第152話・永世中立国 魔導院(2)

プリームスは非人道的な魔導院のやりように怒りを覚えたようであった。

そして魔導院に対して何か手を打つ様子だが、あの強大な魔法軍事力を持つ相手に何が出来るのであろうか?



更にメルセナリオは疑問に思う。

傭兵ギルドは南方諸国を股にかけ情報網構築している。

その情報網で得た国々の内情を、他国に横流ししているのだ。

その行いにプリームスは怒りを感じないのかと・・・。


どうしても気になってメルセナリオは、プリームスへおずおずと尋ねる。

「ワシの事は軽蔑したり、怒りを感じたりしないのか?」



小さな溜息をつくプリームス。

「今更な事を言う。貴殿がしている事など組織間では良くある事・・・私が気に入らないのは、人心をないがしろにする魔導院のやり方だ」



「そ、そうか・・・」

と気圧されつつ納得をするメルセナリオ。

兎に角、怒りの矛先が自分に向かなくて良かったと思わずにはいられない。



「プリームス様、魔導院に何かなさるおつもりですか?」

メルセナリオが気になっていた事をフィエルテが訊いた。



するとプリームスは少し思考して、

「飽く迄、私の推測に過ぎないが・・・魔術師学園には魔導院自らも策を講じている筈だ。学園の理事長を代行してる私としては、それが学園の利益を損なう物なら排除せねばならん。実力行使してでもな」

と独り言のように告げる。



これにはメルセナリオが慌ててしまう。

「おいおいおい、待て待て! プリームス殿が魔術師学園の理事長だとは聞いて無いぞ!」



「今言ったからな。それに理事長では無く、”理事長代行”だ」


そうプリームスが訂正すると、メルセナリオは怒ったように言い返す。

「そんなもんワシからしたら一緒だ! それを知っていば、ここまで話さなかった!」



傭兵ギルドはリヒトゲーニウス王国に本部を置いているのだ。

その上メルセナリオは国王から王友の称号まで受け、更には王国議会の議席まで持っている。

詰まる所、王国に対して義理が欠ける行いをしてると言えるだろう。


メルセナリオが如何に優遇された灰色な立場に居るとしても、他国の干渉を手伝うような真似は裏切りに近い行為であった。



メルセナリオは項垂れた様子でプリームスへ尋ねる。

「プリームス殿がバリンテ達に関わっているなら、理事長の女王も”この件”を御存じなのだろう? これではもう議会から除名も有り得るな」



プリームスは小さく首を横に振ってそれを否定した。

「今回は全て私の独断だ。ゆえにエスティーギア王妃には何も話しをしていない。ここでお主を失脚させた所で、王国とギルド共々得する事は無いだろう?」



プリームスへ頭を上げるメルセナリオ。

お互いソファーに座したままだが、メルセナリオが巨躯過ぎて頭を下げてもその様に見えない所が少し滑稽である。

「すまない、プリームス殿。ギルドと王国の事を憂いた貴殿の気遣いと判断・・・痛み入る」



「そんな建前の言葉など要らん。私に借りが出来たと思うなら、それを態度で示して返せ」

プリームスはツーンとした様子でぶっきら棒に告げた。



しかしその仕草は、見た目通りの年相応で可愛らしく見えてしまう。

『もう、プリームス様は冷たく装っても可愛らしいのですから』

傍で見ていたフィエルテは、そう内心で思いホッコリする。

だがこのままではメルセナリオが気の毒なので、手助けするのも忘れない。


「まぁまぁプリームス様。ギルドマスターも随分と反省している様ですし、手加減してあげても宜しいではありませんか?」



どうすれば良いのか分からず、メルセナリオは戸惑っている様である。

メルセナリオのやり様は、組織としては至極当然の事をしたまでなのだ。

ギルドの利益を考え魔導院と取引をしたのだから。



一方リヒトゲーニウス王国に対しては、誠実さを欠いた事になる。

これはプリームスが黙ってくれる事で、メルセナリオは事無きを得た。

しかしプリームスが魔導院に対して何かするのであれば、今度は魔導院からメルセナリオが責を問われる可能性が出てくる。



「ワシはどうすればいいんじゃぁ!」

メルセナリオは頭を抱え込んでしまった。



大きな溜息をつくと、プリームスはメルセナリオに告げる。

「学園に対する魔導院の干渉方法と関係性を変える。魔術師学園は魔導院の仮想敵対組織と言えるからな。ならばそれを払拭してやって、友好関係を結べば良い」



メルセナリオは少し思考し、

「うむむ、言っている事は分かる。だがそんな事が可能なのか? 魔導院は魔術に関して言うならば、他を見下している傾向がある。そんな相手に対して、学園が対等な友好関係を結べるようには思えんのだが・・・」

そう心配そうにプイームスへ語った。



ニヤリと笑むプリームス。

「そこは交渉次第であろう。こちらがどれ程の力を持っているか、知らしめる必要が有るかもしれんがな」



メルセナリオは嫌な予感がしてならない。

プリームスがこの国の国王を救った時も、その並々ならぬ胆力を目の当たりにした。

そして底知れぬ洞察力と武力。

きっとあの時のように、プリームスが望む事を成し遂げるに違いない。


『ワシはとんでもない相手と戦友になってしまったのかもしれない』



プリームスは真顔になるとメルセナリオへ言い放った。

「先ずは相手の事を詳しく知らねばならん。魔導院の事を詳しく教えろ。そしてその国主である法王の為人ひととなりもな」



胸を撫で下ろすメルセナリオ。

プリームスの事だから、その人知を超えた魔術と武力を以って、魔導院にかちこむのではと思ったからだ。


『今日は連れていないが、スキエンティアと言う従者もやばい・・・』

そしてここにいるフィエルテとプリームスを含めて、たった3人で中枢を突けば国を落とせるのでは・・・と思ってしまう。


『兎に角、今はプリームス殿に従うが吉であろうな』



メルセナリオは居住まいを正すと、意を決したように口を開いた。

「分かった、ではどこから話そうか・・・」



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