第148話・炎の名工(2)

炎の名工スデラスが、プリームスからの制作依頼を渋ってしまう。

しかし予想外の援護射撃が外野から行われる。


「プリームス殿は、炎の名工が作るに値する人物だとワシが保証しよう」


そう言ったのは、漸くやって来たギルドマスターのメルセナリオであった。



プリームスは少し疲れたような様子を演出して、メルセナリオへ告げる。

「やっと来てくれたか・・・メルセナリオ殿。待ちくたびれたぞ」



メルセナリオはツルツルの頭を摩りながら、申し訳なくプリームスへ愛想笑いを返す。

「いや〜すまない。色々業務が立て込んでな、来る1時間前にでも知らせの使いを送ってくれれば良かったんだが・・・」


メルセナリオの言い分は最もであった。

これは突然訪問したプリームスが悪いと言うものだ。



2人のやりとを見て、訝し気にスデラスがメルセナリオに言った。

「何じゃい、ギルドマスターはこのお嬢ちゃんと知り合いか?」



少し答えあぐねる様子で、

「うん? あぁ・・・色々と助けられたと言うべきか。ワシにとっても、この国にとっても・・・。いや、何でも無い、今のは聞かなかった事にしてくれ」

メルセナリオは、そう歯切れの悪い答え方をしてしまう。



更に訝しげにメルセナリオを見るスデラス。

「ほほう。何か訳ありのようじゃの」



傭兵と、その傭兵ギルドのマスターの関係でありながら、メルセナリオはスデラスに少し弱い気がした。

『先程口添えしてくれたしな、私からも助け舟を出すか』


プリームスはそう思い、話に割って入る。

「まぁ話せない事は誰にでもある。ところでメルセナリオ殿の保証も得たし、私からの製作依頼を受けて貰えるかね?」



この期に及んでまだスデラスは渋り顔を浮かべた。

「う〜む、ギルドマスターのお墨付きを得てもなぁ。お嬢ちゃんのような者から、製作依頼を受けたと言う事実が不味いんじゃよ」



「どう言う事かな?」

プリームスはいまいち要領を得ず首を傾げてしまう。



すると今更と言った表情で溜息をつき、スデラスは説明をしてくれた。


炎の名工が作る武具は、その性能もさる事ながら意匠にも凝っており、他国の貴族や王族にまで人気があるらしい。

だがスデラス曰く、実用性の無い飾りだけの武具など作る気もしないとの事だ。


要するに、それら貴族や王族の依頼を片っ端から断っている事が、プリームスの製作依頼を請けられない理由なのだ。



「確かに私の製作依頼を請けたとあらば、断られた貴族が一斉に詰め寄って来そうだな。それに王族なら下手をすれば不敬罪で罪に問われるやもしれん」

と少し納得気味でプリームスは言った。


そしてプリームスは笑顔をスデラスとファブロに向けて続ける。

「しかし心配はいらない。"炎の名工"に作って貰ったなどとは口外する気はないからな。そちらも私から依頼を請けた事を黙っていればいい」



スデラスは渋々、唸るように頷いた。

「う〜む。そこまで言うなら作らんでもない。しかしな、魔法の武具でなければ他に上手い鍛冶師が幾らでもおるぞ。ワシらに拘る必要はあるまい?」



正にその通りである。

正直、プリームスは出来の良い武具があれば、自身で魔法効果を付加する事が出来るのだ。

そうなると尚更、ただの鍛冶屋で事足りる。


しかしプリームスはこの世界に、そしてこの地に生きる人々に興味が絶えないのだ。

だからこそ敢えて、"炎の名工"と言われる2人の老人に物作りを依頼したいのである。



プリームスは苦笑いをスデラスへ向けて答えた。

「実を言うとな、武具は山ほど持っているのだ。だが"今の私"には合わなくてな・・・要するに新調したい訳だ」


そうして適当に見繕った武器類を、収納機能が付加された指輪から突如取り出すプリームス。

ロングソードやレイピア、ショートソードなど片手持ちの得物が、所狭しと丸テーブルの上に乱雑に並べられた。



突然現れた武器に目を白黒させるスデラスとファブロ。

そしてテーブルの上にあるどの得物もこの世界の住人には超逸品で、下手をすれば伝説級とも言える品であった。



いつの間にか相席で座っていた2人の傭兵は姿を消していた。

その空いた席へドカリと座るメルセナリオ・・・巨躯にギチギチと椅子が悲鳴をあげる。

しかも縦だけでは無く、横にもガタイが良いので2人分の席を占領してしまった。



「もうプリームス殿が何をしても驚かんわ」

そう言ってメルセナリオはプリームスへ苦笑いを向ける。



スデラスとファブロは、プリームスが突然大量の武器を出した事よりも、その武器の品質に驚いたようであった。


「うむむ、これは凄いぞ! 昨今では失われた製法で錬成された金属では?!」

と品定めに夢中なスデラス。


ファブロはと言うと興奮した様子で、

「機能美による意匠も素晴らしい! これ程洗練された型は初めて見たのう」

それぞれの刀身の腹を撫でて言った。



そして直ぐに我に返るとスデラスは、プリームスへ言い放つ。

「これだけの物を持ちながらワシらに武器を作れとは・・・納得がいかん!」



プリームスは溜息をつくと自身の腕を掲げた。

そして腕を曲げて力み、力こぶを見せる。

しかし全くもって力こぶなど出来上がらない、真っ白で細く華奢な腕だ。

「これを見て見ろ、そこに置いた武器が振れそうな腕に見えるか?」



「あ~無理じゃな・・・」

「無理じゃの・・・」

「無理だな・・・」

スデラス、ファビロ、メルセナリオが口を揃えて同じ意見を言った。


そして笑いを堪えるフィエルテである。



テーブルに置かれた数々の武器は、大の男なら片手で簡単に振れる物ばかり。

しかし今のプリームスには、持ち上げるのも少し辛そうである。


こうして一同は、プリームスが武器制作依頼したがる理由に納得がいくのであった。

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