第149話・メルセナリオの真意(1)

炎の名工に、プリームスが何故武具の製作依頼をしたいのかを理解して貰えたようだ。

しかしそれによって矛盾が生じ、突っ込まれる羽目に。


「今の状況で合う武器を製作して欲しいのは理解出来た。じゃが、そのテーブルに並べた武器を以前は扱えたのじゃろ? まるで今の身体と以前の身体とでは、違うと言っているもんじゃぞ」

そうスデラスに言われてしまった。



最もな指摘である。

事実、プリームスの今の身体は”魔王”の時のそれとは違うのだ。

生み出され15年近くは経つが、実際に動き出したのは最近であり、身体的な経験値で言えば赤子と同然。

よって身体は脆弱であり、その他にも色々な問題を抱えている。



そして命の危機を回避する為に、この身体を依代にする結果となっているのだが・・・。

それを最も信頼する身内スキエンティア以外に知る者は居ず、その秘密を他人に語る事も不可能であった。

そもそも普通の人間には理解の及ぶ事では無いだろうし、プリームスの根幹と弱点に触れる内容だ。

話せる訳も無いのだ。



どうした物かと考えながらプリームスが並べた武器を収納していると、スデラスがバツが悪そうに頭を掻いて言った。

「まぁ見た所、只者では無いようだしな。他人に話せない事も沢山あるじゃろう、その辺りの事は勘弁してやる」



スデラスの言い様に、少し意外そうな表情を浮かべるプリームス。

「それは詰まり」


スデラスはニヤリとすると頷いた。

「あぁ、お嬢ちゃんの欲しい物を作ってやろう。しかし条件がある・・・素材はそっちで全部用意して欲しい」



プリームスはホッとした。

「うむ、分かった。その程度の事なら容易い事だ」



それを聞いたスデラスの笑みが更に深まる。

何と言うか、”してやった”と言うような悪戯顔の笑みである。

これは何か失敗したかな?・・・そう思いつつもプリームスは話を続けた。

「で、どうすればいい? いきなり素材とはいくまい? 段取りや手順があるだろう?」



頷くとスデラスは告げた。

「あぁ、先ずはどんな物が欲しいのか詳しく書面に纏めてくれ。それが出来たら再度ワシらの所へ来るといい。大抵はここの工房におるし、でなければ迷宮に潜っちょるかのう」



どうやら炎の名工はギルド専属の鍛冶師のようで、この傭兵ギルド施設内に工房を構えているらしい。

そしてこのギルドに所属する冒険者や傭兵に、格安で武具の調整や整備を行っているとの事だ。

それゆえにギルドマスターであるメルセナリオは、この2人の老人に弱いのかもしれない。



「ファブロ、お主はどうするんじゃ? 何か条件は無いのか?」

そうスデラスが炎の名工である相方に訊いた。



するとファブロは少し考えると、

「スデラスが良いならそれでええ。敢えて言うなら、お嬢ちゃんのオッパイを触らせて貰えんかのう?」

などと言い出す。



「な!?」

と少し取り乱すフィエルテ。

先程まで静かにしていたフィエルテだが、流石にこれは静観できないようであった。


メルセナリオも苦笑いをする。

「おいおい、それは駄目だろう」



しかしプリームスは、特に気にする事も不快さを顔に出す訳でも無く告げた。

「うん? そんな事で良いのか?」



更に慌ててフィエルテは席から立ち上がる。

「な、なりません! プリームス様! 天上の美の如く儚く高潔な貴女様に、こんな助べえなジジイがそのお胸に触れるなど許されません!」



天上の美・・・儚く高潔・・・そんな恥ずかしい事を良くも口に出せるな、とプリームスは思いつつ、

「まぁまぁそういきり立つな。お前がそこまで嫌がるなら、誰にも触れさせないゆえ落ち着け」

フィエルテを諭した。



公衆の場で取り乱した事を恥じたのか、

「も、申し訳ありません・・・」

そう言ってフィエルテは気落ちするように席につく。


身内がプリームスを大切に思ってくれている事は嬉しいが、こういった事態の時に過剰に反応をする。

本当にプリームスに何か有った場合、この娘達はどれ程取り乱す事かと心配になってしまう。



そんな様子を見ていたファブロが申し訳なさそうな様子で言った。

「何だかすまんのう。少しだけ本気で、殆ど冗談じゃったんじゃがの・・・」



『まだ言うか、この助べえ爺は』

とプリームスが思っていると、メルセナリオが話しかけて来た。



「今日ここに来たのは、爺さんたちと話す為では無かろう? プリームス殿、用件は何だ?」



確かにメルセネリオの言う通りである。

面白い老人2人に出会い、本来の目的を忘れる所であった。

「あぁ、そうだった。お主が魔術師学園に行かせた3人に、何をさせたいのか聞いておきたくてな」



そうプリームスが告げると、メルセナリオの顔色が変わる。



お構いなくプリームスは続ける。

「バリエンテ、イディオトロピア、そしてノイーギア・・・3人とも随分と腕利きの傭兵のようであったぞ。とても学園に入学する必要が有る様に思えん。それに・・・」


プリームスが捲し立てる様に話すのを、メルセネリオが遮った。

「待て待て! それはここで話すような内容ではない! 場所を変えよう」



既に食事も終えて丁度いい頃合いだった。

プリームスは、空になった食器が乗るトレイを持ち立ち上がると、

「フフフ、やはり他人に聞かれると不味いか」

メルセナイロへ悪戯顔を向ける。



メルセナリオは困った表情を浮かべる。

「まさか魔術師学園とも噛んでいたとは・・・プリームス殿は余程お節介なのか、暇人なのだな」



食べ終え食器をカウンターの返却口へ返すフィエルテ。

プリームスもそれに倣い返した後、自嘲するようにメルセナリオに告げた。

「ん~~、暇人になる予定ではあったんだがな。色々あってな魔術師学園に関わる事になった。お節介と言うのは、一応自覚してるよ」



メルセナリロも自嘲する。

「ワシも人の事を言えん性分だがな。面倒な事に首を突っ込んでしまったもんだ・・・兎に角、ワシの執務室で話そう」



そうしてメルセナリオはフロアーの奥へ向かって歩き出した。



プリームスは2人の炎の名工へ振り向くと、

「先程の話だが後日書面にして届けよう。ではまたな、炎の名工」

そう言ってフィエルテと共にその場を後にするのであった。


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