第153話・問いかけの末に・・・
「では、どこから話そうか・・・」
そうメルセナリオが真剣な面持ちでプリームスへ告げた。
それは魔導院とその国主の事である。
魔導院と交渉する為に、その情報をプリームスが欲したのだ。
「魔導院がどう言った国なのか詳しく聞かせてくれ。先ずはどの程度の軍事力があるのか、それと文化水準、政治形態などだな」
とプリームスが補足するように答えた。
するとメルセナリオは徐に話し出す。
「先程も言ったが5年程前まで鎖国をしていた国だ。開国と同時期に法王が変わり、国の方針も随分と変化した。と言うより、国主が変わったから方針が変わり開国したのだろうな」
メルセナリオの話では政変が有ったのは確かだが、永世中立国で閉鎖的な側面から詳しい事は定かでは無いらしい。
また魔導院の軍事力も詳しい事は分析出来ていない。
だが永世中立国の為、他国には一切の軍事的侵略は行わない専守防衛を旨としている。
そして先の南方戦争では、その強力な魔術軍事力で侵略や国内を通過しようとした他国を圧倒し、全て退けたのだ。
相当に強力な軍を配備している事が伺える。
「ワシも魔導院に訪れて分かったのだが、国土の半分が山地なのだ。生活圏も殆どが山間部でな・・・あれは自然の要塞だよ」
そうメルセナリオは思い出し、感心するように言った。
その上、国民の半数近くが有事の際に、軍事的行動が出来るよう訓練されているらしい。
これはメルセナリオが法王に謁見した時、聞かされた内容である。
現在は南方諸国は平和協定を結び、魔導院を除き南方連合となっている。
幾ら平和と言っても永世中立国で孤立している為、防衛力を対外的に公表しておく必要があった。
故にメルセナリオを使って他国に軍事力の強さを知らしめたかったのであろう。
「では文化水準はどうなのだ? 山間部に国を構えているなら、僻地と言っても過言ではなかろう。国交を絶っていたなら文化的にも他国と差が開きそうではあるが・・・」
プリームスがそう言うと、意外な事にメルセナリオは首を横に振った。
「他国とそう変わらん。街や都心部も良く整備されているしな、国民の生活水準も高い。下手をすれば他国より文化水準は高いかもしれん」
メルセナリオの説明で、プリームスは更に魔導院へ興味がそそられてしまう。
恐らくだが他国に対しての諜報活動に余念が無かったのだろう。
鎖国していた頃から他国を注視し、自国を客観的に捉えて世界から取り残されぬようにしていたに違いない。
そして自国の情報は外には漏らさない。
その徹底した姿勢が、何者にも侵略されない永世中立国とたらしめている、そうプリームスは容易に洞察出来た。
そうしてメルセナリオの話は、魔導院の政治形態に変わる。
基本的に法王を頂点とする君主国家の形をとる。
国の成り立ちは、教団が大陸東の山間部に総本山を置いた事が始まりのようだ。
「無国籍地帯が有る無いは別として、現在南方では新たに建国する事は難しい。理由は南方諸国の承認が必要だからだ。だが魔導院は、南方に存在するどの国よりも歴史が古い。その上、鎖国していたのだからな・・・誰も魔導院の政治形態など知らんのだよ」
通常、建国する場合は元有る国から独立する方法が1つ。
又は、支援国を得て無国籍地帯に建国をするのが2つ目である。
どちらにしろ、どう言った国が建国されるのか近しい国が宣伝してくれるのだ。
つまり魔導院より古い国、そして近しい国がない為に良く分からないとメルセナリオは言っているのであった。
分からない物は仕方ない。
ならば商業的な国交についてプリームスは訪ねる事にした。
「経済的な繋がりも全く無いのかね? 鎖国しているからと言って、足らぬ物を我慢する訳にはいくまい」
それには直ぐ答えるメルセナリオ。
「それは取引する商人を限定して、魔術による契約を強いていたようだぞ」
魔術による契約。
それを聞いて少し驚くプリームスだが、意外には思わなかった。
この契約は呪いの一種であり、
一般的な物であれば、五感いずれかの欠如、外見の激変、強力な物になると命まで奪う事もある。
魔導院と取引する商人は、この魔術契約によって信用を勝ち取り、そして魔導院は自国の情報漏洩を防いだのだろう。
そして国民も厳重に管理されている筈だ。
出国も容易では無く、恐らく信用と魔術の契約、更に何か使命を帯びた者のみが許されたと考えられた。
『そこまでして自国の情報漏洩を恐れたのは、何か重要な物を守っているのかもしれんな・・・』
そう思うと増々プリームスは魔導院に対しての興味が膨らみ、藪を突きたくなるのであった。
だが5年前に鎖国を解き、開国を果たした魔導院。
ある程度、国の情報が拡散する事を覚悟し、それを成した現法王はどのような為人なのかも気になる所である。
「メルセナリオ殿は法王と直接話した事があるのだう? どのような人物なのか、ぜひ聞かせて欲しい」
プリームスはワクワクしながら尋ねる。
そんなプリームスの様子を見て、メルセナリオは少し呆れたような表情を浮かべた。
「プリームス殿は何と言うか、他人事に興味津々だな。その様子だと、今まで要らぬ諍いや事故も多く招いただろうに? 関わらず知らなかった方が良かったと思うかもしれないぞ?」
嫌そうな顔をするプリームス。
まるで口煩い小姑に、なじられたような顔だ。
でなければ怒られているのが分かっているが、不服そうな顔をする子供である。
「うるさいな・・・私の事などどうでも良いのだ。それよりも早く話せ」
そう面倒臭そうに言うプリームスに、メルセナリオは苦笑いをするしかない。
そして焦らす様に中々話し出さないメルセナリオに、しびれを切らせたプリームスは、
「う~~ん、何だか疲れて来たぞ・・・フィエルテ~」
そう言ってフィエルテの方を見ると両手を広げた。
「え?」と戸惑うフィエルテ。
こんな様子のプリームスを始めて見るので、どうしたら良いのか分からないのだ。
再び焦れたようにプリームスが、
「傍に来て~」
などと言い出し、迎い入れる様に両手を広げたままである。
傍で見ていたメルセナリオが驚いた様子で目を丸くしている。
先程まであらゆるものを洞察する戦略家のような表情をしていたのに、突然そのプリームスが子供のようになってしまったからだ。
それも見た目以上に幼くなったような・・・。
フィエルテはと言うと、突然の事で戸惑いはしたが、
『これはこれで可愛らしくあられて、私的には好ましいかも・・・』
と思う始末。
そして法王に関して話す機会を逸してしまったメルセナリオは、突飛な現状況も踏まえて途方に暮れるのであった。
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