第150話・メルセナリオの真意(2)
プリームスとフィエルテは、前回通された場所とは違う所へ案内された。
そこは執務室然としたギルドマスターらしい部屋であった。
本棚と書類棚に囲まれた10m四方の部屋で、メルセナリオの見た目とは相反した雰囲気である。
メルセナリオは部屋の中央にあるソファーにドカリと腰を下ろした。
今回は1階大フロアーの椅子の様に悲鳴は上がらない。
恐らく頑丈で高級な物なのだろう。
そしてプリームスも合わせて、対面に設置されたソファーへ座る。
フィエルテはと言うと、従者護衛らしくプリームスの背後に立った。
「さてバリエンテ達3人の事だな・・・」
と諦めたように会話の口火を切るメルセナリオ。
「確か、バリエンテはメルセナリオ殿に勧められて、魔術師学園に入学したと言っていた。あれは他人に対する建前だな?」
プリームスは何げなく問いただす。
追及するような言い回しでは無く、あくまで日常会話の様に自然にだ。
しかし問われた事が思った以上に重要だったのか、メルセナリオは気が気ではない様子である。
「う~む。色々複雑な事情があってな・・・彼らに入学するように頼んだのだ。それに彼らの才能も鑑みて、魔術師学園で学ぶのは得る物が大きいとワシは判断した」
プリームスは首を傾げた。
「うん? 彼らは進学出来ずに退学になる事を、随分と恐れていたように見える。何か違約事項を彼らに課したのでは?」
的を射ていたのかプリームスの言葉に反応し、メルセナリオの眉間に皴が入る。
この時メルセナリオは、プリームスの底の知れぬ洞察力を思い出し焦っていた。
国王暗殺の企てを見抜き、未然に防いだのはプリームスなのだ。
それにその企ての真の黒幕さえも看破している。
そんな相手に自分が誤魔化した所で、簡単に見抜かれてしまうのではないか?
メルセナリオはそう思わずには居られない。
そして”この件”でプリームスに何か及ぶ事があれば、報復を受ける可能性も考えていた。
報復とは言葉が悪いかもしれない。
しかし今、メルセナリオが扱っているこの件にプリームスが介入していたなら、きっと何らかの落とし前を着ける羽目になる。
『ここは正直に話すべきか・・・そして妥協できる所を模索するしかないな』
メルセナリオは溜息をつくと、徐に話し出した。
「ワシとプリームス殿は、只の知人か? それとも同じ王友の称号を持つ友人同士だろうか?」
プリームスは少し考えるような仕草をし、
「残念だが、友人ではないな」
と淀みなく答える。
これにはメルセナリオも期待を裏切られ、項垂れそうになる。
友人と言う立場を利用し、義理と人情をプリームスに期待したからだ。
だがプリームスの言葉には続きがあった。
「友人では無いが・・・この国の危機を共に救った"戦友"ではあるだろうな」
一瞬ピリピリとした空気が、部屋中に充満したかと思えた。
しかし今のプリームスの言い様で、それが払拭され事にフィエルテが胸を撫で下ろす。
当事者より傍で見ている者の方が、こう言う場合肝が冷える。
メルセナリオは安堵する。
そして直ぐに真剣な面持ちになり話出した。
「南方諸国の東の端に魔導院と言う国がある。つい5年程前まで鎖国していた永世中立国だ。知っているか?」
プリームスは小さく首を横に振る。
「いや、全く知らない。まだこの地の事をちゃんと把握していなくてな」
流石プリームスである。
鋭い洞察力を持ち得ながら、それを利用する為の情報力をおざなりにしているのだから。
大雑把も良いところだ。
するとフィエルテが我慢出来なかったのか、
「先の南方戦争でも中立を貫き、他国からの干渉の一切を排した軍事強国です。現在では国交を行なっていますが、南方連合には所属せず相変わらずの中立国となっています」
と、この地の世情に疎いプリームスへ説明する。
主人が大雑把だと、支える従者や家臣が優秀になるものである。
そんな2人のやり取りを見て、笑みが溢れそになるのを堪えメルセナリオは話を続けた。
「我が傭兵ギルドは魔導院が国交を開いたのを機に、支部を置かせて貰えないか交渉を始めた訳だ」
再び言い淀むメルセナリオ。
「で、交渉自体は上手くいったのだが・・・」
そこにプリームスが透かさず口入れする。
「条件を付けられたのだな? それも割と面倒な事だろう?」
面倒そうにメルセナリオは頷いた。
「ギルド支部を置かせて貰えるのだからな、無条件は有り得ない。だが法王は、傭兵ギルドの持つ国々への干渉力を利用したいと言い出した」
「ほほう? 具体的にはどう言った事なのだ?」
魔導院とやらの国に、プリームスは興味をそそられてしまった。
永世中立国と言うのも非常に興味深く、以前の世界では考えられなかった政治体制だからだ。
『恐らく国の長が法王なのだろう。ならは宗教国家な訳か・・・面白いな』
そんな風にプリームスが楽しんでいるとも知らず、メルセナリオは頭を抱えて告げた。
「魔術師学園を魔導院の監視下に置きたいらしい。その上あわよくば、学園を魔導院傘下に引き入れるつもりだそうだ。要するにだ、魔導院の企みに一枚噛まされた訳だ」
プリームスは少し思考し言った。
「ひょっとしてバリエンテ達は、学園に潜入した魔導院の間者なのか?」
「露骨な言い回しをするな・・・」
と嫌そうな顔をするメルセナリオ。
そして気を取り直し続ける。
「厳密には違う。イディオトロピアとバリエンテは完全にうちの傭兵だ。しかし色々訳ありでな、魔術の才も含めて選任した」
まだ1人残っている。
傭兵でありながら上品で、まるで貴族のような物腰の女性が・・・。
「ノイーギアはどうなのだ?」
率直に問いかけるプリームス。
「彼女は元魔導院の貴族だ。訳あってワシが傭兵ギルドに引き取ったんだよ」
メルセナリオはそう諦めたように答えた。
何だか訳ありばかりである。
この様子だとメルセナリオは、プリームス並みにお節介焼きのようだ。
そしてこの後に真実を知り、プリームスは興味から怒りに思いが変化するのであった。
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