メルセナリオは少しニヤケた表情を浮かべて告げる。


「いやいや、気にせんでくれ。可愛いプリームス殿の寝顔も拝めた事だしな」



やはり寝顔を見られるのは人並みに恥ずかしいのか、プリームスは少し照れた顔で不貞腐れた。

「く・・・乙女の寝顔を盗み見るとは、おぼえてろよ!」


相手を待たせておいて何とも滅茶苦茶な言い様である。

しかしメルセナリオは苦笑するだけで、気にした様子はなかった。

ひょっとしたらプリームスが、外見通り年相応な反応をしたのが嬉しかったのかもしれない。



「まぁまぁプリームス様、法王の事は私が聞いておきましたので、ご機嫌を直して下さい。で、これからどうしますか? 戻られますか?」

フィエルテがプリームスを抱きかかえたまま告げた。



プリームスは少し思案すると、

「いや、直ぐにでも魔導院へ向かおう。バリエンテ達の決闘は明日だしな、不安要素は潰しておいた方が良い」

フィエルテに抱き着いたまま答える。


言う事は格好良さげに戦略家然としているが、その状態は親に甘えるような子供である。



そんなプリームスの様子よりも、その言葉の内容が気になったようで、

「なぬ? 今から魔導院へ行くのか? 最短で着いたとしても2週間はかかる距離だぞ!」

と驚愕気味でメルセナリオは詰め寄って来た。


お互いソファーに座っているが、そのメルセナリオの巨体ゆえに暑苦しく威圧感が凄い。



「頼むから、そんなに近づいて来るな! 暑苦しくてかなわん」

プリームスが嫌がっていると、フィエルテが何か気付いたように話し出す。


「ひょっとして”あの魔法”をお使いになられるおつもりですか?」



首を傾げるメルセナリオ。

「あの魔法?」



フィエルテは頷いた。

「はい、プリームス様はどのような遠方でも、目的地の風景と座標が正確に分かれば一瞬で移動出来るのです」

そう言った後、慌てて口を押える。

「あっ、これは口外するべきではありませんでしたね・・・」



プリームスは苦笑するとフィエルテの胸を優しく撫でた。

「このおっちょこちょいめ。まぁ心配する事はない、メルセナリオ殿に知れたからと言って私を悪用する度胸もあるまい?」



少し馬鹿にされたが的を射ていた為、メルセナリオは口ごもってしまう。

だが直ぐに気を取り直すと再びプリームスへ詰め寄った。

「本当にそんな事が可能なのか!??」



大きくて暑苦しいメルセナリオに再び詰め寄られて、少し腹が立ったプリームス。

『私の周りには何故か、むさ苦しい輩が寄り付いて来る・・・うっとおしい・・・』

我慢出来なくなったプリームスは、直ぐ目の前にあるその禿げ頭におもいっきりデコピンを見舞ってやる。



「ぐおっ!?」



どんなに鍛えていて、どんなにガタイが良くても痛いものは痛いらしい。

メルセナリオは額を押さえて涙目である。

しかし今ので少し落ち着き、メルセナリオは恨めしそうに無言でプリームスを見つめた。



「全くいい大人が騒ぐでない! 兎に角だ、”移動魔法”は仕込みの為の魔法の方が魔力を使う。それを抑える為にもメルセナリオ殿の協力が必要だ」

そうぶっきら棒にプリームスは告げた。



戸惑った様子のメルセナリオだが、プリームスに借りが有るようなものなので無下には出来ず頷くしかない。

「うむ、分かった。ワシは何をすればいい?」



小さな溜息をついてプリームスは説明を始める。

「移動魔法は正確な位置を把握せねば使用できぬからな。先ずはお主の記憶を借りて、魔導院の正確な位置を知りたい。ここから2週間もかかるとなると、数百キロは距離があろう? その距離を斥候エクスプローラートル魔法を維持しつつ飛ばし続けるのは、私としても少々キツイのでな」



プリームスの話す内容をメルセナリオは理解出来ないようで、首を傾げるばかりだ。

斥候エクスプローラートル?」



この世界の常識を遥かに超える魔法をプリームスは使える。

しかも固有魔法であり、類するような物は他に無いのだろう。

故に理解が及ばない・・・仕方ない事なのだ。

ゆえに難しい事は説明せず、端的にメルセナリオへ語ることにした。


「数十キロ程度なら斥候エクスプローラートルで問題無いのだがな・・・。今回は遠すぎる故、超長距離弾道魔法を併用しようと思う。本来は遠方の地を爆撃するのに使う魔法だが、攻撃要素を全て排して斥候エクスプローラートルを運搬する効果と、それを排出する信管制御のみを使おうか」



端的に言ったつもりだが、メルセナリオどころかフィエルテも理解出来ていないようであった。

「超長距離弾道魔法? 爆撃? 信管制御?」

と2人は困った様子で口を揃えて言うばかりだ。



「まぁ私が開発した固有魔法でな・・・正式名は超長距離弾道爆撃魔法メテオリーティスと言う。込める魔力によって凄まじい破壊力になるのでな、私でも生涯で2度しか使った事がない」

そうプリームスは苦笑いしながら告げる。



恐ろしくて詳しく訊くのは憚られたメルセナリオだが、興味が勝ったのか代わりにフィエルテが尋ねた。

「え~と、どの程度の距離まで使用できるのですか? それと破壊力は如何ほどで?」



プリームスは考える仕草をすると、思い出す様に徐に話し出す。

「う~ん、恐らく500キロ程度までなら運用は可能だな。破壊力は・・・込める魔法や魔力にもよるが極小の範囲なら家屋1つ程、最大範囲なら街や都市1つ程度なら、瓦礫に変えられるだろうな」



フィエルテの顔が一瞬で青ざめた。

「さ、左様で・・・」


同じくメルセナリオも真っ青な顔になり言葉が出ない様子である。

『言っている事が本当なら、とんでもない事だぞ! いや、ここに来て偽りを口にする意味も無い・・・。ああぁ、ワシは何て人物と知り合ってしまったんだ! これではプリームス殿が眠れる魔人・・・いや魔王ではないか!』


別世界とは言え”元歴代最強”の魔王を目の前にしているとは、露知らずのメルセナリオであった。

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