第156話・いざ魔導院へ(1)

取り合えずプリームスがどうやって、数百キロもの彼方にある魔導院へ行くのか理解したメルセナリオ。

いや、正しくは理解出来なかったが、理解した事にしたのだ・・・。



方法はこうだ。

先ずはメルセナリオの記憶から魔導院の正確な位置を割り出す。

勿論プリームスの魔法に因ってだ。


それから方角を正確に指定して、斥候エクスプローラートルを乗せた超長距離弾道爆撃魔法メテオリーティスを発動させる。

つまり確固たる正確な座標を視野に収める為、斥候エクスプローラートルを魔導院まで送り届けるのだ。


最後は移動魔法である転送メタファーを使い、プリームスが魔導院へ到着すると言う寸法である。



本来ならリヒトゲーニウス王国から魔導院は2週間程掛かる道程だが、プリームス曰く全ての手順を踏まえても10分程度らしい。

何とも常識はずれで規格外である。

プリームスがその気になれば、世界など滅茶苦茶に出来るのではないか・・・と思いメルセナリオは背筋が凍った。



要望により広めで開けた見通しの良い場所へ、メルセナリオはプリームスを案内する。

その場所は傭兵ギルドの屋上である。



そしてメルセナリオへ屈むようにプリームスは指示をした。

「おいおい、また、さっきみたいにデコピンは止めてくれよ」

と冗談混じりに告げるが、よっぽど痛かったのか割と顔は本気だ。



プリームスは苦笑しながらメルセナリオの額に片手を添える。

「フフフ、心配するな・・・少し記憶を読ませて貰うだけだ。それよりも魔導院の位置を知りたいゆえ、しっかりと風景を思い出すのだぞ」



「分かった」

一言そう言うとメルセナリオは瞳を閉じた。



するとプリームスも瞳を閉じ、静かに呟く。

「其の者の記憶を辿り、其の眺めを我に伝えよ。視覚情報共有ペルセプシオン


メルセナリオの脳の記憶野にある魔導院の風景が、プリームスへ視覚情報として流れ込んで来た。

その情報を必要な物だけ選りすぐり、プリームス自身の記憶野へ留めて行く。



そうして2分程するとメルセナリオの額から手を離し、プリームスは瞳をゆっくりと開いた。

「魔導院は大体把握した。後はこの場所から見た魔導院の方角を教えてくれ」



そう告げられメルセナリオは、待ってましたと言わんばかりに懐から地図を取り出す。

「そう言うと思ってな、地図と方位磁石を持ってきた」


屋上の床に地図を広げて、メルセナリオは方位磁石で地図の位置を調整する。

そして南方諸国が描かれた地図の1番東の地を指す。

「ここが魔導院の領土だ。方角は・・・」



メルセナリオは立ち上がり、

「丁度ここから真東の方角だな」

と港側に背を向け、まるで弓を構えるように東を指差した。

巨躯ゆえに何だか迫力満点の様相である。



プリームスは頷くと、自身の足元に光の魔法陣を発現させた。

「我が目となり彼の地に臨め・・・斥候エクスプローラートル


古代マギア語で紡いだ詠唱が済むと、プリームスの眼前に直径10cm程の黒い球体が現れる。

更に続けて魔法詠唱を始める、しかも黒い球体を維持したままだ。



「彼方へと誘え、流星となり我が意志を運ぶ者よ・・・今ここに顕現せよ」



そうプリームスが古代マギア語で言い放った瞬間、黒い球体の周囲に眩い光が溢れ出す。

堪らず目を手で覆うフィエルテとメルセナリオ。



だがほんの数秒で光は収まる。

恐る恐る眼前を見やると、そこには空中に浮かぶ黒い球体と、その周囲に9つの光球が目に取れた。


その光球は、黒い球体より2回りほど大きい。

そしてまるで意志を持つかの如く、黒い球体を中心にクルクルと飛び回っていた。



「な、な、何なんだあれは!?」

とメルセナリオが驚愕の表情で誰にとも無く告げた。



「この球体が、メテオリーティス・・・」

フィエルテは斥候エクスプローラートルを見知っているので、光球が超長距離爆撃弾道メテオリーティスと気付いたようである。



プリームスは特に身振り手振りで2つの魔法を維持している様子は無い。

しかし集中を欠く事が出来ない為か、2種類の球体を見据えたまま言った。

「2人とも、私の背後へ隠れるように立ちなさい」



プリームスの手を煩わせない為にも、フィエルテとメルセナリオは迅速に動く。

2人が背後へ来た事を確認しプリームスは言い放つ。



超長距離爆撃弾道メテオリーティス



次の刹那、光球が3つ1組で斥候エクスプローラートルの下に縦に整列する。

それが確認出来た瞬間に、1番下の光球3つが凄まじい爆音と光を放った。



「うわっぷ!? め、目が!!」

と叫ぶメルセナリオ。

光をもろに見てしまったようだ。


一方フィエルテはヤバイと感じていたのだろう、咄嗟にプリームスの背中へ頭を引っ込めていた。



気付くと斥候エクスプローラートルは光球の爆発する推進力で、空の彼方へ飛び上がっていたのであった。

そして周囲を見ると屋上の石畳が、超長距離爆撃弾道メテオリーティスの影響なのか黒く焼け焦げたように酷い有様である。



フィエルテは空の彼方に向けて、見る見る小さくなる光球を目の当たりにして呟いた。

「もし斥候エクスプローラートルでは無く、破壊魔法であったならと思うと・・・背筋が凍りますね」



今回は斥候エクスプローラートルを運ぶ手段として、超長距離爆撃弾道メテオリーティスを使用した。

だが本来は遠方にある敵地を爆撃する魔法なのである。


プリームスの言う通り一都市を破壊出来る事を考えれば、主人が人道的な事にフィエルテは胸を撫で下ろすのであった。



それから2分程経過すると、

「到達したようだ。フィエルテ、私に抱きついていなさい」

とプリームスがフィエルテへ告げる。


メルセナリオはと言うと、未だに目元を押さえて床を転げ回っていた。

そんな様子を苦笑しながら一瞥すると、プリームスは言った。

「私の魔法障壁で有害な光は全て遮っている。暫くすれば目は元通りになろう・・・ジタバタするな」



その言葉を聞いた瞬間に大人しくなるメルセナリオ。

しかし大の大人が、しかも2mを超える巨躯が床に転がったままなので滑稽である。



それからプリームスは直ぐに古代マギア語を詠唱をした。

「打ち込みし楔の元へ誘え」


その直後、足元に魔法陣が展開され、プリームスはフィエルテが抱き付いている事を確認して言い放つ。



転送メタファー



2人は闇色の何かに飲み込まれたかと思うと、その何かと共に一瞬で消失してしまった。

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